第26話「シーガーディアンの塔4階攻略」

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 3階を攻略したそのままに、幸とピーネは4階を駆け上がって来た。

その目の前に出てきた光景は、全方位の無数に枝分かれした先の見えない道だった。


「こっこれは、2階の道数がずっと増えたって感じなのかな?」

幸は考える。


 シーガーディアンの塔3階は、魔物を全て倒してしまったがばっかりに、にっちもさっちも行かなくなってしまった。

もう時間もない。そう言うミスは許されない。

 ただ、今眼前にあるのは、2階と同じように、道を一つずつ潰して行って、正しい道を見つけるというダンジョンの王道的攻略法で済みそうな姿かたちをしていた。

ただその道数が2階の3本と比べると、6倍の18本あり幸達の目の前に現れている。


「幸!!

 大丈夫。

 俺に任せろ!」

ピーネは”ブニュ”と胸を叩きながら言う。


 2階の時は3つあるうちのたまたま1本の正解を一発で引き当てた。

今回は18本ある道だ。幸は戦闘に置いてほとんど戦力にならない。

 魔物全部をピーネが相手にしなければならないが。それでもピーネは大丈夫と言った。


 向かって一番右手の道からピーネが勢いよく飛び掛かって行く。

幸もピーネを追いかける。

 真っ暗な道をどんどん先に飛ぶ彼女はもう既に見えない。

ただ、ギターケースの灯りを頼りに進んで行く幸は、落ちている魔硝石の数でピーネが魔物を倒しながら先に進んでいるのを把握する。


「この道なんもなかったぞ!」

ピーネが残念そうに言いながら折り返して来た。


 完全に行き止まりの道だったようだ。

2人は次の道を行く。


 4つほど同じ様な問答を繰り返した後だった。

6つ目の道で折り返して来たピーネが言う。


「奥に何か宝箱があるぞ!!」


 ピーネに掴まり飛んできた先には確かに宝箱があった。

それは赤茶色をしていて、煌びやかに装飾が施され、蓋の部分はアーチ状に丸く作られた如何にもな形をしていた。


 そして何より……。


「蓋が開いてない!!」

幸は目をキラキラさせて言う。


 1階の宝箱は冒険者に全て開けられていたが、この4階までは幸達しか来ていない。

 幸にとって初めてのダンジョン攻略中の宝箱である。

冒険者はこれを得るためにダンジョンに潜るのだ。

幸にも一体何が入っているのだろうかと、わくわくした高揚感が込みあがって来る。


「……よし。開けようか!」


 幸が手にかけたその時。


「幸!!

 俺が開ける!!」

ピーネが“えっへん”と鼻を鳴らして言う。


 ダンジョン内の宝箱の開錠は、と呼ばれる魔物が化けていたり、電流を発する罠が仕込まれていたりと、往々にして危ない事が多い。

 普通は”スカウト”と呼ばれる鍵を開ける専門の職業に就く者が開けるものである。

 ピーネでも知っているファンタジーの常識らしい。

多少の危険があっても自分なら大丈夫と買って出たのだ。


                 “ガチャ!”


 ピーネは恐れも無く蓋を開く。

今回の宝箱は特にトラップは仕込まれていなかったようだ。


「なんだこれ?」

ピーネが入っていたものを掴んで掲げた。



「きっとマジックアイテムだろうね。」

幸は受け取りまじまじと見て言う。


 マジックアイテムなのであろう、それは円錐の形をした黒い塊であった。

それは人に下半身がすっぽり入る大きさで、重量は大きさ程には重くはなかった。

当然、説明書が付属しているわけもない。使い方が分からない代物だ。


「また時間がある時にこれが何なのか調べてみよう。」


 今はこのマジックアイテムが何かはそこまで重要ではない。

それを袋に仕舞い、2人は探索を進めた。


 それは18本目の道を探索している時であった。


「……幸。

 こっち。扉あった。」

“ヘロヘロ”と折り返して飛んできたピーネが言った。


 18本ある道だ。どれか一つは当然正解だが、まさか最後の一個まで当たりを引くことが出来ないとは……。ここに来て幸の運の悪さが露呈する。

流石のピーネも魔物を倒し続けて疲れた様子であった。


「ピーネ。

 頑張ったね……。

 ありがとう。」

幸はヘロヘロと自分の胸に飛び込んで来たピーネの頭を撫でながら言う。


 2人は飛んでではなく歩いて、扉までたどり着く。


 幸の眼前に現れたのは、明らかなボス部屋と言わんばかりの大きな鉄の扉の部屋だった。


 こういう扉は今までピーネが軽々と開けてくれていたが、今は疲れている。

幸の男を魅せる時だ。


                “グググッ”


「ぐっ……。

 ……うぉ~!」

幸は渾身の力と声を出して扉を押す。


 両手いっぱいに力を込めて扉を押すが扉はびくともしない。

それでも幸は顔を真っ赤にしながら押し続けた。


                 "ギーッ"


 扉が少しずつ開いて行く。

幸の様に非力であっても、諦めずに自分を信じて前進すれば必ず目的は叶うのだ。

 

 ……そう言う話ではなく。


「さぁ先行くぞ!」


 幸の後ろからちょっと元気になっていたピーネが扉を押していた。


 なんとかボス部屋に入れた2人が見たものは、案の定部屋の中心に佇む魔物だった。

 そいつは、牙を向きだ出したライオンの様な頭に、大きな羽を携えた黒い姿をしている。

尻尾も生えており、それは長く、そして先端はサソリの様に鋭利な何かが付いていた。


「良かった。

 ここのボスもいつもと同じ感じだ。」

幸は安堵を吹かした。


 雑魚敵相手にピーネはもうヘトヘトになっている。

ここに来てボスとの戦いまであれば危なかったかも知れない。

 しかし、今までの階層同様に、ボスはこちらが一定の距離まで近づかないと、真ん中から動こうとしない。

ならばあとは幸のギターを聞かせればいいだけであった。


                ”♪~~”


 幸はいつも通りに近づきながらギターを弾く。


「なんだこれー。

 心がぽかぽかすっぞー。」

黒い魔物が目をスピスピさせながら言う。


 幸はさらに近づいていく。


「あぁなんだこれー。

 これが幸せってやつかー。」

ボスはそう言いながらうつぶせに倒れ込み、羽をパタパタさせていた。


「こんにちは。」

幸はボスの顔を覗き込む。


「お前は誰だー。

 お前の鳴らすそれ、最高に気持ちいいぞー。」

ボスは目をハートにさせて言う。


「俺は幸って言うんだ。

 君はここのボスだよね?」


「僕はパズズって言うんだー。

 幸様ー。

 これをもらってください」

パズズと名乗る魔物が何かを差し出す。


 ダンジョンポータルだった。

これでいつでも4階のボスの間に戻って来れる。


「ありがとう。

 また来るよ!」

幸はポータルを大事にしまった。


 これでシーガーディアンの塔は残す所、5階層のみになった。

遅れを取り戻す一日で2階駆け上がるファインプレーだった。

 5階は後日と一度帰還することにした幸とピーネ。


 町民会議まであまり時間も残されていない。

キヨラの救出、ダンジョン攻略、ゲリラライブ。

しなければならない事は沢山ある。

 タイムリミットは近づいて来ているのであった。


…………。


……。


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