第16話「シーガーディアンの塔2階」

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【ゲリラライブまであと26日】


……。


…………。


 ダンジョン攻略2日目。

初日は、ボスまでの道のりも全てマッピングされていたので、今日が実質の初日と言うべきかも知れない。

ピーネも起きた昼過ぎに、幸達はダンジョンポータルを起動した。


                 ――シューン――


 握りながら目的地に行きたいと願うと、ポータルは青白く発光し、3人を包んだ。


 眩い光が過ぎて、目を開けると、そこにはコカビエルが立っていた。


「あぁ、お待ちしておりました、幸様。

 二日も連続でダンジョン探索なんて、高尚でございます。

 あぁああ、その頂きたく存じます。」

コカビエルは開口一番へりくだる。


「やぁ、コカビエルさん!

 凄いねダンジョンポータル!

 ホントに一瞬で来れたよ!

 まだ、冒険者は来てないの?」

幸は爪の垢のくだりを無視して聞いてみる。


「お昼ごろに、10人ほどのパーティーでわたくしに挑んで来ました。

 そして私の“ブレス”で一撃で全滅させてやりました。

 殺すまではしませんでしたが、命からがらの退却でしたので、もう今日は来ないでしょう。」

コカビエルは腹に手を当ててお辞儀しながら言った。


「そっ、そうなんだ。

 そのまぁ、弱い相手ならほどほどにね……。」

幸は“ははは“と乾いた笑いをしながら言った。


 コカビエルとの挨拶をすませて、幸達は階段を上がる。

 ボスの間の高い天井が嘘みたいに、頭が付きそうなほど低い天井の階段を、歩いて行く一行。

 それは螺旋状になっており、“グルグルグル”と三回ほど回ったのちに辿り着いた。


             【シーガーディアンの塔2階】


 二階は一階と違い、階段を上がったエントランスに当たる部分は、かなり開けており、上がって来た向こう側には、道があった。

それは3通りに分かれており、当然どれか1つが合っていて、それ以外はワナなのだろう。


「ここからは、ボス以外にも魔物もうじゃうじゃ出るぞ!

 俺が前を歩くから、二人は後ろに隠れてろ!」

ピーネはやっと自分の出番というように“えっへん”と鼻を高くして言う。


「そうだね!

 ピーネよろしく!

 で、3つ道があるけどどうしようか……。」

幸は腕を組み首を傾げる。


「まぁ、悩んでも仕方ないし右から順番に行ってみようよ。」

キヨラがあっけらかんとして言う。


「そうだな!」

ピーネは早く敵出ろと言わんばかりの勇み足で駆けて行く。


 一同は、三叉になる道の一つ、右の道を選んで歩いて行く。

先ほどの螺旋階段ほどではないが、そんなに広い道では無く、3人が横並びで、ギリギリ歩けるかという程度。

 暗くて奥は見えない。


 幸は、背中に掛けたギターケースを手に持つスタイルに変える。

そして、ヘッドの真ん中に位置する開閉部を開けると、永遠に消えない種火が、"ポゥッ"と明るく灯った。

 すると、最奥まで見えると言う事はないが、目の前から先はしっかり見えるようになる。


「おっ!

