第2話「プロローグ②ークラウディア海岸の夜更け」

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              ”ザザーン”


 夜のクラウディア海岸は佇む。

遠くに見える灯台を目指して、月明りの道が滔々と橋を架ける。


            ”ああーっあぁぁー”


 波の音の静寂しじまに、耳を傾けると。

女の泣く声がする。


 “パシャッ”  ”パシャッ”


波が跳ねて弾かれる音もする。


 ”あぁーっ” ”あぁーっ”


 女が泣いているのか、それとも波と岩のこすれの反響なのか、分からない。

でも確かにむせび泣くようにも聞こえるそれは、クラウディアの砂浜にも届いて来る。


「あぁ……。

 また泣いてる。

 何がそんなに悲しいの……。

 ……僕にも教えて欲しい。」

男は砂浜から海を眺めて呟く。


 “パシャッ” ”パシャッ” “パシャッ” ”パシャッ”


 波は弾かれリズミカルに跳ねた。


       “ああぁ抱きしめて。私を強く。そして愛して。”


 女がこう言っている。

……男は何故かそう思う。


「君は僕の唯一の灯台さ。

 君が笑って光り輝くなら、僕は死んでも構わない。

 だから……。さぁ僕の事も愛しておくれ。」

 男は左手を海に掲げ、“さぁ、この胸に飛び込んでおいで”と言わんばかりの顔をしている。


 “パシャッ””パシャッ”“パシャッ””パシャッ”“パシャッ””パシャッ”


 波が六連符の様に弾かれた。


 クラウディア海岸から見える灯台はもともと一つだった。

それは若干ピンクがかった白色をしていて、とてもキュートなデザインだ。

 恋人同士はその灯台の元に小さな花の種をお互い植える。

それが並んで実ったらその恋はに花開く。

そんな恋のおまじない。


 しかし、つい最近、クラウディア海岸から見える灯台が一つ増えた。

突如として“ダンジョンの塔”が現れたのだ。

そちらの塔は若干水色がかっていて、そちらもキュートである。


 そう。

灯台はある。


「もう、ワターク!

 そんな訳の分からないことばっかり言って!!」

男が付けた砂浜の足跡をたどり、女がやって来た。


「あぁ、ユラーハ!

 君こそが僕の唯一の灯台。

 さぁ、その美しい唇をこの僕の口と触れさせて!」

ワタークはユラーハを見つけると、ドタドタとユラーハに向かって走って行く。


「さっき、海の女にも言ってた……。

 同じ事言ってたじゃない!!

 唯一の光って!!

 ワタークの事なんてもう知らない!!」


                ”トン”


 女は男を突き飛ばし、拗ねて走り去っていく。


               “ドボーン”


「あぁあぁぁぁぁあ!!

 ユラーハァ!!

 待ってーーー!!」

ワタークは海へ弾き飛ばされた。


 女は軽く小突いただけなのに、男は凄い勢いで海へダイブすることとなった。

 

 ……そう。

ユラーハは人間ではなかった。

 だったのだ。

 

 ウンディーネとは水を司る精霊である。

 人間のワタークと、精霊のユラーハ。


 相容れない二人の恋のお話が、このクラウディア海岸にはあった。


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