第27話「ゲリラライブの行い方」

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           【次の町民会議まで残り5日】


 広場のステージの前には、大きな看板が設置されていた。

あと5日経てばこの広場には町人全員が集まり、1000人以上の人でパンパンになる。

だが今は、漁師達の仕事も終わり、人っ子一人いないである。

 何故ならこの広場のそばには楽奴達が集まっているごみ処理場があり、人は音楽を避け寄り付かないからだ。


                 “♪~~~”


 幸とピーネは今日はダンジョン攻略はお休み。

楽奴達とゲリラライブのリハーサルをしていた。


「ええなぁー。

 みんなで演奏するのー。」

フーガスカはテトラポットに腰かけ羨ましそうに言う。


 フーガスカはクラウディア海岸からこの漁港まで泳いできて、リハーサルを聞きに来ていた。


 みんなの合奏はかなり仕上がっている。

 幸達がダンジョンに潜っている間、キヨラが完璧に楽奴達に曲を仕込んでいた。

あとは実際にキーパーソンである幸が入ったらどうなるのか確認する程度で、完成度はどんどん上がって行く。

 演奏に関しては、本番に緊張等からトチ狂う事が無ければ、素晴らしいものが聞かせれるであろう。


「フーガスカ。

 当日なんだけど、手伝ってくれない?」

幸はおもむろに相談する。


「もちろんえぇよー。

 うちも海をパシャパシャ叩いたるわー。」

誘ってもらえて嬉しそうなフーガスカ。


「そうだね。

 海の音も良いアクセントになるかも知れないね。

 もちろん参加してくれて構わないんだけど……。

 でも俺がお願いしたいのは……。」

幸が言う。


 幸がお願いしたいことは、当日のゲリラライブの方法だった。

ピーネがいるので空から行えるのなら簡単なのだが、広場には雨をしのぐための大きな透明な天井がある。空からのステージへの侵入は不可能である。

 可能なのは海から登場することだ。


「フーガスカに俺をステージ裏まで泳いで連れて来てもらって、どうにかステージまで担ぎあげて欲しいんだ。」

幸は言う。


 町民会議で領主が立ち、町民が見るステージは円形で、海に接している。

海面からはステージまでの高さはおよそ5メートルほど。


「あぁ、ええよー。

 担ぎあげるのは届かんから無理やけど、放り投げていいなら簡単やでぇ。」

フーガスカが応える。


 人魚というであるフーガスカからしたら、楽器込みでせいぜい60㎏もない幸を海から担ぎ泳ぎ、そこから投げることなど簡単である。


「ほんと!?

 ありがとう!!

 俺達がゲリラライブする方法はもうそれしか思い付かなかったんだ!」


 人々の目を、耳を釘付けにするには、まず幸が音を出さないとお話にならない。

なので、一番に幸がステージに立ちギターを掻き鳴らしたい。

幸が演奏しさえすれば当日沢山の警備兵がステージ周辺にいたとしても、釘付けにし、その間に堂々とステージへの階段を他のメンバーは上がって来れるはずである。

 それまでに待機している場所の問題もあが……。


「待機場所はゴミ処理所の中だ一番安心ではあるけど……。」


「あんな臭いのきついとこに隠れてるのかぁ!?

 俺はそんなの無理だぞ!!」

幸の答えに拒絶反応を起こすピーネ。


「そうだよね……。

でもあそこしかステージの周りに隠れていられる所なんてないよ……。」

幸は溜息交じりに言う。


 外からでも突き刺さるようなあの悪臭を生む、処理場の中で待機するなど正気の沙汰ではないが、方法はそれしかなかった。


 ピーネも楽奴達も頷くしかない。


「あとは俺の運動神経だよね。」


 幸の運動能力は0である。

幸の当日のミッションとして、フーガスカに担いでもらって海を航行する間、自分はギターがが水に濡れない様に担ぎあげつつ、ステージ裏到着後、フーガスカの遠投の衝撃に耐えつつ着地し、警備兵がステージに上がって来る前に、ギターを弾き始めなければならない。

 相当な体幹の持ち主でも、かなりの負荷がかかるはずだ。


「こればっかりはやってみるしかないからね……。」

更に深い幸の溜息。


「その辺のリハーサルは、前日にするとして、今は演奏をもうちょっとまとめようか。

 ……ほらフーガスカも次は参加してよ!」

気を取り直し幸は言う。


 今、その放り投げられるリハーサルをして失敗して身体を壊してしまったら詰んでしまう。

ダンジョンクリアを達成し、残す所ゲリラライブのみとなってから行いたい。

 一行は本番に向けての練習を再開した。


               “♪~~~”


「あぁ素晴らしい!

 こんな美しいマドモアゼル達が音楽を奏でると、こんなにも素晴らしい物になるのだね!」


 突如現れた男の声。

その男は海に向かい演奏していた幸達の背後で膝を突き首を垂れていた。


「ワターク!?」

幸が叫ぶ。


「あぁ、幸君。

 しっかりと話すのは初めてだね。

 マドモアゼルでもない君がこんなに美しい音色を出せるなんて知らなかったよ。」

首をもたげて”ニカッ”と白い歯を見せてワタークが言う。


 ワタークはゴミ処理場の管理チェックに来ていたのだった。

ここは海の環境を維持するとても大事な場所だ。

 しかし、ケイケスが領主になってからというもの、処理場は放置されているそうだ。

その結果異臭なども以前より強くなり、人もどんどん寄り付かなくなっていた。

 そこで嫌な役回りを買って出たのはワターク。

定期的に来てはメンテナンスと、私財を使って魔法使いを呼んで“フレイム”を唱えてもらっているらしい。


「なにやら、急を要するようだね。

 ごみ処理場の焼却はこの2、3日で何とかしよう。」

ワタークが言う。


「えっ!?

 いいの!!

 ありがとう!!」


 焼却を行えば、ごみ処理場の悪臭はかなり軽減するであろう。

ゲリラライブを行う為にはかなり重要な事であった。


「みんなが辛い事は僕がするのさ。

 僕はこのクラウディアの海と、そしてこの町と共にある男だからね。」

首を傾け肩をすかしながらワタークが言う。


「クラウディアの海とこの町を愛しているんだね。

 ユラーハの事は?」

幸は不意に核心をついてみる。


「ユッ、ユラーハ!?

 ……もちろん愛していさ。

 彼女と愛し合う為にこそ、このクラウディアの海を美しく保たないと駄目だろう?」


 ウンディーネ生命力と海の綺麗さは比例している。

汚染され淀んだ海では精霊は生きていられない。

ワタークの海を綺麗に維持したい気持ちの一番はユラーハを見据えての事だったのだ。


「もちろん、マドモアゼル達の事も愛しているよ。」

ピーネとフーガスカ、楽奴二人にももれなくウインクして見つめるワターク。


……女好きであることは間違いないが、しっかりとユラーハの事も考えていたワターク。

すれ違う二人の愛は、すこしのきっかけで巡り合うことが出来る気がする。


 町民会議まであと5日。

少しずつ嚙み合いだす歯車は二人の恋も動かして行くのだろうか……。


…………。


……。 


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