第20話「シーガーディアンの塔3階」

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【ゲリラライブまであと23日】


…………。


……。


「僕!あなた!

 待ってた!!」

フォルネウスは大きな牙を向き出しにし、ダンジョンポータブルで飛んできた幸にすり寄って来た。


「や、やぁ、フォルネウス。

 今日もダンジョン攻略に来たよ。

 まだ冒険者はこの階には来てないね?」

幸は、圧の強いフォルネウスを手で押しのけながら言う。口からかなりの磯の香りがする。


「敵!まだ!!

 2階来てない!!」

フォルネウスは鰭のような尻尾を"ブンブン"振って喋る。


 1階のボス、コカビエルが言っていたように、冒険者はまだまだ1階のボスを踏破するに至ってはいないようだった。

 

 今日は前日に会議した通り、キヨラを抜いて幸とピーネの二人で、シーガーディアンの塔3階の攻略に来ていた。

 初の二人でのダンジョン攻略という事で、慢心しない様にと話し合って来た……、はずである。


「幸!行こう!!」

幸の袖を引っ張りながら言うピーネ。早く自分が活躍したくてうずうずしている。

レベル52のピーネにとっては慢心もなにも無いのかもしれない。


「じゃあそろそろ行って来るよ。」

幸はフォルネウスに挨拶をして、3階の階段へ向かった。

 

 1階を上って来たように、螺旋状の階段を上る。

階段を上がり切ると、その階層は1階2階とは明らかに違っていた。

 3階は大きなフロアが一つあるだけで、枝分かれした道などは無く、開けているのである。

ただ、フロア自体がとんでもなく広く、四方に壁がある以外は全て開け放たれている空間。

 遠くの方に雑魚モンスターと思われる魔物がうようよとして見えるが、こちらに気付くことも無いほどの広さであった。


「ここは何だろう……。

 今までの階とは全然違ってるね……。」

幸は1、2階とは全然違うこの階に戸惑っていた。


 道の選択肢が無いと言う事でまず冷静にフロア全体を把握してみることにする。

広い正方形の部屋の奥、今幸達の居る辺の対象側になる辺の壁に、大きな明らかにボスの部屋と思われる扉が見えている。

 その扉に向かう道すがらは、何もない平面という訳ではなく、道と穴の二つに分かれている。

 それは網目状に広がっており、穴によって道の様に形作られていた。

例えるなら、スーパーファミコンのマリオカートの“おばけ沼のステージ”の様だ。

落ちたらどうなるのかは想像もつかない。

 そして雑魚魔物達はその道に点在していた。


「まずは俺が扉が開くか見てくる!!」

そう言うとピーネはボスの部屋と思われる扉にめがけて一目散に飛んで行く。


 限りなくと思わる、飛翔によるダンジョン攻略。

2階から上がって来た階段のある幸達のいるエリアは、魔物もおらずピーネがいなくとも安全マージンは取れていた。


                  “スタッ”


 一瞬で扉まで飛んで行ったピーネは扉を“ぐぐぐっ”と強く押してみる。


「うーん!!!!」

ピーネは気張って扉を押し続けるが開かない。


 扉をよく見ると、鍵穴がある様だった。

この部屋は、を見つけないとボスの部屋までたどり着けない様だ。


「なるほど鍵を見つけないと行けないみたいだね。」

戻って来たピーネの話を聞いて考慮する幸。


 このフロアには、大きな扉の他には何もなく魔物しかいない。

つまり、扉の鍵は、魔物からのドロップという可能性が一番高い。


「俺に任せろ!!」

ピーネは、幸の考えを聞いて、熟考する間も無く魔物達を蹴散らしに行く。


「まっ待って!!

 ピーネ!!」

幸は呼び止めるも、速過ぎるピーネには聞こえない。


 恐ろしい速度で、ピーネは魔物を魔硝石に変えていった。

広い広い三階層の魔物達は、瞬く間に消えて行った。


「幸!

 みんな倒したけど……、鍵は拾えなかったぞ……。」

ピーネが残念そうに言う。


「えっ!

 なんでだろう……。」

幸は当てが外れたので、一番近くの魔物が居た場所まで駆けてみる。


         ―――――前を向くものここに居座れ―――――


 幸は、魔物が居た付近に、そんな文言が添えられた台座を見つけた。


「なんだこれ……。

 前を向くものここに居座れ?

 ……!? ピーネ!!ちょっと来て!!」

何かを閃いた幸は、ピーネを呼ぶ。


 ピーネにつかんでもらい、フロア全体を見渡して分かったことがある。

先ほど見つけた台座が、10個ほど、点在していたのだ。


「……そうか。

 この部屋は大人数で攻略しないといけない部屋なんだ!」

答を導き出した幸が言う。


 この部屋は台座に、誰かが座って待機する。

台座は10個あるので、10個全てに同じことをすれば道が開かれる仕組みになっていると幸は考えた。


「魔物を倒せばいい訳じゃなかったのか……。」

パーティーが現状3人しかいない幸達にはかなり難しい事柄を要求しているフロアに嘆く。


 10の台座にそれぞれに誰かが居座れば、道が開かれるダンジョンのギミック。

 10人以上のパーティーを集めるには幸はレベルも低く、困難なのは目に見えている。

サクサクプレイだと思われていたシーガーディアンの塔は、3階にして幸達に

いきなり無理難題を吹っかけてきたのであった。


…………。


……。


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