第16話「種族混合村に着いた後」


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……。


…………。


ピーネに獲物の様にして連れ去られている最中の幸とキヨラ。


「キャー!

 速い!!風が気持ちいい!!

 魔物さん落とさないでね!!」

キヨラはこの上空の高速移動をアトラクションの一種にとらえている。

 持ってきたヴァイオリンは背中に掛けるタイプのケースに入っており、落ちる心配はない。


「俺はピーネだ!!」

風切り音に負けないように叫ぶ。

 ピーネは以前、人間との交流があったので、キヨラとの関わりに特段違和感はない。


 幸はと言うとギターにしがみつき白目になっていた。


「ところで、幸は、もしかして……楽奴じゃないの?

 そんなわけないと思うけど……。

 楽奴がこの世界であんなに楽しそうに演奏が出来るなんて信じられない。」

キヨラにとって素朴な疑問。幸にとっては不思議な質問。


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 音楽は、で、存在そのものが楽しいんだ。

 俺は、この本能に身を任せ、自分のギターを掻き鳴らす。

楽しいに決まっている。

 世界中が鮮明に色を蓄えて、俺に色を見せびらかしてくるみたいにさ。


 でも、バーウの村で見たキヨラ達の演奏は違う。

綺麗にハーモニーを合わせられていて、誰かと演奏出来るって、楽しいに決まっているのに……。

 みんなにっこりもしないで、滔々とこなしていた。

それも苦しそうに。

 楽奴は辛そうに演奏している。

 それはまるで、世界の全てが全員楽奴の敵みたいでさ……。


 一体なんでなの……?


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「なっなんてことは……。

 いっ、今は考えられないー!!!」

必死にギターを落さぬよう抱きかかえる幸は、会話など出来るはずもなかった。


…………。


……。


 着地座標はピーネの家。

完璧に着陸し、フライトが終わりを迎えた。

ものの5分ほどの所要時間ではあったが、幸は真っ白に燃え尽きていた。


「死ぬかと思った……。」

幸は蚊の鳴くような声で生の実感を現す。   


「楽しかったねー!

 ここが、ピーネの住む……、異種族混合村?

 凄いなぁ!

 魔物の村なんて!

 ドキドキしちゃう!」

キヨラは、とてもキラキラした目で迷わずの森の全てを眺めていた。


 彼女は魔物との対峙が、ハーピーとが初めてであって、今このように村にも、家にも入れてもらえるくらい仲良く?やっている。

 魔物に対する抵抗は薄まっている。


 そもそも、楽奴に基本的な人権はない。

移動の自由は当然なく、買い物などするお金もないので、村を出る事自体初めてだった。

 楽しくないわけがない。


「キヨラ!

 人間をここに連れてくるなんて、幸以外特別だぞ!!

 ここが俺の村だ!」

ピーネは鼻を高々とし、燃え尽きて蹲っている幸を抱き上げて、のしのしと家に上がって行く。

 

 キヨラもそれについて行った。


                “どさっ”


 幸はピーネに寝床に雑に降ろされ、ピーネはすかさず大事な物入れに入っている、ハープを取り出してくる。

 

 その手は少し震えているようにも見えた。


「ほら!キヨラ!

 俺のハープだ!

 俺の音楽だって聴け!!」

ピーネはあせあせと準備し、おもむろにつま弾こうとする。


「……ピーネ!

 どうせなら、今日の夜3人で演奏しよう。

 みんなの前でさ!ライブだよ!

 絶対楽しいよ。」

幸は、死にそうな面持ちでピーネに伝える。


「3人で演奏!?

 いいね!

 観客は魔物達ね!

 とっても楽しみになって来た!」

キヨラはルンルンと幸の意見に大賛成。


「……分かった。

 幸。

 俺、幸とキヨラと一緒に演奏する。」

ピーネも幸に従う。


 誰か特定の人に、「自分の演奏の最大限を聞かさなければいけない」こういうシチュエーション。

 これはコンテストやライブの大会でよくあるが、たいていの場合、実力の半分も出ない。

 ましてやピーネの様にライブと言う現場の経験値を積んでいない者は特にだ。


 幸はそれを直感で分かっていた。

 ピーネのキヨラに対する感情。

それはきっとピーネが楽しく演奏出来ないと伝わらない。

 そう分かっていた。


 だったら、上手いとか下手とか関係なしに最高に楽しく演奏するには自分も混ざって3人で一緒にライブをすればいい。


音楽は楽しくなくちゃならない。

それは幸が大鳥に教わった、とってもとっても大事な事だった。


3人は陽が暮れるのを待つことになった。


…………。


……。


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