第17話「フーガスカ」

*************************************  

【ゲリラライブまであと25日】


…………。


……。


             ”ザザーン”  ”ザザーン”


 大きな青い空には、生クリームみたいに様々な形に絞られた雲が、“ぷかぷか”と美味しそうに揺れている。

大きな青い海はそれを食べようとしてか、寄せて返してそれをさらおうとする。

 空と海との関係はいつもそうだ。

二つは何の隔たりもなく隣り合っている。

同じように広く、同じように青い似た者同士。

だが手を伸ばしても、何をしても届かない。


 佐倉幸さくらこうは桟橋から足を海に放りだして、ギターを弾いていた。

それを聞きながら、恍惚の表情で、海面を“パシャパシャ”と太鼓みたいにして遊んでいるのはフーガスカ。人魚の女の子だ。


「なー、幸ー。

 音楽って楽しーなぁ。」

フーガスカは笑顔で言う。


「ウチも海から出て一緒に演奏出来たらなぁー。

 幸と一緒に居れたらなぁー。」

幸の顔を見る彼女の顔は少し赤い。


「なぁー。

 もうお尻叩かんから、ちょっとこっちおいでー?

 ほら泳ぎ方教えてあげるから。」

フーガスカは幸を手招く。


 夏まではいかずとも今はもう春過ぎ。

それなりに運動すればそれなりに汗をかく季節だ。

だだっ広い海の上から見下ろした太陽の光を、砂浜が反射して射出している。

 このクラウディアの浜辺でいま一番快適なのは海の中かも知れない。

 幸は服を脱いで、パンツ一丁になる。

言われるがままに、海に入ってみる。


               "トプン"


 爪先から海に足を沈めて、海に浸かる。

海水は身体に纏わりつき体温を奪う。

気持ちいい。

 

「来たなぁー。

 ほんならなぁー。

 まずはうちが後ろ回ってー、平泳ぎの手から教えるなぁー。」

フーガスカはそう言うと、幸の後ろに周り密着した。


 人魚であるフーガスカの肌は人間と全く変わらない。

健康的に少しだけ焼けた肌は水を弾いている。

 その肌が幸の背中にすり寄っては吸い付く。

体温は温かく海の冷たさと相反する。

 胸にはをつけていて、それがたまに“カチャ”と動き、その部分だけ少し冷たい。


「こうやってなー、身体の前でわっか作ってなー。」

フーガスカは幸の手を取って動かしながら言う。


 わっかを作り手元に寄せてまた作り。

この動作の中で、フーガスカの身体と幸の身体が何度もすり寄る。

 背中にまず彼女の腹が当たり、そして貝の水着越しにフーガスカの柔らかい部分を感じる。

幸は、その柔らかさのイメージを追いかけてしまう。

 目を閉じ、寄せては返す彼女のお腹と、胸。

柔らかくて温かいその感触を何度も……、何度も……。


「……幸。

 何してるの?」

桟橋にしゃがみ込んだキヨラがいたずらっぽく笑って見ている。


「!!!」

幸は“はっ”として飛び跳ねた。


「幸!

 フーガスカと水遊びしてる!!

 俺も混ぜろ!」

ピーネも桟橋近くにやってきた。


 キヨラとピーネは、ユラーハとまたガールズトークに勤しんでいたのだが、ワタークの登場により退散したそうだ。


「おっ、泳ぎを教えてもらっていたんだよ!」

幸はあたふたと言う。


「平泳ぎなー。

 まだ手の掻き方だけやけどぉ。」

フーガスカが言う。


「ふーん。

 そうなんだ。

 さっきユラーハに面白い話をいっぱい聞いたから。

 もしすぐに海から出れるなら、すぐ上がって来て。」

キヨラは、幸の反応を見ながら言う。


「あっと、えっと、もうちょっと泳ぎ教えてもらいたいかなー……。」

幸は目を泳がせながら言う。


「分かったぁー。」

フーガスカは再度幸の後ろに周り、密着する。


「俺も俺も!」

“ドボン”と音を立ててピーネも海に入る。


「……それじゃずっと海から出れないね。」

キヨラはにんまりと笑いながら、立ちあがりそう言った。


 幸はしばらく海から出れなさそうなので、その後は結局みんなで一緒に

演奏したり海で遊んだり、クラウディアの海を満喫した一行だった……。


                    ◇◇◇


 今回のガールズトークで分かったことは、ワタークの家柄とユラーハの望み。

 幸達はワタークを貴族のコスプレをしている変な人かと思っていたが、実は本当に貴族だった。

 この町の元領主、ザンスター家の次男だそうだ。

そしてと言っている時点で、すでに領主ではないのだが、もとの領主一家が、別の地へ引っ越すことになり、今のサオールズ家がこの町の領主になったらしい。

 ワタークはこの海を愛しているが故に、引っ越しについて行かず、領主でなくなった今もこの町に留まり、海のパトロールをしているそうだ。

 そしてユラーハは、ワタークを愛していて、番いになりたい。

だから、そのための愛の伝説がありそれに縋っている。


 この海岸にある、クラウディアの灯台。

ほのかにピンク色をした、ダンジョンが発生する前からこの海を見守る灯台だ。

 その塔には、昔からの言い伝えがある。

 

       ――愛する二人が灯台の根元に種を植える。

         その花が二つとも花開けば、恋は愛に花開く。――


 ユラーハはまずこの花の伝説を叶えたいのだそうだ。

 そして叶えた暁には、ワタークと共に海に還りたいらしい。

しかし、これまでも何度か花を植えてるのだが、上手く行かず、ワタークが本当に自分を愛してくれているのか、少し疑問に思っているとのこと……。


                    ◇◇◇


 精霊と人間の恋の物語。

 ユラーハとワタークの物語はどうなって行くのか……。

 そして、幸達はこの町も正しく【成して】行くことが出来るのか……。


…………。


……。


*************************************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る