第35話「町民会議②」

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 "ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ"


 ザワザワのゲシュタルト崩壊である。

某賭博黙示録のお話でしか見ない光景。


 会場は騒然としていた。

それもそのはずである。

 好かれてはいないにしても、この町の長である領主貴族であり、この会議に名を冠している、ケイケス・サオールズ。

 その男が今、ステージの上で殆ど産まれたままの姿で、四つん這いになり、その中央で立ち尽くしているのだ。


「あいつなんであんな格好してるんだぁ?」

ピーネが疑問符を浮かべる。


「きゃー!」

チャーコはそう言いながら手で顔を覆いつつ指の股からガン見。


「あらあら。」

鍵盤ハーモニカの女は顎に手を突き呟く。


 警備兵達も状況が把握し切れず、動く事が出来ない。


「んー?

 なんなんあれー?

 ステージのとこで裸のおっさんが動物みたいな格好になってんでー?」

海から会場を覗くフーガスカが言う。


 魔物は種族にもよるが人間より遥かに身体能力が高い。つまり、視力も良い。


「えっ!?

 どう言う状況!?」

宝箱の中から身を乗り出す幸。


 200メートルも離れているわけだから、現代人の佐倉幸には見えるはずもなかった。


「よう分からんけどー……。

 もう行っていいって事ー?」


「分からないけど、おっさんてことはキヨラはまだステージにいないんだよね?」

幸の念押し。


「だったらもう少し様子をみてみよう……。」


――町民会議会場――


 この町の長の奇特過ぎる姿。

町の人々はこれから拷問ショーが開催されるのを嫌々待っていた。


 開幕予想外過ぎる展開に、誰も頭がついて行かない。

その異様な雰囲気に包まれている会場の空気をさらに加速させたのは"靴音"だった。


              "カツ カツ"


 小気味の良い革靴の音が、馬車の方から聞こえて来た。

 それは黒光るピンヒール状になっている、ニーハイまで伸びたブーツが、ザンスター・サオールズに着地する音。

 その音の主は、美しい太ももが際どい部分まで露出され、胸や尻、細い腰、その美しい体躯がぴっちりとした黒いボンテージスーツによりより強調され、見る者に神々しさすら感じさせていた。


 この会議のメインは公開処刑である。

馬車から降りて来た人物は2人。

 その2人がステージに上がる主役だ。


 1人は汚らしい白豚みたいになっているケイケス。

 もう1人は、ケイケスが執行人で有るならば、罪人であるはず。

つまりこの町民会議のやり玉に当たる人物。


 そう。

キヨラだった。

正確にはおそらく……、だが。


 その女は蝶の様な形のフェイスマスクを付けており、顔は見えない。

 ただ、サラサラと伸びた蒼い髪やそのプロポーションから、そうだとしか思えない。


 その女は"ツカツカ"とヒール音を立てて、ステージに上がって行く。


 会場全員が息を飲み、声が出せない。

息を奪う程の女がステージ中央に立つと、ケイケスはその足元に額を擦り当てる。


               "シタァーン!!"


 彼女が手に持つ鞭を勢いよく引っ張り、小気味の良いしなり音を放った。

それが合図だった。

 

 その女は次に、足元に転がる豚の様なケイケスの猿轡を解いてやる。

 すると、警備兵に混じっていた魔法使いが詠唱する。

 それをケイケスに付与した。


 それは音を増幅する魔法だった。

現代で言う所の拡声器の役割だ。


「これより町民会議を始める!!」


 ケイケスが、”威厳しかないぞ!!”と言うような声で、会場にその声を響かせた。

 ブリーフ一丁で。四つん這いの格好で。

威厳などあるはずの無い格好で。


 この異様過ぎる光景は、捕まってからのキヨラに何があったのかを語らなければ説明はつかないだろう。


…………。


……。


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