第29話「ユラーハの気持ち」

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 シーガーディアンの塔5階のボスのフロア。


                 ”ギーッ”


 スカイブルーの大きな扉を開いたのはユラーハであった。

彼女は宝箱に手をかける幸達に話しかける。


「あぁ……、ついにここまで辿り着いたのですね。

 その中にはわたくしの大切なビスチェが入っておりますが?」


「えっ!!

 ユラーハ!!!」

後ろからの突然の声に振り返った幸が驚きながら叫ぶ。


 ピーネが宝箱に入っていた神秘的な光を放っているビスチェを足でつまんでいたが、幸は咄嗟につかんで箱の中に押し戻しながら言う。

「なっ、なんでここにユラーハが!?」


「ここがわたくしの家で、そしてわたくしの部屋だからですわ。」

女の子過ぎる雰囲気と乱雑に散らかった部屋を恥じてか少し顔を赤らめて言った。


 シーガーディアンの塔は、ウンディーネであるユラーハの家だったのだ。

ワタークに恋をし、この地に留まると決めた時に自動的にダンジョンが生まれたらしい。

 このダンジョンは特に悪さすることもないのに、モンスターが強力なことと、懸賞金が付いたことにより、冒険者が集まって来たのだ。


「そうだったのかぁ……。

 早く言ってよ!

 じゃあ攻略とかそう言う話じゃなくなってくるね……。」

幸は言う。


 ダンジョン攻略の目的は、ボスを倒し、ダンジョンコアを手に入れて、懸賞金の30万プオンを手に入れる事であった。

 しかし、ダンジョンが知り合いの家であったのなら、流石にダンジョンコアを頂くことは出来ない。

 それが破壊されるまでは、ダンジョンは維持されるものの、一度破壊すると、ダンジョンは崩壊する。

 ユラーハの家が無くなるのだ。


「そのことなんですが、幸がここまで来られたらこれをお渡しするつもりでしたの。」

ユラーハが差し出す手にはごろっと乗った手のひらだいのオーブが光る。


「何これ?」

幸が言う。


「ダンジョンコアです。」

ユラーハがあっけらかんと言う。


「ダンジョンコア!?」

幸は初めてみるそれに驚き叫ぶ。


 ダンジョンはダンジョンコアが破壊されると消滅する。

それほどダンジョンに取って重要なものなのだ。


「この前、幸とお話した時にもうこの恋は諦めた方がいいのではと考えたのです。

 もしそうならわたくしはまた海に還るだけ。

 この塔はもう必要ありませんから。」


「えぇえっ!?

 好きなんでしょう!?

 ワタークもワタークなりにユラーハの事考えていたよ!

 ちゃんとユラーハから気持ちを聞いた方がいいよ!」

幸は訴える。


「……怖いのです……。」


「えっ?」

幸は聞き返す。


「ワタークがわたくしの事をどう思っているか尋ねるのが怖い……。

 ウンディーネのわたくしに迫られて仕方なく今の関係でいるのかも知れない……。」

ユラーハは俯いて呟く。


「だから、灯台の下に種を蒔いて、花を咲かして、真実の愛が欲しいのです……。」

ユラーハの頬は涙が伝う。


 ウンディーネと言う精霊の力故に、ワタークは一緒にいる事を強制されているかも知れない。

 ユラーハが花占いに固執するのは、これならワタークの忖度ない気持ちが知れると思っているからだった。


「……。

 ワタークはユラーハの事愛してるよ……。」

幸の声が自然と小さくなる。


 異世界に来て日の浅い幸には、人間と精霊の関係性が分からない。

 ユラーハになんと言ってあげれば良いか分からないのだ。


「恥ずかしい所を見せてしまったわ……。

 とにかくそのダンジョンコアはお渡しします。

 どうするかは幸がお決めになって。

 あと宝箱の中身は持っていかないで。

 ……ミミックは気持ち悪いからあげる。」

涙を見せまいと後ろを向いてユラーハが言った。


「ダンジョンコア……。

 分かった。これはしばらく預かるね。」

幸は難しい顔をしながら了承した。


 シーガーディアンの塔全5階。

幸達はついに踏破する事には成功した。

しかし、ただ手放しで喜べるようなことで終りはしなかった。


……………。


……。


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