第36話「そして彼女が女王様になったわけ①」
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【ゲリラライブまで後10日】
…………。
……。
バロック調の丸い屋根が”ぷちゅっ”と空を突き差そうとしている。
その屋敷はザンスター・サオールズの町を見下ろすように丘の上に建っていた。
以前はザンスター家が住んでいたのだが、この屋敷は代々領主が住むものとなっていた。
”トポポポッ”
屋敷に似合うクラシカルなエプロンドレスを着る給仕がグラスに注ぐ。
注がれて満たされたグラスのステムを、手の股に挟みケイケスはクルクルと回す。
メイドに作らせた赤い海は波を寄せてその存在を匂いや音で証明する。
彼は恍惚の笑みを浮かべた。
そして芳醇な匂いを鼻腔に集めたなら残す事はあと一つ。
”クイッ”
ケイケスが一気に喉にワインを落していく。
ケイケスの頭が傾くことにより、照明の反射角が変わり、眩しい光がキヨラの目に落ちて来た。
ここはケイケス邸の彼の部屋。
居るのはケイケスとメイドとキヨラとニナの4人だけである。
キヨラは港の広場で、ケイケスに捕まった後、そのままこの屋敷に連れさられた。
そしてケイケスの部屋に後ろ手に縛られ転がされていたのだった。
ニナはBGMの様にヴァイオリンを奏でている。
その音にキヨラ以外は関心が無い。
「んふぅー。
こんな美しい娘、この町では見たことがないねぇ。」
ワインで少し顔を赤くしたハゲが、あごに手を置きまじまじとキヨラを見つめる。
転がされ、はだけた足がスラーっと伸びていた。
キヨラは眩しいのを手で遮りたいが縛られているので、眉間に皺を寄せ目をつむっている。
それでも美しい顔立ちだ。
「この屋敷に来たからには、助けは来ないねぇ。
何されてもしょうがないよねぇ……。」
ニヤニヤと汚い笑みをキヨラに向けた。
残っていたワインを飲み干し、グラスをメイドに渡す。
渡した手でそのまま何かを掴んでケイケスがキヨラの元へ向かって行く。
”パァン!”
ケイケスが取り出した何かを胸の前で勢いよく引いた音だった。
それは黒い柄の部分に革の紐が付いた鞭と呼ばれるものだ。
「これから、お前はこの鞭で何をされるんだろうねぇ。」
ケイケスはキヨラを見下ろして言う。
そしてケイケスは横を向き、左手の股を広げ、腕を水平方向に出す。
”トポポポッ”
メイドが満たしたワインを開いた股に挟んだ。
”クイッ”
「あぁゾクゾクするなぁ。
お前はどんなか悲鳴を上げるんだろうなぁ」
”シタァン”と床に鞭を叩きつけてケイケスは
キヨラは、自分の思惑が浅はかだったと顔を曇らせる。
縛られているが故にダンジョンポータルも起動させれない。
ザンスター・サオールズの攻略はそれなりに順調に進み、気が大きくなっていたのかも知れない。
チャーコがケイケスの気を悪くさせた時、その意識をチャーコから逸らすには自分に向けるしかなかった。
そして、屋敷に行けば攻略の為の糸口が見つかるだろうと考えた。これはチャンスだと。
しかし鞭打ちをされようとしている今、ここから何が起こるのかキヨラはある程度想像がつく。……身震いをしてしまう。
町民会議でのステージに上がるためのプランとして、公開処刑の対象者としてステージにあがることは出来ないか?それは当初から考えていたことだった。
町民会議まで自分が安全という保障は何処にもないのに。
ケイケスの部屋には手錠や足枷、縄やボンテージなど様々な拘束具が揃っており、彼の性癖が散見できた。
「くっくっく。
ははは。
はーっはっはっは。」
高々と天を見上げ大笑いするケイケス。
そしてケイケスは横を向き、右手の股を広げ、腕を水平方向に出す。
メイドはその股の間にあるものを差し込む。
それはフィットして”シャキシャキ”と小気味よい音を鳴らした。
キヨラは目を疑う。
迫って来たケイケスが持っているのはハサミだ。
おもむろに手首と手首を繋ぐ縄の間にそれを差し込んだ。
”シャキン”
キヨラは急に解放される。
「女王様ぁ!!!
これでわたくしめをいたぶってくだぁさいぃ!!!」
ケイケスはキヨラの足元に跪き、持っていた鞭を差し出す。
「え?
どういうこと?」
キヨラは状況が飲み込めない。
「あーっ……、あれなのよ。
このハゲ、酔ったら滅茶苦茶Mになる変態なんの。」
カチューシャを外し、指でクルクルと回しながらメイドが言う。
「あぁ、終わった終わった。
いつもならこいつに酒飲ましたら、その役すんのあたしなんだけど。
今日はあんたよね。
私は今日はもう部屋戻るから。あとよろしくー。
あっ目が覚めたら完璧に記憶失くしてるから、ちゃんと捕まっているみたいに寝転がっとくんだよ?」
手をヒラヒラとしてメイドは出て行った。
ケイケスは町民会議で拷問して公開処刑を行うほどに異常なまでの加虐嗜好の持ち主である。
しかし、酒を飲むと恐ろしいどの付くMに変わるのだそう。
キヨラの美貌は鞭を手に持つと確かに女王様と呼びたくなる程だ。
”パシン”
ためしに鞭を胸元で弾いてみた。
キヨラの背中には得も言われぬ”ゾクゾク”とする浮遊感が滲む。
「これで遊んで欲しいんだよね?」
キヨラは首を傾げてケイケスを見下ろした。
「あぁ女王様!!!
さようでございます!!
この豚に愛を打ってくださいませぇー!!!」
キヨラの脚もとに縋りつき叫ぶ豚。
”パァン!” ”パァン!!”
破裂するような音が大きな屋敷の中に響き渡っていた。
この夜のことはこれ以上を語れないが、ひとまずのキヨラの安全と、そこしれぬキヨラの目覚めが両立した夜だった。
破裂音とミナのヴァイオリンは明け方近くまで鳴り続けたそうだ……。
…………。
……。
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