第2巻 異世界でもギターしかなかった~叩く女と二つの塔~

第1話「プロローグ ー関西弁の女」

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……。


…………。



              ――シューン――



              ――シュワーッ――



 森を閉めた闇夜のカーテンが、ホワイトの調整を徐々に上げていって、全体が白く見えなくなるような、とても強い発光で、無理やりこじ開けられた。

 その発光の根本は、なにやら空間がぱっくりと割れたみたいに、いびつなズレが生じている。

 しかし、それらは全てに行われた。

一瞬のその光に、その亀裂に、森の生物は誰も気付きはしなかった……。



「はい!きたぁ!

 おらきたぁ!!」

下品な関西弁がその亀裂が生じた筈の場所から叫ばれる。


 あ、声に驚いて今ハエが一匹、どこかへ飛んでった。


「なんやなんや?

 あたしは何になったんや?

 おっ、飛んでるやん。あたし飛べるんかいな。

 ほんで?ほんでなんなん?

 ハエかあたしは?

 あっ、あっちに川あるやーん。

 とりあえずどんな顔かおがましてもらおかなー。

 ひゅーっと飛んでくでー……。

 ってめちゃくちゃ遅いやん!なんなんこれー。」


 マシンガンの様に打ち出される言葉の多さ。

もしこの関西弁を聞いているのものがいたのなら、耳を塞ぎ、顔をしかめ、これだから関西人は……。

と関西人に対する評価を下げるのであろう。


 飛び方初心者であったこともあり、“フーラフラ”ともたついて飛行するその関西が、ようやく川に辿り着いた。


 その羽虫は、川の澄んだ水、そして上空から零れてくる月の光で、自らの顔を確認するのだった。


「あっフェアリーか!!

 良かったぁー……。うん〇バエやったらどうしようか思たわー。」


 きったない言葉。


 川ではなく小さな泉で自分の顔を確認したのは、運命の女神【アルメイヤ】だった。

 彼女は、幸に転移の呪文を唱えた時に、ルールを破った。

本来にするというのが転移のルールだった。

 しかし、幸にかけられたその呪文はにするというものだった。

 

 ルールを破った者には、古今東西あらゆる全てにおいて罰が下されるのが常だ。


 転移のルール破りの罰は……。

ルール破りをして転生された者が【成す】まで、転移呪文を唱えた者も、というものだった。


 アルメイヤは当然そのリスクがあることを、幸に呪文を唱えた。

まるで祝福するかのように呪文を。

 彼女は当然、後悔など微塵にもしていない。


「あーっ、まぁフェアリーなら当たりかなー。

 ただちょっと弱いねんなーこいつ。

 ちっこいし。

 狙ってたんはエルフやってんけどなぁ……。

 白百合の様な肌、サラッサラの緑髪。

 めっちゃしゅっとした体に、ボインボイン。

 完璧やん。

 あーそっちが良かったわー。

 リセマラできひんのこれー。

 でも待てよ。もっかい顔みよ。

 あー!!!

 ええやん!!あたしの顔も!!

 いつも通りの顔やーん!

 元の顔がいいからなぁ!」


 彼女は後悔など微塵にもしていない……、多分。


「まぁええわ。

 あたしにはやることがある!!

 幸や!!

 きっといきなりの異世界で“エンエン”泣いてるで。

 あの子“運の良さ”の能力値も0やもん。

 多分、最難関の“迷わずの森”とか飛ばされて詰んでるで。

 ……ってまぁ、流石にそんな運悪いわけないか。

 とにかく、あたしが助けたらな!!」


 罰には転移した者に接触してはいけないという規則は無い。

助言も可能らしい。


 アルメイヤは、幸と合流し、共に異世界を旅するのが目的なようだ。

ただ、自分の転移した者の行方は、分からない。

フェアリーになってしまっているアルメイヤは、と、幸が【成していった】軌跡を頼りに見つけるしかなかった。


 しかも、彼女の身体は今はフェアリーで、人間の手の平サイズ。

つまり、世界の大きさも通常の何倍にもなっている感覚なわけだ。

 

「なんなん、めっちゃむずいやん!!

 どこおるんか分からんねんもん。

 ……とりあえず、情報が絶対必要や。

 まずは、この森から出て自分がどこおるか把握しな。

 待っててなー!!幸!!!

 あたしが絶対助けたるー!!」

フェアリーは、人が海でするように、泉で叫んだ


 そして飛んで行く。


               “フーラフラ”


果たしてアルメイヤは、意中の相手、幸と無事に出会うことが出来るのであろうか。


…………。


……。


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