第3話 ⭐野原さん⭐
(んしょ!)ボクは細い塀によじ登った。
野原さんのお家を目指す。
野原さんは、ネコ好きでご近所でも、のら猫仲間の間でも有名だ。
僕たちのカリカリをいつもお家に置いててくれるんだ。
いつだったか、雪が降ってすっごく寒い頃だった。
お家の中に小さな木があって、キラキラしたオモチャがたくさんぶら下がっていたんだ。ボクは嬉しくなって、ツンツンしたら
『チリンチリン』
って音がして、あの時はさすがにびっくりして飛び上がってしまったんだ。
『アハハハ!』
って、野原さんは嬉しそうに笑ってたけど。
『ぷち、びっくりしちゃったの?』
って。
ボクのここでの名前は(ぷち)。
もちろん、お尻に黒いぷちがあるからだ。
(そりゃー、驚いたさ!!!)
『にゃーーーん!』
(もう、笑い事じゃないぞ!)
そしたら今度は野原さんが何だか笑ってスイッチを入れたんだ。
(イヤな予感がするーーー!)
ボクはとっさにそこからジャンプして離れたんだ。
『アハハハ!ぷちは逃げ足早いなぁー!』
今度はその木についた半透明の丸いやつがピカピカ光りはじめたんだ!
(もー、びっくりしたー!心臓がバクバクしてるぞー!)
『ぷち、ゴメンゴメン!見てー、キレイでしょ?キラキラ光って!クリスマスツリーっていうんだよぉー!』
野原さんは笑顔で教えてくれたのだが、
ボクはちっとも楽しくない!
それでも、しばらく眺めていたんだ。
(あっちが光ったり、こっちが光ったり。楽しそう??)
ボクはそーっとそのクリスマスツリーとやらに近づいていった。
(もう1回だけ。)
って、ツンツンしてみたら、楽しくなってしまった。
(今度はそっちか!こっちか!おっ?あれっ?にゃんだこりゃー?!)
結局、そのクリスマスツリーとやらでしばらく遊んでしまった。
その日、初めて野原さんがくれたおやつがたまらなく美味しかったんだ。
『ぷち、メリークリスマス!』
といって、チューブに入ったおやつを野原さんが食べさせてくれた。
(はらー、美味しい!気に入った!)
『美味しいでしょ?』
『にゃぁ~~~』
(うまい!うますぎる!!野原さん、最高!)
『チュールっていうんだよ!また今度みっちゃんとこにお願いしとかなきゃね!』
ってなわけで、野原さんの家にはボクの大好物がある。
基本的にはカリカリなんだけど。
島でお祭りや、人間のイベントがある時は、野原さんの家に必ず来るようにしている。
『にゃーーん!』
『あら、ぷちいらっしゃい!ちょっと待っててね~』
(今日もカリカリだなぁ。何にもない日だから。)
『はい、どうぞ!』
野原さんは髪の毛がとても茶色いんだ!
もともとではないみたい。
島に一件だけある、美容室の裕子さんにお願いして色を付けて貰ってるんだって。
(やっぱり、カリカリだ。でも今日のは小さなお魚も入っているぞ!うまーい!)
『にやぁ~~』
『またチュール買っとくから!』
(おー、頼むよー。野原さん!)
贅沢なお願いをしているのだろうが、ボクはあの味にはまってしまった。
そして、しばらく野原さんはボクの事を撫でていた。ボクはあんまし聞きたくなかったけど、野原さんは旦那さんへの愚痴をブツブツと心の中で話している。
まあ、ボクは誰にも話せないから。
存分に吐き出すと良いさ。
その代わり、今度はチュールにしてほしいと一生懸命、野原さんに伝えてみたけど。
伝わってるかなぁ。
伝わってないだろうなぁ。
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