予備校飛び出した
越智 零れ
第1話 受験
日本の学校生活は受験、受験、受験だ。できる限り多くしようとすれば幼稚園、小学校、中学、高校、大学と5回も受験することになる。義務教育が終わってからも最低2回は受験をしないといけない。
「良い大学に通わないと生涯年収が3000万から4000万、人によってはもっと高く、1億も違う。だからいい大学に通いなさい、」
「いい大学に通うためにいい高校に通いなさい。」
「いい高校に行くためにいい中学に通いなさい。」
両親からこの言葉を刷り込まれた日本人は多いのではないだろか。かくいう俺もその一人である。親に言われるがままに小学校から塾に通い、友達と遊んだ記憶などない。中学に入ってからはある程度自由は得られたが、それもつかぬ間、高校受験はやってくる。すると自由な時間は気づかぬうちに塾へと消え、高校受験が始まる。ここで受験に落ちたものは両親から落胆を含む目で慰められる。人によっては怒られる。俺のように、運よく高校に受かったものも、高校生活を楽しむ間もなく大学受験がやってくる。大学受験では、場所によっては急に志望動機など聞いてくるところがある。俺からしたらふざけた話だ。いわれるがままに良い大学を目指していた俺に志望動機もくそもあったもんじゃない。
「将来の仕事も考えて、学部を決めろ。」
と、教員や両親は言ってくる。馬鹿を言うんじゃない。将来の仕事なんて考えてる暇がどこにあったというのだ。ずっと受験に追われ続けていたというのに。そしてなんのやる気もないまま挑んだ大学受験で、俺は当然のように落ちた。当たり前だ。勉強のやる気も出ないまま、向かう先も直前で決めたような、志望動機を1行もかけないような情熱の俺が、まじめに大学に通おうとしてる人間に勝てるわけがない。親は当然のような顔をして俺を予備校に入れた。
「いい学校に通わせてやったんだから、いい大学に行け。」
ふざけた話である。ほんとうにふざけている。俺はこの時点で予備校の一年を別のことに使うことに決めた。これまで親の言う通りにいい子に勉強していたのだ。一年好きなことをしたって何が悪いというのだ。恩着せがましく、受験を俺が好きでしたかのように言うのだったら、俺だって好きなことをしてやろう。受験なんてくそくらえだ。
人によっては俺のことを恵まれてるという人もいるだろう。勉強がしたくても、お金がなくて勉強ができない人間はいるんだぞと。恵まれた環境にいるお前は頑張るべきではないのかと。俺が恵まれていることは否定しない。中高と私立に通わせ、予備校まで金を出すというのだから。だからといって俺が勉強しなければいけないとは思わない。勉強なんてやる気がないと続かないのだから、やる気のない俺が行っても時間と金の無駄だ。その時間を使って働いたほうが100倍ましだ。
俺は日本という国の国民性が大嫌いだ。すぐに集まって結束し、さも正しいかのような顔をして、同調圧力という暴力をふるうくせに、暴力反対など掲げて正義の顔をしてふんぞり返る。そのくせ、目の前の暴力からは目を背け、自分は関係ないというふりをして立ち去る。目の前ではおべっかを使っていい顔をして、裏ではこそこそと悪口を言い合う。長いものに巻かれ、臭いものには蓋をする。年長者というだけで威張り散らかし、従わないと途端にヒステリックになって怒り出す。まともに話もできたものではない。俺は自分が日本人であるということを心底嫌っている。同族嫌悪とも言えるだろう。クソみたいな親の血を引いているのに心底嫌気がさす。自分を殺してやりたいくらい嫌いだ。死ねば楽になる。死ねば全て終わる。でもそれが実行出来ないクソッタレな自分が嫌いだ。だから少しでもましな自分になれるように俺は好きなことをするのだ。
予備校飛び出した 越智 零れ @kemohito1
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