第8話「マロニエと海のステージ」

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 酒場から出た二人は顔を見合わせた。


「やったじゃん!!

 いっぱい色んな話聞けたねぇ!」

キヨラが嬉しそうに言う。


「うん!

 今日の情報収集は大成功だよ!!」

バーウの村で大失敗した幸はこの成功が心底嬉しい。


 こうなると次はどうする?となる。

 町にいる楽奴を見つけたいが、現状あてもない。

闇雲に探して、時間が過ぎるよりは、まだ“町民会議”まで時間があるのだからゆったり探すのもありだ。

 何より今日は、楽奴であることがばれないかという心配が強く、緊張し、普段よりも疲れている。今日ぐらい休んでも罰は当たらない。


「そうだね、あとは……。

 ……デートしよっか。」

ちゃっかり抜け駆けしようとするキヨラ。


「……デートかぁ。

 でも、“町民会議”が行われるステージって言うのは見ておきたいからさ。

 ほら、なんか食べ歩きとかしながらさ。」

ここで食べるならピーネにも絶対何か買って帰ろうと思いながら言う。


「むむむ、折衷案だね。

 よし乗ってあげよう。」

キヨラは冗談交じりで言う。


                ”ガシ”


 キヨラは幸の腕をつかんだ。

「ほらデートなんだからいいでしょ?

 早くステージ見に行きましょう。」


「……おっ、おう。」

結局は彼女いたことがない歴高校2年生の、佐倉幸。


…………。


……。



 船着き場へ向かって歩いていくと、様々な屋台とでくわした。

名物だという海鮮丼、魚を焼いて串で刺した串焼き。

 そしてアワビやホタテを殻のまま焼いた浜焼きだ。

 華やかな海鮮食材が立ち並ぶこの屋台群も、ケイケスの重税により苦しんでいるのだろう。

 どことなく景気の悪いような雰囲気は流れていた。


 それでも沢山ある海鮮の中、幸の食指が動いたのは獲れたてのタコを入れたタコ焼きだった。

外は“カリッ”中は“フワッ”のあの神がかった食べ物をピーネにも、キヨラにも食わせたい。

幸にそんな気持ちがよぎった。


「デートだもんな。一緒に食べ歩こうよ。

 おじさーん!タコ焼きください!」

幸が注文する。


「……あいよ。

 いくつにします?」

少し鬱屈としたような表情で問いかける店主。


「2つで!

 それと、味はソースと塩のハーフで!」

幸は当然のように言う。


「ソース?

 塩をかけるの!?」

店員は驚きおののく。


「え?」

幸の疑問。


「え?」

店員の疑問。


当店うちのタコ焼きは、“マロニエ”をかけて食べるんだよ。

 どこの屋台でも一緒さ。」

そう言い放つ店員。


「じゃじゃあ……。

 それを2つで……。」

幸は郷に入っては郷に従うしかなかった。


「あいよ。

 じゃぁ、2プオンね。」

手渡されたそれは“ホカホカ”だった。


 形状は現実世界のタコ焼きとほとんど変わりはない。

黄肌の綺麗な球体が一皿に8つ入っている。


 しかし問題はかかっているソースだ。

本来は甘じょっぱいドロソースが美味いのだ。

タコの風味と、ソースの香りが合わさり、“カリ”と“フア”の触感の変化。


 しくは生地に練り込まれた青のり、小エビ、出汁だしの優しい旨味が、振りかけた塩と出会うことで、何倍にも増幅される極上の塩味。

 熱すぎるそれらを、“ハフハフ”と食べる。それが正しいタコ焼きだ。


 だがこれはどうだ。

黄金色のとろっとした粘度の高そうな液体、

マロニエってなんだ?

 匂いは非常にかぐわしい。


「美味しそうだね。

 ねっ、食べよ。」

キヨラは幸の顔を覗き込んで言う


「うん。」

幸は頷いて、袋から取り出す。


 一つは袋に入れておいて、ピーネへのお土産。

残りを2人で今食べる。


 ついていた細い竹ひごほどの長さの楊枝を突き刺して、取り上げて、二人は口に入れてみた。


                「「パクッ」」


 食べてみると分かった。

マロニエは花の甘い蜜の様な、濃くて重厚でコクのある蜂蜜みたいなものだった。

 

 当然幸が求めていたものとは違う。

しかしこれは、磯の風味と蜜味が複雑に絡み新しい旨味を醸している。

また、中に入ったタコが、実はマロニエに漬けられているようで、噛めば噛むほどマロニエの味が染み出し、触感の演出だけでなく、味としてもクオリティーをあげている。


「甘ーい!

 美味しいね!」

キヨラは初めて食べるデザートとして大満足そう。


「うん……。

 これはこれでイケるね……。」

幸も意外に気に入った。


…………。


……。


 二人がタコ焼きを食べながら通りを進んでいくと、何やら潮の香が強くなっていく気がする。

 ……気がしただけではなかった。

通りを抜けたら目前に、大きく開け放たれた海が広がっていた。



              「「うぁー!海だー!!」」


 二人は船着き場の縁まで走って行く。

”ザブザブ”と寄せる波は白と青のコントラストで揺らめいた。

 相当綺麗な海で、底を覗き込めば、魚影や、沈む岩や地形まではっきり分かる。


「すごいねぇ!海!

 綺麗だね!」

キヨラは初めて見た海にとても興奮している。


「ほんとだね!

 で、ここが船着き場と言う事は、どこかにステージが……。

 あぁあれか。」

幸は辺りを、“ザッ”と見渡してそれらしきものを発見する。


 町民全員が参加可能な、船着き場のステージ。

それは船着き場の区画の中心に鎮座していた。

 ステージからそのまま海へダイブ出来るほど海沿い近くに設置されて、大きな円形のステージには、客席側から左右に円に沿って壇上するための階段が設置されている。

ステージライトは円の外側に“ズラァ”っと並び、下からステージを照らすタイプだ。

 

 舞台には壁や暗幕の様な物は無く、拷問に使うのであろう、ギロチンのみが設置されている。


客席側のスペースもかなり大きく取られていて、非常に広く、ゆうに1,500人ほど飲み込める大きさである。


 また、雨を避けるために付けられた半透明の防雨天井が、客席とステージの広い範囲、全てを覆うくらいに大きく、そして頑丈そうであった。

 雨が海に還る様に、ステージの上の天井は海に向かってカールしている。


「これかぁ……。

 ゲリラライブ出来るかなぁ?」

幸は、舞台を見まわしながら推考する。


「そうだねぇ……。

 ステージの裏は海だし、丸いから袖で準備とかも出来ないね。」

キヨラが言う。


「うん……。

 天井もあってしかも海のとこまでせり出してるし、カールしてる。

 空から侵入するのも難しそうだ……。」

幸の考え。


 現状見た所では、ゲリラライブするためのビジョンが思いつかない2人。

しかし、まだ一か月ほどあると言う事で、そこまで悲壮感はなかった。


「まぁそれは、おいおい考えるとして……。

 そろそろ帰ろうか!ピーネも待ってるし。」

幸はこの海の町での初日の収穫が完璧であったことに大満足。


「そうだね!」

キヨラもニコニコだ。


                ”♪~~~”


               「「あっ。」」

 

 幸とキヨラは、潮風の中に微かに混じるメロディーを拾い上げた。

瞬間2人は、音のする方へ走って行くのだった。


…………。


……。


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