第21話「キヨラと町」

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【ゲリラライブまであと23日】


…………。


……。


                “ガチャン”


 キヨラが、なんとかやっとのことで持ってきた袋に入った大量の魔硝石。

机に置かれて、ぶつかり合って音を立てた。


「こっ、こんなに沢山の魔硝石を持ってきたのかい!?」

黒いローブの三角棒を被ったお婆ちゃんがおののく。


 キヨラが一人で一番最初に向かったのはザンスター・サオールズの魔法ショップであった。


 この"ザ・魔法使い"と言ういで立ちの店員に、ダンジョンで手に入れた魔硝石を売りに来たのだ。


「こんな大量の魔硝石なんて、A級の冒険者が2週間ダンジョンに潜っても手に入れられるかどうかって数なんだけどね。

 こんなお嬢ちゃんが悠々と持ってくるなんてね。

 初めてのことだね。」

魔法使い歴何十年か分からないおばあちゃんの言葉。


「……ゼーゼー。

 ゆっ、悠々なんて事は無いんですけどね……。」

キヨラは、息も絶え絶えに言い放つ。


 ダンジョンで手に入れた魔硝石の中から、キヨラが持てるだけの石を厳選し、ピーネに途中まで運んでもらった。

 重量にして30キロ程であろうか。

 ピーネと幸がダンジョンへ向かう為別れた後、この魔法ショップに1人で決死の覚悟で運んできたのがこの大量の魔硝石と言うわけだ。

 今回は小ぶりな物を中心に集めて持って来たが、ベースキャンプにはまだまだ大きな魔硝石が残っている。


                  "ガチャ"


「この量なら、13000プオンだね。」

店員は大きなコイン袋を机に乗せた。


「13000プオン!?」

目を$にしてキヨラが叫ぶ。


 バーウの村でもらった2000プオンで10日程十分に生きていられる金額だったのだ。

13000プオンもあれば2か月ゆうに暮らしていける金額である。


「そうさね。

 もっと大きいのなら、もっと高い料金で買い取るよ。

 またおいで。」


…………。


……。


 "ふくふく"と肥えたコイン袋を持って、キヨラが"ルンルン"と向かったのは、酒場。


「ビール一杯くださいな!」

キヨラはニコニコしながらバーテンに声をかけた。


 これはプオンをたっぷりと貯えたがゆえの散財と言うわけではない。

RPGよろしく、ファンタジーの世界では、酒場での情報収集が大事なのだ。

酒場に行く以上、ビールの一杯を頼むのは当然のことだ。

 決してキヨラが飲みたいから飲んでいるわけではない。


「ビールもう一杯おかわり!!」

空いたジョッキを掲げてニコニコなキヨラ。


 ケッシテキヨラガノミタイカラノンデルワケデハナイ……。


                  ◇◇◇ 


 今回の酒場でのビール飲みで得た情報は……。

現在の領主と以前の領主のこと、そしてワタークの町民の評価である。


 まず、今の領主はサオールズ家のケイケスと言う男だ。

ザンスター元領主が新たな地への着任を令されたことにより、この地を去った。

その代わりとしてこの町の領主になったのが彼である。

 そんな男が領主となり始まったのが“町民会議”。

それは、毎月一人の町民を担ぎ上げ、町民みんなが見ている前で拷問を行い、最後に処刑するという悪逆非道の行いである。

そんな催し物を生み出すほどにその男は血迷っていた。

 彼はもともとの領主を務めていた一族、ザンスター家のに当たる家系だ。


 この町は、"ザンスター・サオルーズ"。

“ザンスター”と言う名の方が冠している。

 それはケイケスがどれだけ権力を振りかざし支配しようとも、町民はザンスターと言う名に拘った結果だ。

 ザンスター家は海を愛し、町民を愛し、温厚篤実にまつりごとを行った。

その結果、町民にも愛され、クラウディアの海は美しく保たれ、観光名所として賑わいを保っている。


 そのザンスター家の次男坊であるのがワタークだ。

彼は無類の女好きではあるが、このクラウディアの海を誰よりも愛している。

 自分の資産を投げうってまでも、海の清さを保つために尽力を尽くす。

それゆえ人望も厚く、領主では無くなった今も、町民に愛され、町の中心的人物である。

 町民はワタークの次期領主を願っている。


 現当主のケイケスはそれが気に入らない。

何とか町民の心を自分に向ける為にと、悪政がどんどんエスカレートしているのが、今の状況だと言う。


                  ◇◇◇

 

 この様にして、キヨラはこの町の情報を集めつつ、もう一つの重要な役目の為、向かう場所がある。

 それは、町民会議が行われるステージと観衆の立つ広場のある船着き場だった。


 船着き場の広場は、もの凄く悪臭がする焼却炉がある事、そしてさらに人に嫌われている楽奴がそこにいる事で、基本的に人は用事がなければ寄り付かない場所になっていた。


 そんなひとっこひとり居ない広場にいるのはザンスター・サオールズの楽奴6人。

 "幸の演奏"により楽奴としての束縛から解放され、言葉も介す事が出来て、自由なはずである。

 しかし、彼らはいつも通り焼却炉のそばに集まり6人で演奏しているのだった。

 その顔に曇りはなく、みなみな楽しそうに演奏している。

強いられずとも音楽に浸る。結局は演奏家は奏でる事が大好きなのである。


 キヨラは当日演奏する予定の曲を6人に披露する。

テントの中で幸と十分に打ち合わせしてきているその曲を、共有し、パートごとの役割や展開も口頭で伝えていく。

 6人の楽器はスネア、ウッドベース、フルートにピッコロ、ギターと鍵盤ハーモニカだ。

楽器が充実していると演奏パートも複雑に絡み合う事となる。

 楽譜がないので、何度も何度も演奏して、お互いに楽曲への理解を高め合うしかない。


 キヨラは、魔法ショップ、酒場、船着き場。

このようなルーティーンで町を回りながら、どんどん換金し、情報を集めて、そして練習を重ねていく。

急なアクシデントに見舞われたのは、2週間ほど経ったある日のことであった。


…………。


……。

 

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