第5話「ザンスターの森にて②」
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幸は拗ねていた。
極度の辱めを受けたと思っている。
「ごめんってー、幸。
ねっ、機嫌直して?」
キヨラが目の前で手を合わせウインクしながら言う。
「幸!
水浴び気持ちよかったよな!!
またやろうな!」
ピーネが楽しそうに言う。
気持ち良過ぎたのが問題だったのだ。
「もういいよ。
もう野営、始めちゃおう。」
幸はもうあきらめて、気持ちを切り替える。
まずは火だ。
3人で適当に木の枝や木の葉を集めてくる。
出来るだけ乾いた枝だ。
そして太いの細いのまんべんなく集める。
集まった木の枝を野営場所と定めた地の中心ほどに集める。
そしてこれの出番だ。
幸は“ふんふんふん♪”と鼻歌交じりに、ギターケースを取って来る。
そのヘッドあたりに開閉式の蓋がついており、それを開ける。
そしてそこに鎮座している炎を使う。
これは
無くしてしまうといけないので、まずは小枝にこの火を移す。
あとは簡単だった。
燃えた木の枝を集めた木の一番下に置いたら……。
見事に大きい薪に燃え移り。
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焚火の完成。
自分達で起こした炎は何故だかとても愛おしく思う。
火の確保が終わったら、次に欲しいのはテントである。
幸達がもらった中には“マジックアイテム”も含まれていた。
その一つが……。
「これ、“魔法のテント”だって。
冒険者をやってた、バーウの村のおじさんが、もういらないからってくれたんだけど。」
幸は半信半疑に言う。
それは両手の中に納まるほどのコンパクトな筒だった。
くれたおじさんが言うには、これを平らで立地のいい場所に放れば、勝手にテントになり、そして見た目の大きさよりも、中はうんと広いというのだ。
こんな細い小さな筒がおじさんの言うような大きなテントになるとは到底思えないが。
幸は試しに“ポイ”と投げてみた。
“ブシュ―”
それは白い煙を出したかと思うと、その筒はおじさんの言う通り、ビッグサイズのテントになった。
「「「おお!!」」」
3人はさっそく中に入ってみる。
そこには大人6人くらいが、ゆうに寝転んで寝れそうなほどの、広さの空間が広がっていた。
「凄いね!!
魔法グッズ!!」
幸はめちゃくちゃ興奮して言う。
「凄いね!
まだあるの?」
キヨラが問う。
「あるよ!
ちょっと待ってね、えーと。」
幸はミスリルの袋の中を探る。
「あった!これだ!」
取り出したのはお香だった。
それは白い陶器のような材質のものであった。
これも両手にちょうど収まる程度のもので、特段変わったことはない。
「えっと、これが“魔よけのお香”らしくて、
自分より低いレベルの魔物が寄って来なくなるんだって。」
幸は聞いた通りに喋った。
「レベルなんてあるの?」
幸はそっちが気になる。
「レベル?
もちろんあるよ。」
キヨラがまたこの世界の常識を言う。
「私はねぇ。レベル13の職業は……。
職業は……。
…………。
……あれ?
私、職業はなんだったっけ?」
キヨラが首を傾げる。
この世界では、レベルと職業は対になっているものだ。
普通なら、自然と勝手に口がレベルと共に職業まで名乗るぐらいのものらしい。
それがキヨラは職業だけ出てこないのだった。
「???
楽奴だったからなんじゃないの?
……じゃこうしようよ。
これからキヨラは、レベル13の、職業は佐倉サーカス団!!」
幸がこれ妙案みたいな顔で言う。
「もう!
なによそれ!」
キヨラは腑に落ちないが、幸の優しさで笑顔になれた。
「幸!幸!!
じゃぁ俺もレベル52のドラグ……っじゃなくて、佐倉サーカス団だ!!」
ピーネも佐倉サーカス団に入りたい。
「「えっっ!!52!!」」
幸はイマイチ分からないがキヨラより遥かに高いので驚く。
「今の勇者様が確かレベル43なんだよ!
ピーネすごいねぇ!!
めちゃくちゃ強いじゃん!!!」
本当の意味で驚いたキヨラは言う。
「そうだぞ!
俺、強いんだから!!
幸!キヨラ!イジメられたら俺に言え!
俺が守ってやるから!」
”えっへん”とピーネは鼻高々だ。
「なるほど。
とにかくピーネが一番高いんだね。
じゃぁ、ピーネがこのお香の蓋をくりくりっと回してみて?」
幸はくりくりっとする仕草ごとピーネに託す。
ピーネは”くりくり”と蓋をこすった。
するとどうだろうシンドバッドよろしく、煙が立ち込めた。
ただジーニが出てくることはなく、すぅーっと消えていく。
「これで、パーティーを組んでいる者以外のレベル52以下の魔物は寄ってこれなくなるらしいよ。」
幸は言う。
「「へー。」」
こればかりは効果も分かりづらく、誰も大きなリアクションを取ることは出来ない。
「「ご飯食べようか……。」」
「おう!」
次はご飯である。
「折角なら火もあるし肉とか焼いてみたいなぁ
こんがり焼けましたぁってね!」
キヨラはあれを知っているのかクルクル回す仕草までする。
「でも血抜きとか仕方分からないしねぇ。」
キヨラは自分で振って自分で踵を返す。
「肉はそのまま食えばいいよ!!
