第25話「シーガーディアンの塔3階攻略」

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【ゲリラライブまであと6日】


…………。


……。


「あああっ!!!

 まっ、魔物が沸いてる!!!」


 歓喜の声を出したのは佐倉幸さくらこう

シーガーディアンの塔3階にて、ずっと足止めを食らっていたのが遂に動き始めたのだ。


 ダンジョン内の魔物が再び出てくる事をと呼ぶ。

 魔物がリスポーンされる条件はダンジョンによるが、時間経過やダンジョンマスターが再配置を行った時である。


「おお!!

 幸!!魔物いっぱい!!

 俺が倒して来る!!」

キラキラとした目で言うピーネ。


「ダメダメダメ!!!

 今から音楽を聴いてもらって言う事を聞いてもらうんだから!!」

目を離せば一瞬で飛んで行きそうなピーネに後ろからしがみついて幸が言う。


「ちゃんと飛んでてね。」


 ピーネに腰辺りを掴んでもらいダンジョン内を滑空しながらギターを弾く。ダンジョン3階の隅々にまでギターの音色が届く様に奏でて行く。

 その様はまさに(フライングⅤというギターのシリーズがある)であった。


        ”♪ダダダダダダダダ……↑””♪ダダダダダダダダ……↓”


 幸がいつも左手の運指をフレット(目的の音高を出す為にギターに打ち込まれた棒状の金属。)ごとにスムーズに動かす練習を奏でる。


 ギターの弦は6本あるのだが、構えると上から6弦が一番太く低い音がし、1弦が細く高い音がする。まず6弦の1フレットから4フレットまで単音弾き。

つまり左手人差し指から順番に小指まで弾くと、次は5弦、4弦と弦を変えて同じことをする。この時音は半音ずつ上がって行く。

 そのまま1弦で小指まで弾き切った後に、次はそのまま1弦の2フレットから5フレットに運指をずらし今度は5フレットの左手小指から人差し指の2フレットまでと順番に音を出す。この時は音は半音ずつ下がって行く。

そのようにして人差し指で2フレットまで弾いたら、2弦、3弦と同じことをする。

 6弦までたどり着いたら今度は6弦の3フレットから6フレットにかけて人差し指から順に弾いて行く。これを繰り返す。


 ギターの初歩の一番オーソドックスな練習法である。

幸はギターを初めて触ってから今日に至るまで、一日と欠かすことなく毎日弾き続けている練習なのである。


「なんだこれ!心がザワザワする。」

「音の粒が見えるみたい。」

「気持ちいい……。」


 魔物達は幸のギターを聞き、目がハートになっていた。

というよりをしていたのにも関わらず、心を虜に出来る幸のギターの魔力である。


「みんなお願いがあるんだ!

 それぞれの近くにある台座に座って欲しいんだ!!」

幸が飛びながら、魔物達に聞こえる様に叫ぶ。


 幸の叫びが合図になった。


              「「俺だ俺だ!!」」

            「「「「俺が座るんだ!!!」」」


 10個の台座を巡り魔物達の椅子取り―ゲームが始まった。

恐ろしい体躯の魔物達のガチの身体のぶつかり合いである。


 シーガーディアンの塔の3階の魔物、ザッと見て、30匹はいる中で、立った10席を取り合うのだ。

 混戦必死の大デットヒートが始まっていた。


 それを見た幸はつい”オクラホマ・ミキサー”弾いてしまう。


                 ”♪~~~”


 幸が弾き切るか弾き切らないかで、勝者が決まり、10席を勝ち得た魔物が台座に座る。

 そうすると、ボスの扉付近の床が”ゴゴゴゴ”とせり上がり、鍵が出てきたのであった。


            「「「幸様!また来てください!」」」

           「「「「いつでも我々は力になります!」」」」


 魔物達はそれぞれに幸に別れを告げる。


「ありがとう!みんな!」

幸がカギを掴みながら叫ぶ。


 この階層のギミックは10の台座に座るで合っていたようだ。

出てきた鍵を大きな扉に差してみる。


                ”カチャリ”


 小気味よい音がして扉が開いた。

幸とピーネはその扉の中に入って行く。

すると案の定部屋の中心で佇む強力なオーラを身に纏う魔物と出くわした。


             「ゴォオオオ!!!」


 その魔物は後ろに反り返った大きな二本の角を頭にはやし、目はギラギラと輝いて、鋭い牙を向き出しにした恐ろしい形相をしていた。

 何よりもサイズがデカい。天井に二本の角を”ズリズリ”と引きずり獲物を探していた。

 しかし、やはりダンジョンボス。フロアの中心から動こうとしない。

幸はギターを構え今までの様に弾きながら近づいていく。


「嗚呼、なんであるかこの音は!

 天上天下唯音独尊。この音こそ世界の心理である!」

ボスは痙攣しながら金切り声をあげる。


 幸はそんなにかなぁ?と思いつつも距離を詰め、ついにボスの目の前まで来た。

すると遠目よりも遥かに大きなサイズであって、首の骨が”ボキボキ”と鳴るほど上を向いて、やっとのことで相手の顔が見える位置にあった。


「我の名はクランプス。

 信じがたき天上の音を賜う人間様よ。

 名はなんと言う?」


「俺は佐倉幸だ!」

流石に毎度のパターンで違和感も感じずに返答する幸。


「幸様か……。

 真に美しい音だ。

 我は虜になってしまった。」

クランプスは続ける。


「これはこの階のダンジョンポータルだ。

 またここに来てその素晴らしい演奏を聞かせて欲しい。」

頭を垂れて、幸にマジックアイテムを差し出す。


「ありがとう!!

 またたぶん来るよ!!」

幸は曖昧な返事と共に、ポータルを受け取り、ピーネと共に、次の階層に駆けあがって行った。


 もうのんびりしている時間はあまりない。

3階クリアならばすぐに次の階を目指すべきなのだ。

 今日4階をクリア出来たら、3階のポータルは使う事はないであろう……。


 シーガーディアンの塔は全部で5階と言われている。

次の階は4階だ。

 いよいよ完全攻略にも近づいて来た。


幸とピーネは勇み足で次の階層を駆け上がって行くのだった。


…………。


……。


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