第17話「ライブまでの時間。たわいのない話」
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村中で火を囲い、飲んで食べて騒いで、そして楽しいライブ。
最高の宴。
時間が来るまでは、あと小一時間ほどある。
つまり、それまでは、何をしてもいい時間があると言う事。
男女が一つ屋根の下で。余暇があるのだ。
3人は、緩衝材になるような小枝や葉っぱが敷き詰められていて、一人二人でぎゅうぎゅうになる、ツバメの巣のようなねぐらで、無理やり重なりあっていた。
修学旅行で、教師の目を盗み、上手いこと女子の部屋に忍び込み、男女同じ布団に入ったような状態。
そうなると、やることは一つである。
…………。
……。
「ねーねー、幸。
どういう音楽が好きなの?」
ねぐらに絡まったキヨラが縦肘をつき、幸の顔を覗きこんでの、まず第一声。
音楽をする者は一様に自分や相手のルーツに興味深々である。
初めましての方なら尚のこと、尊敬出来るプレイヤーにならば、ことさら尚のことだ。
「あっ。
……おっ、俺は、“バンプ”を聞いて音楽が始まったんだ。
分かるかな?
“バンプ オン キッチン”。
おっ、俺が一生一番好きなバンドだ。」
幸の音楽のルーツの話である。
二人に挟まれる形で幸は手を腹で合わせ仰向けの格好。
「バンプ?
知らないなぁ……。
……ほー、ほー、ロックの中にカントリーが混じった様なギターフレーズ。
まるで物語みたいな歌詞に心に刺さるメロディーかぁ……。
幸が好きって言うんだもん!!
絶対、私が聴いたら泣いちゃう。」
キヨラは幸の好みのバンドのメロディーを想像する。
「きっと、そうなるよ。
バンプの音楽は本当に凄いから。
おっ、俺が今聴いても、気を許したら泣いちゃうもん。」
現実世界でも友達と音楽の話がしたくてしたくて仕方がなかった幸。嬉しそうである。
「ねね、そのバンドってどこの国のバンド?
きっと、文化が発達してる国でしょ?
ここ【シグルド】の諸国で名前を聞いた事は無いから、やっぱり【レナシー共和国】か、【ファードナル】かな?
私達"楽奴"には、外国の情報なんてなかなか入って来ないから全然知らない!
いいなぁ……。
聞いてみたいなぁ。」
キヨラが応える。
◇◇◇
後に聞いてみると、キヨラの楽奴に対する情報収集源は、町民が捨てた新聞なのだそうだ。人はいち早く新聞の楽奴のページを破って捨てるらしい。しかし毎回一面と見開きはバンドの事が書いてある。
まず恐らくどこかの外国のバンドが一面を飾り、自国の記事の面でも楽奴のバンドが語られているそう。
◇◇◇
「幸が好きなバンドなんて、もちろん【ドルトナティア】出身に決まってる!!
俺がよく通ってた町のやつらは凄い上手かったし、みんな練習熱心だった!」
ピーネが熱弁する。
ピーネはキヨラがこれ以上近づけないように羽を大きく広げて幸を包んでいる。
「ドルトナティア?
そんな国聞いたことないけど……?
あっ!!
魔物の国かな?」
キヨラの反論。
「違うぞ!
人間の国の一番おっきかった国だ!!
あの消えちまった国だ!」
ピーネは当たり前の様に言う。
「消えた?
何それ!
そんなの聞いたこともないよ。
今はこの世界の国は、【レナシー共和国】、【ミグニクト】、【ファードナル】、 【ソドム】、【ライトメイト】、【シグルド連邦】6つだよ。」
キヨラが世界の常識を述べる。
「???」
幸には当然分からない。
「今この世界で音楽をしてるのは楽奴だけなの。
きっと幸の好きなバンドも楽奴なんだよね?
だったら、楽奴の数が多いって聞いたことがある、レナシーか、ファードナルかなって。」
キヨラはまた、常識と予想を披露する。
「楽奴ってなんだ!?
そもそもキヨラはなんでそんなボロボロ着てる?
ドルトナティアでは楽器弾くやつはみんなヒラヒラしたお姫様が着るようなキレーなドレスだった!」
ピーネはヒラヒラのドレスのマネを自らの羽根を使い器用にこなす。
「「???」」
幸とキヨラの頭には???が浮かぶ。
楽奴がそんなヒラヒラのドレスなんて着れるわけがないとキヨラは思う。
そして幸にいたっては二人の会話の全てに???が浮かぶ。
幸は転移されたばかりで、この世界の事はほとんど分からないが、この小一時間で分かったことがある。二人の話を鵜呑みにしたらだが……。
◇◇◇
キヨラの話と、ピーネの話を統合してみると……。
①この世界にはもともと、ドルトナティアという国があったが、それが何かが原因で消滅してしまった。
そして魔物であるピーネは把握していたが、人間であるキヨラはそもそもドルトナティアの存在自体、認識をしていない。
②今、この世界は6か国存在している。
レナシー共和国・ミグニクト・ファードナル・ソドム・ライトメイト。
そして今自分たちがいるエリアのシグルド連邦である。
③楽奴と言う、音楽をさせられる専門の奴隷がいる。
この世界の人々は音楽が大嫌いで、その結果なのか、音楽が聞こえなくなった。
そして、楽器は、まるで黒光りするGのように、存在するだけで気持ちの悪いものとなっている。
そのような音楽の待遇の中、楽奴は何故か、音楽をすることを強いられている。
もちろん。自由や平等といった人権はない。
④かつて隆盛していたドルトナティアでは音楽が盛んに行われていた。
◇◇◇
こういう話を、バーウの酒場で聞きたかったのだが、幸には上手く出来なかった。
結果的にキヨラと出会い、この世界のことが少しわかった気がするそんな小一時間……。
「おっ!
そろそろちょうどいい時間だ!!
幸、キヨラ、ライブの準備をしに行こう!!」
ピーネはキラキラした目で二人に笑いかける。
日は沈み、赤い世界がグラデーションに溶けて、夜を待ちわびていた……。
…………。
……。
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