次のバス停 【掌編小説】
大枝 岳志
次のバス停
潮にやられて錆びた街から離れる為、私はバス停を探して歩き回っていた。
良く晴れた空を鴎が泳ぎ、凪の海は囀り程度の波音を気持ち良く響かせている。
それなのに妙に不安な気分に陥るのは、錆びたトタン屋根がひしめく住宅や、擦れ違うと罪人でも見るかのような目でこちらを見つめる人々の所為だろうか。
何処か閉鎖的な空気に息を詰まらせながら、手紙を頼りに訪れたものの、結果留守で会えずじまいの友人に詫びるような気持ちで街を離れる。
この街へ来たのも、旅の途中の気まぐれであった。
何の観光名所も、食堂のひとつすらない海外沿いを歩いていると、小さなバス停が遠くに在るのが目に入って来る。
辿り着いて時刻表を見てみると、幸いバスはもう間もなくやって来るようであった。
自分の幸運にひと息つき、誰もいない待合のベンチに腰を下ろす。
海が寄せて引き返す音と、遠くを走る車の音以外、何も聞こえて来ない。それなのに太陽は燦々と輝き、鴎は揺れている。
まるで人だけが死んでしまったような、そんな街の中にでも居る気分になって来る。
しかし、現実にはこんな場所で死ぬまで暮らし続ける人間がいると思うと、やはり世界は広い。
やがて錆びだらけのバスがやって来ると、運転手は私を一瞥しただけで、停まることなく通り過ぎて行った。
何かの間違いだろうと思ったが、バスの運転手はこの街で擦れ違った人々と同じ目をしていた。
私は立ち上がり、歩き出した。
次のバス停が街の境界線の向こうであることを強く祈りながら、とにかく歩き出した。
次のバス停 【掌編小説】 大枝 岳志 @ooedatakeshi
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