第15話「シーガーディアンの塔1階のボス」

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 ボスの間は、円形の広い空間だった。

天井は、道中のそれより遥かに高く、この場所だけ異空間なのではないかとさえ思ってしまう。

 ただ、ギターの音は、入り口からどこの範囲にも届きそうな程度の部屋の広さだった。



「ここがボスの間……。

 ……あっ、あれがボスじゃない?」

キヨラは真ん中でたたずむ何かを指さす。



 中心には明らかにボスであろう大きな魔物が立っていた。

その魔物は頭に二つの湾曲した角が生えており、皮膚は毒々しい紫で、羽も生えている、悪魔の様な姿だ。

 流石ボスと言うべきか、既にお互いが見合っている状況であるにも関わらず、襲って来ない。

 RPGのご都合主義的ポリシーを持っているようだ。

こちらが一定の距離まで近づかなければ戦闘にはならなさそうだった。


「襲って来ないね。

 これなら俺がここからギター弾いても音が聞こえると思うけど……。」


           「Am Em F G Am Em F C」


 幸はギターをつま弾く。

それは、現実世界に実際にある曲ではなく、幸が今思いつくままに自由に弾いているメロディーだった。

 曲を作る時は、こういう風に思いつくまま弾く時に生まれるフレーズこそ良いものであったりする。

 マイナーコード(mの付くコード。ルートの音から2つ目の音が3度になっている)から入る物悲しいフレーズから、最後にルート音(根音とも言う。ドミソの和音で言うと、ドになる)であるCに返る王道のコード進行。

幸はその中で心のままに自由にギターを弾いた。


                 “♪~~”


「うおぉ……。

 なんだこのメロディーは……。」

紫の魔物がつのを抱えてうずくまる。


 幸達はちょっとずつ距離を詰めた。


「大丈夫?」

幸が尋ねる。手は未だにギターを弾いている。


「あぁ、なんて素晴らしい音楽を奏でる人なんだ……。

 わたくしの生涯を捧げてもいいと思ってしまう……。」

悪魔は完全に屈服していた。そのまま幸へ、ひざまずく。


「あの色々聞きたいんだけど……。」

幸は演奏をやめ、首を垂れる悪魔と話をした。


                  ◇◇◇


 内容はこうだった。

・このダンジョンは5人の悪魔がそれぞれの階層でボスとして、待機している。

・最上階にいるダンジョンマスターについては社外秘。

 ただ、最上階にあるのは2つの宝箱で、一つはミミックらしい。

・シーガーディアンの塔は、外の魔物については特に影響を及ぼさない。

・現状、討伐に来る冒険者は、雑魚ばかりで、この一階層をクリアする者は1カ月程度では出てこないだろう。


                  ◇◇◇


「わたくしは、コカビエルと申します。

 幸様に忠誠を誓います……。

 幸様……。これをお受け取りください。」

1階のボスだった悪魔が幸に何かを差し出した。


 それは“ダンジョンポータル”と呼ばれるマジックアイテムで、

指定されたダンジョンの階層のボスの間の出口へワープ出来るものである。


「これはこのダンジョン1階のダンジョンポータルでございます。

 いつでもここから、このダンジョンを始める事が出来る代物です。」

コカビエルは首を垂れながら言う。


「ありがとう!

 これで、次から2階を探索出来るんだね!」

幸は嬉しそうに言った。


「さようでございます。

 いつでもこちらにいらしてください。」

コカビエルは姿勢を崩さず言う。


「冒険者が、コカビエルさんをまだまだ倒せないなら、

 このポータルを使えば、他の冒険者を気にせずいつでもここへ戻って来れるのね。」

キヨラが言う。


「わたくしが忠誠を誓ったのは幸様だけです!

 貴様のような小娘だけで来たら……っ。」


「コカビエルさん、キヨラにも優しくしてあげてね。」

コカビエルがキヨラを恫喝するのを遮るように幸が言う。


「幸様がおっしゃるならしょうがありません……。」

また頭を垂れるしせいで言う。


「俺全然活躍してない!!」

ピーネが喚く。


「また明日ね。」

幸がピーネをなだめながら言った。


 一行は、目標通り1階層のボスを倒し?、今日のダンジョン攻略を終了として、ベースキャンプに戻ったのだった。

 今回は何の苦労もなく幸のギターで攻略出来たが、次回も同じように行くのだろうか……。


…………。


……。


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