 見ろ!魔物だ!」

ピーネは嬉しそうに羽を広げて対象を指す。


 灯された道の先に潜んでいた魔物。

それは、コボルトと呼ばれる、所謂いわゆる、雑魚モンスターであった。

 だが、このシーガーディアンの塔は高難易度のダンジョンである。

 冒険の初期に出てくるようなコボルトは、布の腰巻きしかしていないのが常だ。

しかし今、目の前にいるそれは、・そしてを装着しており、冒険の終盤に登場するのであろう歴戦の猛者かの出立ちでピーネを睨みつけている。


「とぅ!!」


 ……が装備など、関係がなかった。

ピーネが一瞬しゃがみ、勢いをつけてコボルト目掛けて跳びすさり、そのまま、大きな右脚爪を閉じて尖らした"トゥキック"。


 ミスリルの胸当てを貫通し、コボルトの身体を貫いた。


 コボルトは、血反吐を吐き、血飛沫が舞い、贓物や、汚物を撒き散らして絶命……、

と言うことはなく、光と煙に包まれて、消えていった。

 コボルトがいたはずの場所には"カランカラン"と、が散らばった。


「どっ……、どうなった?」

 おそらく見ていられない程グロテスクな描写が繰り広げられていると思った幸は、手で顔を覆い、薄目で手の隙間から覗いていた。


「魔力を持つ魔物は、倒れたらあんな風に、魔硝石になって消えていくんだよ。」

キヨラがシンフォニアの常識を説く。


                  ◇◇◇


 魔物は魔硝石に変わる。

これはこの世界の理であり、冒険者は魔物を討伐した証拠として、この石を持ち帰る。

 専門の魔法使いなら、それがどの魔物の魔硝石なのかと言うことが判別可能で、そもそも強い魔物程大きく、大体の討伐対象となるボス級なら言うまでもない。

 また、魔硝石はマジックアイテムを作る際に必須のものとなり、落とした魔物によって獲得出来る魔硝石が違う。

 それによって効果も様々になり、マジックアイテム作成時は、用途にあった石が使用される。

 故に魔硝石は魔法ショップで売れば換金することが出来、冒険者の最大の収入源となっている。


                  ◇◇◇


「魔硝石……。

 そうなんだ、この石がそれか……。」

幸は、ピーネの下に散らばっている石を拾いながら言う。


 雑魚モンスターであれ、強さに応じて大きな魔硝石を落とす。

コボルトが落とした魔硝石は、幸が両手でなんとか持てるような、カケラと言うよりは、であった。


「な!

 俺がいたら簡単だから!

 2人は俺が守るから!」

ピーネはニコニコしながら、落ちているのと、幸の手から魔硝石を、器用に脚で拾いあげ、ミスリルの袋に入れた。


「さぁ、どんどん行くぞ!」

ピーネはまた先頭に立ちズンズンと歩いていく。


 そこからも完全にピーネの1人相撲だった。

コボルトから始まり、コカトリス、陸軍隊蟻、一角つのウサギ、もくもくギズモと、出てくる魔物をバッタバッタと薙ぎ倒し、ミスリルの袋には、魔硝石はパンパン。

 とっくにピーネにしか持てないサイズになっていた。


 そして、驚いたことに、3分の1を見事引き当て、幸達は2階のボス

の間に到着したのだった。


「なんかボスの間ついちゃったね……。

 とっとと行っちゃおうか。

 今度は私もヴァイオリン弾くね。」

キヨラは言う。


 “LUCK”の能力値がゼロの幸がいても一発で着いたのだから、もしかするとこの三叉の道を一発で正道を選んだ3択当ては、天文学的確率だったのかも知れない。


                     “ギ―ッ”


 一行はボスの間を扉を開けた。


 そこに待っていたのは“フォルネウス”という悪魔だった。

鋭い牙がびっしりと生える大きな口が印象的な半魚人のような姿である。

そのビジュアル的に目立つ大きな口を他所に、片手に杖を握っており、明らかに魔法を使って攻撃するタイプだ。


 しかし、やはりボスなのである。

近づくまでは頑なに動かない。


                     ””Am Em G C””


 幸とキヨラは目配せしながらまたもアドリブで弾き出す。

幸がギターでコードを弾き、その中でキヨラが自由に遊ぶ。


 そうしているとフォルネウスは杖を捨て、地べたに這いつくばり悶えている。

幸とキヨラは、演奏しながら近づき、滔々目の前まで来た。


「「大丈夫?」」


「僕!あなた達!

 好き!!」

寝ころんだまま仰向けで、手足をピンとさせて、まん丸になった目で呟き続ける。


「これ!この階の!

 ダンジョンポータル!!」

フォルネウスは簡単に紫に輝く石を差し出している。


「あっ、ありがとう。」

幸はそのポータルを受け取った。


「うー、ボスこそ俺の力の見せどころなのに!」

ピーネが口をとがらせて言う。


「まぁまぁ。

 こうやって、戦わないで済むなら一番いいんだから。」

幸がピーネを宥めながら言った。


 ザンスター・サオールズに来てから僅か4日目にして、

シーガーディアンの塔2階の攻略完了であった。


…………。


……。


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