第27話「ステージの上にて」

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 夕暮れが村を優しく赤色に包んでいた。

横15メートル、縦が7メートル程のこじんまりとしたステージ。


 普段はほとんど使われることなく埃やゴミだらけなのだが、今日はピカピカに磨き上げられていた。


 ステージの両脇には、本来なら炎が煌々と輝く灯籠の様なものが設置されているが、今は火が無く、ただ、たたずむだけである。

照明器具はそれのみであった。

 

 そんなステージの真ん中では、4人の男女と一匹の魔物が円を組み話し合っていた。


 その顔は、神妙な面持ちや、ワクワクを抑えられない顔など多種多様。


「今日は、ギターと、ベースと、ドラムとハープとヴァイオリンがいるんだね!

 凄く楽しみ!」

キヨラが笑いかける。


「人は来てくれるか分からないけど、やれることはやったと思う……。

 ……大丈夫、大丈夫……。」

幸は自分に言い聞かせる。

 

 悪ガキ達が石を投げてる最中も、幸とキヨラは懸命に、チケットを配り続けた。


 幸の思い描いていた作戦は、何かの催し物のチケットと書かれた、チケットを渡して、“催し物”を見に来る人を募ること。

 だが結局、楽奴であるキヨラやギターを演奏することがばれている幸が配った為に、一人として受け取ってはくれなかった。 

 それでもチケット自体は家に届いたわけで、来てくれる可能性だってあるかもしれない。


「そうだ!!

 幸が演奏したら絶対大丈夫!!

 人は集まってくるぞ!!」

ピーネの眼は微塵にも疑いが無く輝いていた。


「俺達も、君との演奏はなぜだかとても楽しみなんだよ。

 あんな演奏一緒に出来るなんてってね。」

リズム隊も意気込んでいる。



 それぞれにライブを楽しみに思っているが、問題が一つあった。

それは、ステージにである。 

 

 ライブは始めるにはさすがに手元が真っ暗では出来ない。

ライブを演出する光は本来とても大事な物であり、ライブのクオリティにも関わってくる。


 今回は即席のステージなので、高望みはしないものの、やはりステージのライトアップぐらいは欲しいところである。


「灯り、どうしようか…。

 ピーネ、ひとっとびしてスラちゃん呼んでくる?

 リハーサルもしなきゃだけど……。」

キヨラがピーネにウインクしてお願いする。


「えー、俺もみんなとリハーサルしたいぞ……。」

仲間外れを拒むピーネ。


  

              

>>>>*<<<<    両翼の灯籠に明かりが灯る    >>>>*<<<<




「「「「「あっ」」」」」

5人が同時に声をあげた。


「見に来たぜ。

 楽しみにしてたんだ。」

ミスリルのセットアップの警備兵が、自分達のアイデンティティを脱いで見に来てくれたのだ。


 手に持つマッチで、火を入れた様だ。

長い間放置されていた、灯籠もひさひざに本来の自分の仕事が出来て、嬉しそうに揺らめいて光っている。


「もう今日は仕事終わりだからな!

 一日の終わりに、お前のライブが見れるなんてな最高だぜ。

 あっそうだビール買って来ないと……。」

ミスリルのセットアップじゃない男は、そう言うと、酒場まで歩いて行った。


「ありがとう……。

 あとはやるだけだ!

 さぁ!リハーサルをしよう!」


 ライトアップされたステージの上でまた4人と1匹の魔物は頭を突き合わせて、

【成すため】の初めてのライブをどう盛り上げるのかを試案するのだった。


 バーウの村のエントランスから村の深部まで大きく伸びた中央通り。

開かれた空間によりステージの明るさが、印象強く目立っている。

そして暗闇が覆い、ステージは更に輪郭を帯び、ここに在ると際立ってくる。


もう日は完全に落ちて、夜がやって来ていた。



…………。



……。




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