第6話「朝起きた所で昼になる」

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 森の朝は早い。

鳥や虫が日の出ともに騒ぎ出すからだ。


「んんーっ。」

佐倉幸さくらこうは精一杯伸びをして自分の位置を思い出す。


 昨日はザンスターの森で初めての野宿をし、お腹いっぱい猪を食べて、満足して眠ったのだ。

 そして初めてのテントからの起床。快眠!

なんてすがすがしい日なんだ。幸は思う。


 二人はどうだろうか。

いつものパターンなら、ピーネは昼がだいぶ過ぎるまでは絶対に起きない。

そして、キヨラは既に起きていて、何かしら幸を驚かせる。


 しかしどうだろう。

ピーネが寝ているのはいつも通りなのだが、今日はキヨラも眠っていた。


 幸は、キヨラをにした。

昨日の水浴びのお返しだ。


 顔はこちら側を向いて眠っている。

サラサラの青いストレートヘアーは、“ファサァ”っと枕に広がり、発する匂いが鼻腔に響く。

キヨラの顔は美しい。

 すべすべの肌に、すぅーっと通った鼻筋。そして鼻は高さを保ちつつ小さい。

薄い唇の横には笑うと小さなえくぼが出来る。

 眠っていて今は分からないが、くっきりとした二重に意志の強い瞳。

今はまつげが上下合わさり、長さが際立っている。。


 ……そのまま下に降りて行こうか。

細い首、そのまま進むと陶器のように白い肩口が覗き、その下には……。


 幸は“ハッ”となる。

不意にキヨラの顔をみると、明らかに最初から起きてましたという風に、ニヤニヤと悪戯っぽく笑っているのだ。


「おっおっ、起きてたの!?

 ちがくて!これは!

 水浴びの仕返しをしようとして……。」

焦った幸が“アワアワ”と弁明する。


「だから私の全部は幸にあげるって言ってるでしょ。

 チュウぐらいされると思ってたのにー。」

キヨラはつんつんと幸の頬を突く。


…………。


……。


 非常に恥ずかしい思いを、またキヨラにさせられた幸だが、

キヨラも起きて来たので、今日の計画を立てる。


「えっと、今日どうするかって話なんだけど、もう1個だけだね。

 情報収集。」

それしかないと幸は言う。


「楽奴を解放するには色々知らないと駄目だもんね。

 町の中の楽奴の人数でしょ。貴族の行動パターンとか。

 あと出来るだけ沢山の人に音楽を聴かせる為のアイディアになる情報とかね。」

キヨラは思いつく限りの必要な事をだしてみる。


「そうだね。あとは町自体の事とかね。

 あっ、それと馬車も探さなきゃ!」

幸は言う。


「馬車ね、正直今それの重要さに気付いた……。」

キヨラは神妙な面持ちで言った。


 パーティーで旅をしている以上、移動その他行動には、全体で動かないといけない事がほとんどだ。

 今日だって本当は朝からすぐに動きたい。

しかし、幸のパーティーにはそう言う意味で、大欠陥がある仲間がいる。

 ピーネだ。


 ピーネは本当に朝が弱い。どうしようもなく。

昼を過ぎるまで絶対に起きてこない。

つまり、基本的にこのパーティーは動けないのだ。


 無論、個人に戦闘においてのバロメーターがしっかり備わっていたら別だ。

ピーネを宿に残し、残りの者で進めばいいだけだ。

 しかし幸はギターがないと何も出来ないし、キヨラもレベル13の女の子だ。

ピーネがいないと自衛には全く信頼がない。


 しかし馬車があればどうだろう。

眠っているピーネを馬車に入れたら移動が可能になる。

 有事の際はピーネも流石に動いてくれるだろう。


 つまり馬車を手に入れるのは、このパーティーにとって非常に大事なことだ。


「まぁそれは必ず聞くとして……。

 そもそもの問題は私が旅人の服を着ていたら、元楽奴だって事がばれないか、だよね。」

キヨラは少し不安そうに言う。


 この世界の住人は音楽を、楽奴を楽器を目の敵にしている。

楽器は当然町には持っていかないとして、楽奴であったキヨラに普通の人は反応しないのか、そもそも奏者(楽器を演奏できる人)だということで、人は煙たがらないのか。

そこは一か八かで行ってみるしかない。


今はピーネが起きるまで、幸もキヨラもどうすることも出来なかった。


…………。


……。


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……。


…………。


「幸!幸!!

 おはよう!」

ピーネは叫びながら幸に覆いかぶさる。


 キヨラも幸もピーネが起きてこないと何も出来ないと言う事で、二度寝していた。


「あぁ、ピーネおはよう。」

幸は目をこすりながら言う。


「今日は何する!?」

ピーネはキラキラの目で問いてくる。


 幸は先ほどキヨラに話した話をもう一度ピーネに告げる。

町に情報収集に行くと。そしてピーネには護衛とこの場でベースキャンプを見張ってて欲しいということをピーネに分かりやすく伝える。


「えー!

 俺お留守番か!?

 一緒に行きたいぞ!!」

ピーネは悲しそうに言う。


「ごめんね。ピーネ。

 今はまだサーカス団というには人数とか規模が足りないんだよ。

 何よりも馬車がない。」

幸は諭す。


「それにこれを皆で付けよう。」

そう言う幸が、おもむろに取り出す“マジックアイテム”

 

 それはブレスレットだった。

【共鳴のミサンガ】これは、をキャッチし、それを付けている者同士共鳴するらしい。

 

 相手のことを想う極々簡単で強い思念とは、の2つだと言う。

確かにシンプルで強い思念だとは思う、しかしこれだけではお互いの状況などは待っく把握は出来ない。

 しかもと言う事は分からないらしい。

 だがそれでも唯一の通信手段である。無いより遥かに良いに決まっている。


「分かった……。

 俺が飛んで町まで連れてって、そんでここに帰って来て待っとくから。

 だから早く帰って来てな!!」

ピーネはしぶしぶ自分の役割を受け止めた。


 昼過ぎ。

ここからやっと、“ザンスター・サオールズ”攻略作戦が始まる。


…………。


……。


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