第23話「キヨラ捕まる」
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空は濁った表情で下界を見つめる。
そして涙を流すように大粒の雨が地上に降り注いだ。
海は恋焦がれた空の一部……、雨がついに己の身体に染み込み狂喜乱舞。
感情の高ぶりとして、波が呼応して荒々しく寄せて返していた。
幸はピーネに掴まれ、キヨラがいるであろう船着き場を目指した。
ダンジョンからそれなりに距離はある。町民にピーネと言う魔物が見つかるリスクもある。
それでも、大切な仲間キヨラのピンチに駆けつけるのを阻む理由にはならなかった。
“シュタッ!”
幸達が船着き場に着いた時には、海は凪いで静寂を演出していた。
幸は一心不乱にキヨラを探す。
広場だけでもかなり広い。
ゴミの収集場、更に漁業を営む人々が仕事をするエリアを含めれば相当な範囲になる。
それでも幸はキヨラを探す。現実世界で、家族以外でこんなに大切に思う人はいただろうか……。
しかし、彼女の姿は見えない。
「キヨラァー!!!」
幸は必死に叫ぶ。
…………。
……。
声は虚空に消えていく……。
……しかし、虚空を掻き分けて静寂を破く者が現れた。
「幸さん!!」
ピンク色の髪の毛をぐしゃぐしゃにした女の子が立っていた。
「……キヨラさんはケイケスに連れて行かれちゃった。
ごめんなさい!私のせいです。」
チャーコが大粒の涙を流して言う。
ここで幸は初めて事の顛末を聞くことになった。
チャーコが言うには……。
……。
…………。
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…………。
……。
「償うためには、まず私の館に来る必要があるよなぁ。」
ケイケスは舌をペロリとさせて言う。
「……。
……。
そうですね。
彼女の代わりに私が領主様の屋敷へ伺わせてもらうわ……。」
キヨラは提案を飲む。
「ふむ。
聞き分けの良い子だ。」
ケイケスは満足そう。
嵐の様に突如現れたケイケスは、キヨラを連れて屋敷へ戻って行った。
チャーコは、妹への想いが先行し、声をあげミコの元へ駆け寄ってしまった。
領主に一般市民が近くに寄ることも問題だが、何より楽奴であるチャーコだ。
それにより、楽奴が……。本来の喋らない意志のない置物の様な物が声をあげた。
そんな異常な状態にあると気づきかけたケイケス。
チャーコが捕まってしまうと、町民会議でのゲリラライブも警戒され、そもそも行えないかもしれない。
ケイケスが抱いた意識をズラす為に、代わりにキヨラは捕まった。
ただキヨラは、これをチャンスだと思っていた。
屋敷に行けば町民会議での隙を見つけられるかも知れないし、ミナの事も正気に戻すタイミングがあるかも知れない。
何より当初から考えていた、死刑の対象者になるプランもここからなら狙えるかもしれない。
…………。
……。
「なるほど……。
キヨラは領主のケイケスに連れていかれてしまったんだね……。」
幸はチャーコの言葉を飲み込み状況を把握する。
共鳴のミサンガが鳴ったのは、キヨラのピンチだったと言うわけではなかった。
チャーコに対して逃げてと強く思った思念が、幸達に届いたのだった。
「キヨラに命の別状はないんだね……。
……良かった。」
最悪の事態を想定していた幸は安堵した。
安心した途端、腰が抜けてその場合に座り込む。
手は"ぶるぶる"と震えていた。
キヨラが、大切な人がいなくなるかも知れないということ。
幸にとってはこの世界で初めて出来た人間の仲間だ。いなくなるなんて考えられなかった。
”逃げて”と仲間に伝える状況は、往々にして非常に危険な状態な事が多いはずだ。
捕まったとは言え命に別状は無い。
ひとまず最悪の事態を逃れていたことは幸達にとって本当に良かった。
しかし、町民全員の前で拷問を行う様な狂気の人間に捉えられてしまった事実は変わらない。
館に着いたキヨラがどのように扱われるかなど想像も出来ない。
しかも、幸達は町民会議が行われる残り10日を、キヨラがいない状況で立ち回らないと行けなくなった。
未だダンジョンの攻略の糸口も、ゲリラライブを行う為の方法も考えられていない。
まだまだ、時間があると高を括っていたのが、今は町民会議までにあらゆることが間に合うのか、怪しくなってしまった。
それでも、【成すために】幸達は歩みを止める事は出来ない。
今は答の見えない道を闇雲に進んで行くしかないのである。
…………。
……。
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