血はMP回復にいいんだぞ!」
”えっへん”とピーネのもつ数少ない知識を披露する。
「それに肉なら、何がこの辺いるかわかんないけど……。
俺が一瞬で取って来るぞ!」
これも鼻高々に言うピーネ。
「ふっふっふ……。
実はあるんです。血抜きの“マジックアイテム”。
酒屋のマスターが、酷い事言ったわびだって言ってくれた。」
幸は秘密兵器と言わんばかりに含みを持って言った。
取り出されたのは、袋に入った、カラカラになっているヒルだった。
どうやら魔法生物として、高名な魔導士に作られたらしいこのヒルは、指定した生き物の血を吸ってそれをMP回復薬に換える事が出来るらしい。
「本当かなぁ。
こんな親指サイズのカラカラの薄茶色のちっこいのが……。」
キヨラはヒルを親指と人差し指の腹で優しくすりすりした。
“どん”
「じゃぁやってみよう!!
取って来た!!」
ピーネは恐ろしい速度で獲物を狩ってきた。
それは、ピーネよりも遥かに大きい猪だった。
ものの50秒くらいだろうか。
自分が肉を取って来ると言った瞬間に動いたらしい。
この暗闇の中を、一瞬で獲物を見つけ、足の爪で刺し殺し、そのまま捕まえてきたのだ。
レベル52は伊達ではなかった。
「さすがピーネ!!
早速、”魔法のヒル”を使って見よう!」
幸はそう言うと、対象をこの猪に指定し、猪の首元あたりに設置してみた。
するとカラカラだったヒルは、瞬く間に猪の血を吸い、見る間に大きくなり、猪は”ボタンッ!!”と倒れると、あっという間にしおしおの皮と肉だけになった。
「「ひぃー!!」」
あまりグロテスクなモノを見慣れていないキヨラと幸の悲鳴。
こういう過程を誰かがやってくれているから、自分の元に美味しい料理が届く幸せを噛みしめられたのだった。
ブクブクに太ったヒルはというと、お尻の方から“プリッ”“プリッ”と赤い飴玉の様な物を5粒くらい出したかと思うと、最初のカラカラの状態に戻っていた。
「えー!!
このMPの飴玉って、このヒルのう〇ちだったの!?!?」
驚愕するキヨラ。
MPの飴玉はこの世界でもっともポピュラーなMP回復薬で、大概どこの魔法ショップでも売られているものだ。現実世界のコンビニで言うと、“緑のモンスター”ぐらいか。
しかもその飴玉の金額は結構、高い。
「凄いね。
マジックアイテム……。
……さぁ、早く焼いて食べよう!
俺お腹空いたー!!」
幸は感嘆ともに言った。
ナイフは普通のを持っているので、不慣れながらも皮を剥ぎ、肉を切り分け手ごろな枝に突き刺して肉を焼く。
しばらく炙ると猪の串焼きが完成した。
「「「うまそー!!」」」
3人はかぶりついた。
塩と胡椒も持ってきていた。
本来この世界で塩は、なかなか貴重なものだが、すぐそばに“ザンスター・サオルーズ”という漁港町がある、バーウの村では比較的安易に入手できるそうだ。
「美味過ぎる……。
猪ってこんなに美味しいんだ。」
幸は初めての猪の味に感動する。
「美味しいね。」
キヨラも美味しそうに食べている。
「美味い!美味い!!」
ピーネも大満足。
今日は飛んで狩って大活躍だったピーネ。
お腹一杯になった一行は、一気に眠たくなってきた。
「そろそろ寝ようか。」
幸の号令に二人は頷き、ぞろぞろとテントに入って行く。
幸は、テントでも一つのマジックアイテムを披露した。
「これは“魔法のベッド”だって。
空飛ぶんじゃなくて、小さいのが大きくなるらしい。」
幸はまた手のひらサイズシリーズを取り出した。
――ポイ――
そう何度も驚くこともなく、異世界のスタンダードを理解し、置きたい位置を見定め投げてみる。
すると、言われた通りにそれは、“ムクムク”と大きくなってキングサイズのベッドになった。
今日はピーネも一緒に寝たいという事だったので、幸が真ん中で、その両脇にキヨラとピーネが横たわった。
幸にとって人生初の野営だったが、マジックアイテムに支えられ非常に快適に過ごすことが出来そうだ。
灯りを消せば、すぐに3つの寝息がたつ。
ザンスターの森の泉に月明りが落ちて、2つの月が優しく灯っている。
その光を見つめるように泉の横の木から白と赤の花が
…………。
……。
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