第10話「隣のムラ」

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「幸!

 幸!!

 おはよう!!!」

飛び跳ねるように起きたピーネが、


 結局考えることも飽きて、横でうたた寝して居た幸に覆い被さる。


「んっ……。

 あっ、俺も寝ちゃってた。

 ピーネ遅いよ!

 ……おはよう。」

女の子?に起こされるのは高校男子のシチュエーションとして、悪くない。


「昨日は楽しかったな!!

 今日は何する!?

 またライブするか!?」

興奮冷めやらぬという顔で幸に頬擦りしながら言う。


「ラッ、ライブもいいよね。

 でも今日はこの世界の事色々知りたいなぁと思ってるんだ。」

どぎまきしつつも思いを伝える幸、どうせ自分の力ではピーネを引き剥がせないと分かっているのでされるがままである。


「この世界の事なぁー。

 俺ら魔物は自分が知ってる事しかしらねぇからなぁ……。」

ピーネは身体を擦り寄せながら言う。


 魔物には書物と言う文化は当然無く(一部の上級の魔物を除く)、種族混合村みたいに、村と言うコミュニティがあったとしても、基本的には魔物は個々を尊重する生き物である。

伝聞と言う文化もほとんどない。


「あっ!

 じゃー、人間の村に行くのはどうだ?

 迷わずの森を出て西にちょっと飛んだところにあるぞ!」

スリスリに飽きて、あぐらの上に幸を乗せて抱きしめながら言う。

 お尻の肌触りは羽毛がしなやかで、そして暖かい。


「人間の村があるの!

 それは沢山色んな事が分かるかも!

 ……でも、ちょっと行くの怖いなぁ……。」


 同じ人間ならば、かなりの確率で、この世界の事が分かっているはずだ。

それだけでなく、文化や、食べ物、もしかしたら異世界転生者の事だって知っているかも知れない。

 

 ただ、幸にとって人間、他人との接触はトラウマでしかない。

この世界での初めての人間との出会いには相当の覚悟を要するのだ。


「……大丈夫。

 幸なら俺が守る」

優しく包み込む様に抱きしめながらピーネが諭す。


「それに……、

 何か怖いことがあっても、幸がギターを弾いたら一発で解決だ。」

目線の先で幸のギターが煌めいていた。


「……そうだね!

 きっと大丈夫!!

 ピーネありがとう。」

心強い相棒に感謝。


 そしてもう一つの相棒にも。

幸はギターを掴み、それの"ボディ"をひと撫でする。

ギターは“キュッ”と小気味のいい音がなり、ピーネの目はハート。


「幸!行こう!!

 俺がいたら何にも怖いことはない!」

力強く言うとピーネは幸の身体を大きな脚の爪で掴む。



「えっ!

 ちょっと、なっ、何するの!?」

凄い勢いで捉えられた獲物みたいな姿になり慌てる幸。



「幸!

 絶対にギターをその手から放したらダメだぞ!!」

そう言ってピーネは大きな翼を広げ浮上する。



そのまま西に目掛けて“ヒュー”と飛んで行くのであった。




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