第37話「混合村へ帰ろう②」

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               ――シューッ――



 ピーネの羽根が静かに風を切る。

掴まれた幸とキヨラは……。


「凄い!凄い!

 早い!高い!風が気持ちいい!!」

初めて空の移動を楽しめた幸は大はしゃぎ。


「そうだろ!

 幸!空飛ぶのは気持ちいいんだから!」

ピーネは“えっへん”と鼻高々。


「ね!楽しいね!!

 でもピーネ凄いよね。

 私達も掴んでさらに荷物まで持ってるのに……。」

キヨラは驚きを隠せない。


 バーウの村でもらった沢山の荷物は全部ミスリルが編みこまれてどんなに負荷がかかっても千切れる事がない。に入れられている。サンタの袋の比ではない。

 重さも相当のものになるのだが、ピーネは平気でそれを腰に巻いて、さらに幸とキヨラを掴んで飛んでいた。


「こんなん簡単だ!

 もっともっといけるぞ!」

ピーネはさらに鼻を高くした。


…………。


……。


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 異種族混合村に着いた時、その光景に驚いた。



「おい!

 ゴブ!!

 ここにこの根があったら通りにくい。

 サイクロプスに言って抜いてもらえ。」

タックが言い放つ。


「へい!

 おやびん!!」

ゴブはそう言ってサイクロプスと根っこを引き抜いた。


「おう。

 ふたりともサンキューな!」

タックは二人に笑いかける。

ニヒルな格好良さに、ゴブとサイクロプスはしびれていた。


 見ないと思っていたら、なんと悪ガキ6人組は、種族混合村に来ていたのだ。

ゴブと意気投合してついて来たらしい。


 タックの恐ろしいほどのリーダシップで、村はどんどん発展していきそうだ。

それにしても、現状タックはこの村とは幸の能力で繋がっていないので、ゴブとしか話せないのに、他の魔物にも慕われているのは恐ろしい才能と言えよう。



「おお!!

 幸じゃねーか!!

 やっと来たのか!!」

タックが幸を見つけて声をあげる。


「タック!

 こっちに来てたんだね!!

 なんというか……。凄いね。」

この光景を目の当たりにして驚きを隠せない幸。


「あぁ。

 バーウでゴブと仲良くなってさ。

 話を聞いたら、魔物の数が増えすぎて、にっちもさっちも行かないって言うからさ。

 俺が手伝ってやろうと思って。」

魔物の村に平気で行ける度胸を持つタックの発言。


 幸の2回目のライブのあと、さらに魔物達は増え続けていたようだった。


「ようし……。」

幸は勇んで腕を回した。


 新調されたミスリルのケースからギターを取り出し、幸が構えた。



              「C F G C」



 幸がこの異世界へ来た時にピーネの前で披露した即興演奏のコード進行だ。

幸はおもむろにカッティング(ミュートを駆使してチャキチャキと歯切れのよい音でリズム感を強調する奏法)をして、リズムを出す。


 作業していた魔物達が、どんどん集まって来る。

幸の演奏を見て、ピーネもキヨラも楽器を取り出して参加する。

 

 ギターに、ハープに、ヴァイオリン。

ジャンルとしてはバラバラなその楽器達が、幸の指揮の下に集まっている。


                “♪~~~”


 ファンキーなリズムに、この村の魔物や人や、色んな種族が集まった。

ミックスされた集団が一堂に会して、合わせて踊っている。

 ミクスチャーな音楽に合わせて……。



…………そして曲が終わった。



…………。



……。



 演奏が終わった後に幸が言う。


「どうだ?

 タック。

 みんなの声……、分かる?」


「えっ……。

 うおぉ!

 本当だ!

 魔物達の声が分かるぞ!!」

タックが感動して叫ぶ。


 幸の能力の一つ【音楽は言語を越える】

幸のギターに魅力されたものは、たとえ魔物であっても、意思疎通が可能になる。

 この能力はどうやら、、その時の音楽を聴いている人同士でも意思疎通が可能になるのだ。

 幸はタックとゴブが話しているのを見てそうじゃないかと思ったが、当たりだった。


「これでもっと村作りがやりやすくなるぜー!

 ありがとな!」

タックが笑う。

残りの5人もにっこりしている。


 幸もにっこりと笑い返す。

 最初は石を投げられて散々な出会いだったが。

最後は本当に良い奴らだと思えた。


「……もう行くんだろう?

 みんなに別れ。言って来いよ。」

タックが言う。


3人はそれぞれに別れを言いに行った。


「ダースパちゃん!」

キヨラが蜘蛛の足を掴む。


「キヨラ!」

大蜘蛛がキヨラを抱きしめて言う。


「チケット作りとか本当にありがとうね。

 またいつか帰って来るから。」


「待ってるわ。」


 幸はスライムに挨拶を。

「スライム!

 ありがとうね!」


「うぃうぃ」

スライムはそういうと幸のギターケースに呪文をかける。


 幸のギターケースのヘッドの辺りの中心に、魔法で小さくくぼみが生まれていく。

スライムは、そこに“永遠に消えない火種”を埋め込んだ。

 ミスリルは呪文に呼応し順応する。

その部分は開閉式に形を変えて、光としても、火種としても自由に使える様になった。


「なんだ!?!?

 凄い!

 これ、これからの旅に、めちゃくちゃ役に立つよ!!

 ありがとう!」

ハイマジシャンの万能ぶりに感動する幸。


 ピーネはずっと住んでたので、村人みんなと喋っていた。

遠くからでもおいおいと泣いているのが分かった。


…………。


……。


 ひとしきり挨拶も終え、いよいよ混合村をあとにする。


「じゃぁ、これで本当にお別れだね。

 みんな本当に本当に……。」


「「「ありがとう!!!」」」


 幸とキヨラとピーネが大きく大きく手を振って叫ぶ。


「「「「「「またなー!!!」」」」」」

悪ガキ六人も手を振る。

 その後ろには魔物がいっぱい。

みんなみんな大きく手を振っていた。



…………。



……。



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