第19話 「ザンスター・サオールズの確執」

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「あぁ、またこんなにもゴミが流れつく。

 私が拾わなければどんどん増えていくぞ。」

そう言いながらも、あくせくと海の美化に努める男。


 陽が真上に到達し、浜の照り返しと相まって、夏のような暑さの中、その男は顔を汗でドロドロにしながらゴミを拾いあげていく。

 ワタークだった。

 

 クラウディアの砂浜は驚くほど綺麗だ。

それもこれもワタークが毎日赴き、ゴミを拾い、清掃しているからである。


「おやおや……。

 そんな所に居るのはザンスター家の次男坊じゃないか。」


 その言葉を発したのは、ケイケスと言う男だった。

毒々しい全身紫の装いで、ワタークのような襞エリを身に纏う、明らかに貴族と言う風貌だ。


「ケイケス……。

 お前こそこんな所で何をしているのだ?

 町民は重税に苦しみ、海は日に日に汚くなっているぞ。

 このままでは受け継がれてきたザンスター・サオールズの美しい町並みは消えてしまうぞ。」

ワタークは”ワナワナ”と肩を震わせて言った。


「んふふ。

 私はただ、を眺めているだけさ。

 なんたって私は領主さ。

 この町も、人も、そして海も……。

 私の自由にして何が悪い?」

ケイケスは当たり前の様に言う。


「この海は町のみんなの物だ。

 領主は町を支える為にいるんだぞ。

 代々領主を務めた、私のザンスタ―家、そして、お前のサオルーズ家共に歩み寄って、より良い町を作って行けばいいだけじゃないか?」

ワタークが嘆く。


「それだよ……。

 私はザンスター・サオールズと言う町名が気にくわないのさ。

 私が領主の今、に改名しないと行けないだろう?」

ケイケスは後ろ手に組み、歩きながら続ける。


「だのに!!!

 この町の小癪どもは、お前ばかり敬愛し、私が名前を改変しようとも、行き届かない。変わらない!!」

ケイケスは”ばっ”と手を広げ振り返った。


 ザンスター・サオールズの町は、代々領主をザンスター家、そして補佐としてサオールズ家が支えていた。

 両者は血縁関係がある。

ワタークとケイケスは従妹の関係だ。

 だが、町民の支持にはかなり偏りがあり、皆がザンスター家であるワタークを推している。

 いくら領主が命名しようとも、人々が認めなければ、反映されない。

書面上、町の名が変わっていようが、人が認めなければ呼ばれ方は変わらない。


「領主である私にこうべを垂れて媚びへつらわなければ、私の町の町民とは呼べないなぁ。

 そうなると、嫌々ではあるが、異端の分子は町民の話合いで解決して行かねばならないよなぁ。」

ケイケスは嘲笑を浮かべている。


「それだ!!

 町民会議……。

 あんな非人道的な最悪な会議、即刻中止しろ!!」

ワタークは叫ぶ。


「おやおや、町民会議はお前の御父上の代から行っていたことだろう?

 まつりごとに庶民が口を挟むのは可笑しな話だなぁ……。」


「ケイケス……。」

権力を持たないワタークは、それ以上の事は言えない。


「はっはっは。

 私も多くは望んでないのだよ。

 このクラウディアの海を望む町がサオルーズ・ザンスターになればそれでいいのだ。

それまでは異端は粛清する。ただそれまでさ。」


「ケイケスゥ……。」

ギリギリと歯を噛むしかないワターク。



 ザンスター・サオールズ。

この美しい海の町の一つの問題は、この二つの名前の一族の私怨にあるようだ。


…………。


……。


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