第3話 悪夢を消し去るとき
国立魔法統制所ではデンホルムの行方を追っていた。あの男が転生して死滅を免れたというところまでは掴んでいるがその足取りがわからないままだった。
我々は一部の魔法使いが怪しい動きを始めてから監視を続けてきたのたが、どうやらデンホルムはすべてを従えて絶大な権力(ちから)を手にしようとしていた。王宮に仕えていたその男はまず司教や貴族を欺いて富を得始めた。そして奴の野望はいつしか"すべて"を望むようになった。欲望が誰かの幸せを奪い去るが如く。
それは我々が奴を監視し始めてから暫くのことで、国王を殺害しようとする動きを掴んだ。市民においてもその噂が立ったときだ。司教は宣言した。
「親愛なる信徒に告ぐ。我らは神に誓って邪悪な魔法使いを排除する。」
それからまもなくだった。市民たちが魔法使いを引き摺り出しては処刑する魔女狩りが始まり魔法使いの立場が日を追うごとに危うくなったのだ。それは国立魔法統制所の私たちをも畏怖させたのだが、この国と王に忠誠を誓ってここにいるためか陰口を叩かれる程度で済んでいた。だから辛うじて大義を果たせる状況であったのが幸いで、引き続き奴を追い続けている。
そして今、デンホルムは目の前にいる。私が臨戦態勢を取りながら警告すると、敵はゆっくりと振り返った。
「なぁ…デクスター。私と君は友であろう?」
私が首を横に振って見せるとデンホルムはすかさず殺傷系魔法を繰り出す。私は弾き返しながら応戦するが力の増したこの男には少し力が劣るようだった。防衛するのがやっとだ。
「デンホルム!お前がしたことは他の魔法使いたちをも苦しめている!改心するんだ!」
私は必死に訴え掛けた。しかし、魔法の力は衰えることなく、そして容赦なく私を襲い続ける。最早なにを言っても意味が無いだろう。そう諦めた時のことだった。
「大変そうだなデクスター!」
と笑って見せながら加勢するのは同僚のデイヴィッド・クラークだ。そして続々と国立魔法統制所の面々が集まり加勢していく。追い詰められたデンホルムは遂には命を絶たれたのである。
その後、国立魔法統制所は悪の魔法使いを討伐したことで賞賛を受けると思われていたが、教会や市民の反応は真逆だった。この討伐戦の様子は市民に一部始終を目撃されており、これだけ危険な力を持つものがいるということに対する恐怖心から魔女狩りを煽ったのである。これまでは身の安全だけは保たれていた国立魔法統制所の魔法使いたちも市民に襲撃されたのだ。彼らは解散して世界中に身を隠した。
悪夢の魔法使い 下川科文 @music-minasan
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