第28話「シーガーディアンの塔5階」
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【ゲリラライブまであと4日】
…………。
……。
「あーっ、幸様ぁー。
今日も来られたのですねー。」
パタパタと羽を震わせ喜びを表現する4階ボス。
「やぁパズズ!
いよいよ5階に行って来るよ!」
ダンジョンポータルが握りながら幸が言う。
幸達は、今日はダンジョンの攻略へ来ていた。
「いよいよ最後のフロアだぞ!
幸!!
俺が絶対守ってやるから安心しろよな!」
ピーネが”えっへん”と鼻を鳴らしている。
「……いつもありがとう。
ピーネ。
さぁ行こう!」
幸はドキドキと胸を高鳴らせる。
「頑張ってねー。
応援してますー。」
パズズは手を振っていた。
見慣れた次の階へ上がるための螺旋階段。
この先には何が待っているのか。
2階は3択の道。
3階は広いフロアの台座のギミック。
4階は18択の道であった。
では5階は?
流れからすると広いフロアなのか?
もう階段は終わり、5階が見えて来ていた。
「あれ?
これが5階のダンジョン?
一本道だぞ……。」
幸は全く想像していなかった景色に驚いた。
5階はダンジョンの様な難解な仕掛けや迷路ではなく。
ただただ、ボス部屋へ続く道があるだけであった。
「まぁ、早く攻略出来るならそれでいいのか……。」
幸は先ほどの”ドキドキ”を消化不良にしている。
「幸!
早く行こう!!」
ピーネは幸の腕を引っ張りボス部屋へといざなった。
ボス部屋の扉は今までのより大きく、そしてスカイブルーだった。
「きっとここのダンジョンマスターはこの色が好きなんだろうね。」
幸が”ふんふん”と感心しながら言う。
シーガーディアンの塔は外見もスカイブルーである。
「行こう!」
ピーネが扉に手をかける。
今日はピーネも元気満タンだ。
万が一の急襲があったとしても、ピーネが先頭。
よほどの事がない限り対処出来るであろう。
幸もギターを既に抱えている。
何が起こってもいいように部屋に入った途端にギターを掻き鳴らすつもりだ。
“ギーッ”
大きな扉が音を立て開いていく。
”ジャラァーン♪”
幸はギターを掻き鳴らしている。
しかし、準備万端でボスのフロアに入った2人の目に飛び込んできたのは……。
スカイブルーの爽やかさを基調とした、部屋だった。
何というか生活感がびっしりの個人の部屋。
入って左側にはドレッサー。
筆やビューラー、パフなど化粧道具が散乱している。
その奥には青い天幕が華やかなフリルと共に浮かんだ、シングルサイズのベッド。
掛け布団は抜け出したままのように無造作にめくれていた。
右手には絢爛華麗な衣装が掛かったクローゼット。
とその下には脱ぎ捨ての服が散らばっている。
そして、奥には二つの宝箱が置いてある。
誰がどう見ても女子の部屋という作りである。
「……これがボスの部屋?
しかもボス不在……。」
幸が首を傾げる。
ダンジョンのボスの部屋自体が女子部屋なのも意外だが、そもそもそのボスがいない。
完全な肩透かしであった。
「幸!
宝箱開けよう!!」
ピーネが目をキラキラとさせて宝箱まで走っていく。
ここはダンジョンである。
宝箱があるのであればそれは当然開けていいのだ。
本来はボスを倒したら手に入るのであろうが、居ないのであればしょうがない。
「そうだね、きっと凄いマジックアイテムが入ってるよ!」
幸はこの世界のマジックアイテムが大好きである。
宝箱は2つある。
同時に開けるなんて無粋な事はしない。
「よし右から開けてみよう!」
幸が言う。
ピーネは4階で見つけた宝箱と同じように雑に、蹴り上げて蓋を開けた。
「あぁあ!!
そんな開け方!?
アゴが外れるぅう!!」
突如として、宝箱が歓喜の悲鳴をあげる。
「おぉ?
こいつミミックだ。」
蹴り上げたピーネが呟く。
「あっはーっ!!
そうです私ミミックでございます!!
なのでもっと、叩いたり蹴ったり、私にご褒美をください!!」
ミミックは口をパカパカとさせて叫んでいる。
宝箱に擬態した魔物ミミック。
蓋を閉じていたら全く分からないが、蓋を開けた途端蓋の柄が目の様にギョロリと動き、開いた蓋の開き口は何の素材で出来ているのか分からないが、人間の口の様に立体的に可動している。
「なんだお前。
蹴って欲しいんか?」
そう言ってピーネはミミックに向けてかかと落としを決める。
”ズドン!!”
「あっはーっ!!
痛いーっ!!
そして気持ち―!!」
ミミックは恍惚の顔で叫ぶ。
ミミックは全く襲って来る様子は無く、ただただご褒美と言う名の暴行を求めていた。
「あぁ、そうか、俺がギター弾いたからもう大人しくなってるんだ。」
幸は状況を飲み込んだ。
「素晴らしい演奏でしたーっ!
私ギターも音楽も聴いた事なかったのですが、とても幸せな気持ちに近づきました。
更なる幸せの為には、どうかあなたも私を打ってください!!」
ミミックは目をハートにしながら、幸にすり寄って来る。
宝箱の形をしているミミックは少し浮いてホバーリングするようにして幸に向かって来た。
「……叩いて欲しいの?」
”ぽこっ”
幸はこの奇妙な生き物を叩いた時にある事を直感した。
「ねぇ、その蓋というか口の形、色々変えれるんでしょ?
もっと叩いてあげるから、色々変えてみてよ。」
幸はそう言うとポコポコとミミックを叩き出した。
「分かりましたぁ~!!
その代わり沢山叩いてください~!!」
待ってましたと言わんばかりにミミックは叫んだ。
”ポン、ボボン、ポン、”
幸はミミックの頭を色々な角度から叩いてみる。
幸に言われる通りに様々に口の形を変えるので叩く度に違う音色がする。
口を
しかしこのミミックの音。
反響して響く様な深い低音が感じられ、心地よいリズムが生まれる。
ミミックのサイズは幸が両手を目一杯広げて後ろの角に手が届く程度の大きさである。
そのサイズでは説明出来ないほどの深い音が鳴っていた。
「君の口の中ってかなり広いんじゃない?」
幸は叩きながら言う。
「あっはーっ!!
連打されて最高!!
そうです!!
私の腹の中は異次元となっております!
なのでもっとお願いしますー!!」
アへ顔で言うミミック。
「もういいよ!
君の事は十分に分かった。」
幸はそう言ってご褒美をやめる。
「なぁ幸。
そんな奴ほっといてもう一個開けよう。」
ミミックに空きたピーネが言う。
ピーネが隣にあるもう一つの宝箱に手をかけた瞬間……。
「あぁ、ついにここまでたどり着いたのですね。」
部屋の扉から声が聞こえた。
振り向くとそこには、ユラーハが立っていた。
…………。
……。
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