第9話「祭りのアト」

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   「……頭痛い~~。」


 初めて飲んだ"ルーコルア"と呼ばれるものに飲まれた幸が目を覚ます。

 ハーピーが「ボロンッ!」と出した胸を枕にして幸はこの世界での初めての朝を迎えていた。

   

「て、てて......。

 みんなめちゃくちゃ飲ますんだもん…。

 でも楽しかったなぁ。」

昨日の余韻に浸る幸。


 しかし、微睡みから解けると自分の状態に気付く。

「……最後の方はあんまり記憶がないけど、どうしたんだっけ……。

 ……はっ!?」

立ち上がろうと手をついた位置の「ブニュッ」とした感触で気付く。


「俺なんで裸!?

 ちょっとピーネ!

 なっ、なんで一緒に寝てるの!!」

完全にすっぽんぽんの自分と、身に纏うものが何も身につけられていないピーネが同じねぐらで絡まりあっていた。


 脱ぎ散らかされような自分の服を掴み、急いで四肢を穴という穴に通す、高校2年生男子。


 昨日は夜がふけるまで飲み、幸の意識が飛んだ所でおひらきとなり、ピーネが幸を自分の家まで運び今に至ると言うわけだ。


「……あぁっ?

 あぁ、もう朝?

 ……幸、魔物には朝も夜も関係ないんだぞ……。」

ハーピーは低血圧なのか、昨日のハイなテンションはなく、ぶつぶつ言いながら、大きな羽で幸を囲み胸に抱き寄せ黙らせる。


「……んー!!

 んー!ん-!!」

柔らかい何かで窒息しそうな幸が懸命に声をだす。


「ZZz......。」

完全に沈黙したハーピー。


……。


…………。


 やっとの思いで柔らかい牢獄から抜け出した幸は、ここから動く事も出来ないので、これからの事を考える事にした。


 ここから動けないと言うのは、ピーネの家は村の最奥にある大きな大きな木のてっぺんで、害虫、外敵の侵入を防ぐためなのか、枝と言う枝全てが折られており、薄茶色い幹が剥き出しになっている形で、ハーピーが飛ばなければ、人間の幸には到底降りることが出来ないからだ。


「俺これからどうしたらいいんだろう……。

 みんなと仲良くなって、"居てもいい"って言われたこの村に留まると言う手もあるけど……。」

幸にとって関係性の構築が1番困難で恐れていることだ。


 だとすると、この村はとても居心地が良い。


 現実世界の地獄のような学校生活。

自分を人じゃなく"椅子"にしか見てない毒巻達のいないこの異世界。


 自分を"仲間"と言ってくれた魔物達。

この世界にいる方が楽しいに決まっている。


 ただ、電気や、道具、ちゃんとした家など、人間の文化が何もないこの村では、魔物の様に体力や力がない人間にとって苦しくなってくるのは明らかだった。


 そして何より……。


「……母さん、陸……、空……。

 ……心配してるかな……。」

幸は現実世界の家族を想う。


 地獄からの脱却と言えば聞こえはいいが、家族、バンドの仲間、大切な者も置いてきてるのだ。


「……やっぱり、帰る方法を探そう。」


 そこで幸は女神の言葉を反芻する。


ーーー【成しなさい】ーーー


「何を成せばいいんだろう……。」

ハーピーが起きなければ、木の上から降りる事も成せない幸には、途方に暮れることしか出来なかった。


……。


…………。


ピーネが目覚めたのは日が高くあがった時だった。


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