第10話「ただいま ピーネ」

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 町を出た幸とキヨラは、最初にピーネに連れてきてもらった、町から少し離れた地点に戻って来ていた。


「本当に大成功だったね。

 情報収集に、楽奴の解放まで出来ちゃった。

 あと1人だけだよ!」

キヨラは嬉しそう。


 正直ここまで上手くいくと思っていなかった。

今日の成果に幸も心が“ウキウキ”としている。

 しかし、問題も未だ山済みである。チャコの妹も早く助けてあげたいと思う。


 さて、ベースキャンプ地となっているザンスターの森に、帰るにはどうするのか。

 その方法は”マジックアイテム”頼りだった。

幸とキヨラはお互いが着けているミサンガに手を当て祈りを捧げる。


 もらった時に聞いた話だと、この“共鳴のミサンガ”は、強く願う事で、の二つの感情の信号だけ送れるそうだ。


「……。」


「……。」


 ミサンガは、“ペッカァー”と光ったり、魔法が唱えられた際の音なんかも何もない。2人は本当にピーネが迎えに来てくれるのか分からない。


「大丈夫かな?」

幸はつぶやく。


「多分……?」

キヨラも半信半疑。


 もしこの“マジックアイテム”が起動していなくて、ピーネに伝わっていない場合は、ここから森まで歩いて帰ることになる。

 キヨラのレベルは13で、幸は測ってはいないが、おそらくレベル1だ。

迷わずの森よりは難易度が下がっているとは言え、魔物と出くわすだけで一巻の終わりだろう。


              ――シューッ―― 


 心配などいらなかった。


「おーい!!

 幸!!キヨラー!!」

ピーネが空から叫んでいる。


 声が届くのと同時ではないかという速度で着陸したピーネ。

直ぐに幸を抱きしめた。


「無事だったか!?

 いじめられなかったか!?」

ピーネはあたふたと告げる。


「ただいま。

 大丈夫だよ。

 迎えに来てくれてありがとう。」

幸は言う。


 キヨラはそれをほほえましそうに眺めていた。


「良かったー!!」

ピーネはまだ幸のコートになっている。


「さぁキャンプ地へ帰ろう!」


…………。


……。


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       パチパチ>>>>>\×*×/<<<<<パチパチ


 

 焚火に火をつけることも終え、森の中、泉のまえで話し合いをしていた。


「さぁ、今後どうするかのプランを考えようか。

 今日は本当に大収穫だったんだから。」

幸は嬉しそうに話す。


 幸が話し出す前に、”あっ”と思い出したかの様な顔をして、ピーネにあるものを差し出した。


 マロニエがかかったタコ焼きだった。


「なんだこれ!!

 食えるのか!?」

ピーネは見たことのない食べ物に興奮。


「そうだよ、これはタコ焼きと言って、元の世界でも大好きだったんだ。

 味は全然違うけど。」

マロニエの甘さで完全にデザートとかしたタコ焼きに幸は少し不満。


「ほら、幸。

 ピーネに“あーん”してあげたら?」

キヨラがいたずらを思いついたかのような、にやり顔で促す。


「えっ、あっ……。

 “あーん”……?」

の、5本の指に入っているあれか……、と幸は戸惑う。


「ほら、ピーネ。

 幸の前で口を開けて、“あーん”って。

 ほら。」

キヨラはニヤニヤしながらピーネを促す。


「あーん!」

ピーネが大きく口を開けて待っている。

鳥のヒナみたいにも見える。


「うっ……。

 ……。

 ……ん、ほら。」

幸は顔を赤らめつつも、ピーネの口にタコ焼きを入れていく。


 その光景を幸の顔を覗き込んでみてるキヨラ。


「うお!

 甘い!美味しい!!」

ピーネは初めてのマロニエの味に大満足。


「幸!

 ありがとう!」


「……おっほん。

 さっ、さぁ早く話し合いをしよう。」


…………。


……。


 仕切り直して幸が話を進める。


「まず楽奴解放のことと、サーカス団のことと、二つあるんだけど。」

幸が話を始めた。


「楽奴解放作戦は、今回は凄くシンプルなんだ。

 “町民会議”っていう演説があって、その時に町中の人々が集まるんだ。

 だから、そこでゲリラライブを行う。」

ピーネは分かってるのか“ふんふん”と頷きながら聞いている。


「日取りは今から約1か月後。

 時間はたっぷりある。

 問題はステージにどうやって侵入してゲリラライブをするかなんだ。」


「俺が飛んで連れてくぞ!」

ピーネが手をあげて発言する。


「そう出来たら簡単なんだけどね。

 防雨天井があって空からは難しそうなんだ。」

幸が残念そうに言う。


「たぶん海からしか行けないんじゃないかな……。」

幸の考察。


「いや、もう一つ方法はあるよ。

 ちょっと危険すぎるから、戸惑っちゃうけど。」

キヨラがふいに話し出す。


「ギロチンのやつ……。

 その会議のに選ばれれば、最初からステージに上がることが出来るよ。」

キヨラは言う。


「そっ、それはそうだけど、あまりにリスクが高いよ!」

幸は反対する。


 この“町民会議”は、毎回1人、公開処刑人を町から選んで公開処刑するという極悪な会議だ。


「私も、方法として思いついたから、言ってみただけ。

 危ないし、するべきではないと思う。」

キヨラの冷静な判断。


「とにかく、ゲリラライブの件はまだ1カ月ある。

 最良の方法を考えよう。」

3人とも頷く。


「もう一つは、サーカス団の話。

 馬車の話だね。」

幸が続ける。


「馬車は早急に欲しいんだけど、30万プオンもする。

 とてもじゃないけど買えないんだ。

 だけど、海沿いにダンジョンが出来たらしくて、それの攻略報酬が30万プオンなんだ。つまりダンジョンが攻略できれば、馬車が手に入る。」


「俺が行く!

 俺ならダンジョン簡単にやっつけるぞ!!」

レベル52のピーネが簡単に言う。


「そうだね。

 ピーネの力が必要だ。

 だからまずは、そのダンジョン攻略を進めようと思うんだ。」

幸が今回の作戦を言い終わる。


「方向は決まったね。

 みんなでやったら大丈夫。

 上手くいくよ。」

キヨラが笑って言う。


「おう!

 大丈夫だ!」

ピーネも力強く言う。


「あぁ、大丈夫だ!」


 話し合いも終り、今日はもう寝ることになった。

テントの中に入って行く3人。


 月明りは泉にそっと降りて一所に留まっている。

それを救いあげようとするように、やはり白と赤の花が咲いている。


…………。


……。


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