少し、未来の話

「八重先生ー! 手が止まってますよー?」

「んー、やだ。疲れた」


 新刊のネームを描いていたものの、疲れてペンを転がすと、背後からお叱りの声を受ける。

 子供のように駄々をこねて、俺は顔を机に突っ伏した。


「そんな様子じゃ、次のイベントで新刊出せないよ?」

「締め切りまでには間に合わすから……それより今は彼女といちゃつきたい」

「ダメです。ほら、手を動かす!」


 ことん、と机に飲み物の差し入れをしてくれた彼女の手を握ると、ぱしんと払われてペンを差し出された。


「うへぇ、染井鬼畜すぎぃ」

「新刊買うの、楽しみにしてるんだから。ねぇ八重先生?」

「買わなくても俺が直接やるのに」

「ダメ! 私はファンとして、イベントで買いたいの!」


 染井はそう言って譲ろうとしない。


「変に律儀だな……はぁ、わかったよ。かわいい彼女のために新刊、頑張って描きますか」


 そう言って俺はペンを握りしめた。

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訳あり男子の一目惚れ 西條セン @saijou

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