第7話「ザンスター・サオールズでの情報収集」

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              ――シユウーッ――


 ピーネは風を切って華麗に着地した。

直ぐに警備兵が駆け付けてこないことを見ると、飛行中も見つかってはいないみたいだった。


「幸!キヨラ!

 無事に送り届けたぞ。

 ちゃんと帰って来れるんだな?

 楽器も持ってないんだぞ!?

 大丈夫なんだな?」

ピーネは心配で心配でたまらない。


「大丈夫。

 さっき渡しただろう?

 “共鳴のミサンガ”。

 何かあったらそれが教えてくれる。

 その時はよろしく!

 期待してるよピーネ!」

幸は優しく笑いかける。


 ピーネは”えっへん”と鼻を鳴らした。

最後に「大好きだぞ!」と言って、ザンスターの森へ帰って行った。


「さぁ、もうだいぶ昼過ぎちゃったけど。

 情報収集だ!とっとと行こう!」

幸が言う。


 着地地点は、バレにくくするため距離をとっていたため、少し歩いてやっとの街の玄関への到着である。

当然のように警備兵が立っている。


            「「……。……。」」


 幸とキヨラは軽く会釈をし、警備兵は“キリッ”と敬礼をした。

ただそれだけだった。つまりは無事に入町出来たのだ。


 ひとまず第一関門突破。


 幸とキヨラは……。


             「「うしし。」」


 と笑った。



 “ザンスター・サオールズ”は海に面した町だ。

町の入り口の門を抜けるとすぐに、汐風が鼻を通り、魚への食欲を想起させる。


 幸達が、最初に目指すのは酒場だった。

 情報収集の基本は酒場。

ファンタジーではそう決まっている。

 酒場を探す道中に楽奴も探しながら歩いたが、見つける事は出来なかった。

恐らく、楽奴に近づけば“彼らの演奏する音”でそれは知覚できると思っている。


 20分くらい歩き回ったであろうか。

幸達はついに、酒場の看板を見つける。

 店の名前は【マリンルージュ】。


 音楽に関わる人間であることがばれないか、ヒヤヒヤしながら、扉を開けた。


               ”カラン”


 二人はドキドキしながら、バーカウンターまで歩いていく。

そしてバーテンに話しかけた。


「ビールひとつと、ルーコ……じゃなくてコーラください。」

幸はどぎまぎとしながら言う。


「あいよ。」


 無事にビールとコーラを入手することが出来た。

合わせて3プオン。


「良かったねぇ……。

 やっぱり楽器を持たずに普通の服を着てたら、わかんないんだね。」

キヨラは安堵したのか、涙が伝った。


 それには本人も驚いていた。

楽奴としての束縛、自分達を見下す人々。それに蝕まれ続けたキヨラ。

 幸との出会いで、解放されたつもりでもその確固たる確証がなかった。

バーウの村人は幸の音楽を聴いて既に音楽が好きになっているからだ。

それでは、について判断はつかなかった。


 しかし今……。

幸の能力が及ばないここで、完全に楽奴の楔が無くなっていると確定した。

それはキヨラに、涙が自然に出てしまうほどの大きな安堵をもたらした。


「うしし。

 良かったね。

 じゃぁまず乾杯しよう。」

幸は自分のコーラのグラスを当てて、キヨラのグラスを“チン”と鳴らした。


 そうして、完全に楽奴としての呪縛の消失と、を実感した、キヨラと幸。

 二人は自分の最大限のトーク技術で、なんとか酒場で得られるだけの情報を手に入れた。



                  ◇◇◇

 酒場で仕入れた情報は以下の通りだ。


 2年ほど前に領主が変わり、圧政を強いるようになった事。

その領主は【ケイケス】という男で、ひどいサディストである事。

 領主が船着き場を背にした大きなステージの上で演説を行う”町民会議”というものが月に一度開催されている事。

 それの性質たちが悪く、その月のその領主の腹積もりで、気に入らない人間をステージに立たせ、町民の前で恐ろしい拷問を行い、のちにという最悪なものだった。

 このイベントは、必ずらしい。

そして、貴族の占有預かりの楽奴も参加して何か楽器を弾くとのこと。

 つまり正真正銘、町中の楽奴と、町民が集まると言うことだ。

ならばゲリラでライブを行えば、楽奴の解放、町民へ音楽を取り戻す事は出来る。

比較的難易度が低い町だと思えた。

 ただ、その”町民会議”というものはつい先日終わってしまったと言う話。

つまり1か月ほどはそれを待つ期間が出来るのだ。


 【成す】ことを達成するのに、どれほどかかるか分からないこの長い旅で、1か月はかなりきつい。

しかし、と話は変わってくる。


 馬車の話だ。

今日のピーネの事を考えても、できるだけ早く欲しい。多少値が高くとも。

そう考えた時、この町は漁村で基本的に船移動なこともあって、馬車は通常より値が張るらしい。


 それが30万プオンだという。

それはバーウの村なら、家でも建てられるんじゃないかという値段だ。

 幸達は今、1,997プオンしか持っていないわけだ。

到底買えるわけがない。


 馬車を買うには30万プオンだが、実はこれをがあるらしい。

それが今、冒険者達を募って攻略を進めている、突如現れた塔型のダンジョンだ。

【シガーディアンの塔】と呼ばれている。

このダンジョンの攻略報酬が30万プオンだそうだ。


 町民会議まであと3週間ほどあるのだから、ダンジョン攻略をする時間は十分にあると思う。

 なぜならこちらにはレベル52のピーネと幸のギターがあるからだ。

ぼちぼち準備をしていたらクリアは出来ると考えた。


 そして、そのダンジョン化した塔があるのが、町のはずれにある、クラウディア海岸だと言うことらしい。


                ◇◇◇



               ”パチン”



 有力な情報を沢山仕入れられた2人思わずハイタッチをする。


 手に入らなかった情報は、この町の楽奴の話くらいであろうか。

幸とキヨラは満足な顔をして、酒場から出ていくのであった。


…………。


……。


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