第4話「ザンスターの森にて」

**************************************


 日はそろそろ傾き出して、から見上げるは、もうずっと先の方が赤と青のグラデーションになっているのがはっきり見えた。

 

「んっ……。

 あっアレじゃない!?」

キヨラが指を差すのは海に面した建物群だった。


「おお!

 あれか!!

 デカい町だ!!」

ピーネが飛びながら言う。


「おー!!

 よし。じゃぁ今日はもう夕方だし、あの町の近くの森で野宿しよう!」

夜からノープランで町に行って下手をかくのは良くないという幸の判断。


「そうだね。

 ピーネもずっと飛んでくれてるし。」

キヨラはちらりと上を見上げピーネの表情を確認する。


「そうだなぁ。

 確かにちょっと疲れた……。」


 ピーネはキヨラと幸の他にも、サンタの袋よりも大きくなった袋まで抱えているのだ。魔物だといえど、相当体力を使っていた。


 幸達が留まった森は、【ザンスターの森】。

 海の近くで、潮風に晒されるこの地でも生命力の方が勝り繁々と緑を肥やしている。

そして、迷わずの森と比べて比較的モンスターも弱く安全と言える森だった。

 

 森を成す木々の隙間を探すと、ちょうど泉がある様で、水面に沿って葉の隙間がある個所を見つけた。

ピーネはそこをめがけて降りた。


 降りてみると、攻撃的なモンスターも特にいなくて、”サワサワ”と小川の流れる音がした。


「おっ、良いね。

 今日はここで野宿だ!

 泉の傍が平らだからテントも引きやすいしね。」

キヨラは腰に手を当てて、“うんうん”と満足そうに告げる。


「ふぅあー!!

 疲れたー!!

 幸ー!俺にルーコルアくれー!!」

ピーネが、がばっと大文字になりへたり込む。


「お疲れ。

 まずは水を飲みなよ。

 俺、汲んでくるからさ。」

幸が労いのつもりか、ピーネの頭をなでてから、袋の中のコップを取り出す。

そのまま泉の水を汲みにいった。


 泉で水を汲んでる幸を、寝転んで肘をついて後ろから眺めてるキヨラが、いたずらっぽくピーネに言う。

「泉があるんだからさぁ。

 水浴びしたいよね。

 幸と3人でさ……。」

キヨラは最後にウインクも付け足した。


「いいなぁ!それ!!

 3人で水浴びしよう!!」

ピーネは思い立ったが吉日というように、バーウの村でもらった胸当てを外して幸の元に飛んで行く。


「幸!幸!!

 ほら一緒に水浴びしよう!

 汗かいただろう?

 俺が洗ってやる!」

”ぎゅむにゅぅ”という新たな擬音を生み出して、ピーネが幸に後ろから飛びついた。


「ピーネ、先に水の飲みなよ。

 ……ってまた脱いでる!

 えっ水浴び!?

 そういうのは男と女は一緒には……。」

幸がそう言い切る前に。


「いいじゃーん!!

 3人で入ろうよー!」

キヨラも手や腕で隠しているものの、煌びやかなサファイヤのように美しい身体を露にし、幸に抱き着いて来る。


「ちょ……。

 ちょちょちょっと!!

 分かったから!!

 分かったって!!」

幸は流石に耐えられず、着の身着のまま泉の中に逃げていった。


…………。


……。


 現実世界では、数多のオタク共が恋焦がれる異世界ファンタジー。

 それは、信じられないほどの美女たちと当たり前のように楽しいこと気持ちいいことが日々日常茶飯事で起こるからだ。

 オタク共が唱えたいそれは、“キャッキャウフフ”という呪文である。


 この幸の置かれている状況を見たら、幸をイジメてイジメて、イジメ抜いた毒巻はどんな顔をするのだろうか。

彼は顔に似合わず極度の異世界系ラノベのオタクだった。


                “キャッキャ”

   

                 ”ウフフ”


 今、幸の目の前では何も着ていない女の子が、二人。

楽しそうに笑って、水浴びをしている。

 幸は恥ずかしさに耐えきれず、目隠しをしている。

それは愚かな過ちであることに今更気付く。


                   ◇◇◇


 5感はそれの1つを失った時、それを補うかのように、他の5感が鋭くなるという。

視覚を失っている幸は今や、年寄りの冷や水かと言わんばかりに、聴覚、触覚が敏感になっていた。


                   ◇◇◇


「幸!

 俺が洗ってやる。

 ほら足から水をかけてな……。

 ……。」

ピーネが幸の身体に触れる。


 ピーネの手の平は、鳥のお腹のように柔らかくてそして温かい。

そして腕にはキメ細やかな羽が生えている。


 温かい手に冷たいみずを掬って足元から引き上げてくる。

冷たい水が肌に触れ、ピーネの温かい手が肌に着地する。涼と温のコントラスト。


 引き上げる時には腕を伝い羽を伝い、滴った水がそのまま幸の足に伝う。

そして引き上げた手が、太ももまで来る頃には、腕から生えた羽が直接すねをなぞり上がる。

 さらにピーネは太ももの先の鎮座するあれを……。


「そっ、そこはいいから!!」

流石に幸はそれを拒む。


「……じゃぁ、私は上から洗ってあげるね。」

キヨラは恐ろしいぐらいニヤニヤしている。


 キヨラは、そもそも洗う気などなかった。

ピーネに良いようにされて戸惑っている幸を、まず後ろから抱きしめる。

 そのままの恰好で、耳をまず観察する。

耳の大きさ、しわの形、耳たぶの膨らみ。

 そして次は触る。耳たぶから始まりそのまま上へ。

耳の頂部の折り返しになってる部位を、その形に小指でなぞって、”はぁ……”と、と息を吹きかける。密着したまま。


「キヨラー!!

 それ駄目!!」

幸はもうヘロヘロ。


「大丈夫?

 ……熱があるのかも?

 首でお熱測ってあげようか……?」

とぼけるように言うキヨラ。絶対にドSだ。


 手を幸の胸に交差するようにして置く。

爪を立て少しずつ引き下ろす。

 そしてまた引き上げる。それを繰り返す。


 そうしながら首も耳と同じように観察する。

今度は細さ、うなじの毛の生え方。

“すぅーっ”。……そして匂いも嗅ぐ。

 手は塞がっているので今度はく………。


「もういいから!!

 本当に!!!」

幸はとうとう耐え切れず逃げ出してしまった。



「「えーもう終わりー?」」



…………。



……。



 幸の純潔は守られたのだろうか……。

いたたまれず逃げた幸の目には、涙も伝っていたかもしれない。


 幸は誓った。

もう絶対に一緒に水浴びなどしないと。


…………。


……。


**************************************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る