第43話 エピローグ


 明日、フィル村を出る。


 この一週間、村長宅でソインと共に裁縫や染物を学んだ。空いた時間は村の再開発の手伝いをして、夜は工房でショルダーバッグと寝巻きを作るのに勤しんだ。


 最初にショルダーバックを作ったのだが、布地を取り出そうと《空間収納》に手を突っ込んだ時に、どうやって入手したのか覚えていない綿火が入っていることに気がついた。そして、《空間収納》にあったはずの鉄のインゴットは無くなっていた。


 綿火を《鑑定》鑑定して備考を読んだ後、綿火を工房の火床に一個出して叩いてみたら、高温で長く燃え続けた。それなりの量を使えば鉄のインゴットを熱して、盾として作ることも出来そうだ。


「黒曜の持っていた盾、やっぱり私が作ったのか」


 でも、記憶が全く無いからノーカンだな。それにしてもこの綿火、百三十六個も《空間収納》に入っている。欲張って取りすぎだろ私!! 稀少ランクも高いし、別の用途にも使えそうだから私のランクが上がるまではこのまましまっておくかな。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 ショルダーバッグ


〈 分 類 〉 かばん


〈 備 考 〉 間口が広い


〈 稀 少 〉 F+ランク


 工房の机の上に置いてあるショルダーバッグを《鑑定》する。


 出来栄えは〜……うん、頑張った。今後このバックを介して《空間収納》にあるアイテムを取り出していけば、周りに《空間収納》持ちとバレないだろう。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 寝巻き


〈 分 類 〉 衣類


〈 備 考 〉 大人サイズ


〈 稀 少 〉 Eランク


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 寝巻き


〈 分 類 〉 衣類


〈 備 考 〉 子供サイズでちょっと着心地が良い


〈 稀 少 〉 E+ランク


 寝巻きは、満足のいく仕上がりになったかな。


 一方、黒曜は朝・昼・夕の食事の差し入れを食べる時以外、寝床で気持ちよさそうに寝ていた。良くそんなに寝ていられるよな。


 そして私は今、ランタンの灯りの中で工房を一人掃除をしている。短い間だったけどお世話になった場所。ここが私の原点。


「次に使ってくるれる人、早く見つかるといいな」


 誰に伝えるわけでもなくそう呟き、掃除を続けた。



 私達が村を離れる日の朝、フィル村の入口に村人全員とソイン、シルキーが見送りに来てくれた。


「メブキさん、こちらを」


 ソワ村長が一歩前に出てきて小袋を差し出してきた。受け取ると、中から金属のぶつかる音がする。


「無駄遣いはダメですよ」


 人差し指を立てながら注意してくた。


「貴重な貨幣……頂いてよいのですか?」

「グレートベアとウインドスネークの素材代から家賃を引いた残りの分ですよ。受け取ってください」


 そう言われてしまっては拒めない、ありがたく頂戴しよう。


「それと、旅の先々で移住を考えている方がいましたら、フィル村の話をしてみてください」

「大役ですが承りました」


 笑顔をみせソワ村長が下がり、フィレールさんが前に出て来る。


「以前、お話ししてました蛇肉含め食料を用意せていただきました! どれもそのまま食べれますので、くれぐれも、くれぐれもですよ! 手を加えないでくださいね!!」


 ……何故か念を押される。


 馬に荷積みされている食料と水。


「村長が二人の服をもう一セット仕立てました。同じく積み込んでありますから使ってください。あと、この木の容器に入っているのは塗り薬です。少量しか作れませんでしたが、ちょっとした怪我なら治りますので使ってください」

「ありがとうございます」


《空間収納》に小袋、傷薬に食料などをしまっていく。


「この入口から南に真っ直ぐ進めば一番近い街、カドリアの街へ着く。距離は馬の足で五日といった所だ。徒歩だとそれなりに時間がかかる。方向を見失いそうになったら、星の位置を……。コクヨウさんにおぶってもらい、高く上がれば見えるだろう」

「分かりました」

「しかし、本当に馬はいらないのか?」

「はい。乗れないですし、お世話も出来そうにありませんので」

「そうか、道中気をつけてな」


 アドニスさんがカドリアの街までの道のりを教えてくれた。


「メブキ、一気に食べるなよ」


 ルレイさんが袋を差し出してくる。この香りは〜チーズだ!


「本当に色々お世話になりました。このお礼いつか必ず」

「おう、期待しているぞ」

「そこは、期待しないで待っているぞ。じゃないんですか」

「俺がそんなセリフ言うと思うか?」

「でしたね」

「言うようになったじゃないか」


 二人して無邪気に笑った。


「ソワよ、友好の証として防具職人芽吹の作品を送るぞ」


 黒曜が魔法の小袋から鉄の盾を出し、わざとらしく周りに見せびらかしてから、ソワ村長に渡す。あの盾、前に見た時よりも輝きが増している気がする。


「《鑑定》」


〈 名 称 〉 鉄の盾


〈 分 類 〉 防具


〈 備 考 〉 打撃に弱く実用性に欠ける


〈 稀 少 〉 Dランク


 え、でもランクは下がっている!? 一体何が? 黒曜に聞いてみ……いや、単に私の《鑑定》が未熟ってことだな。《鑑定》の練度が上がり再びソワ村にきた時の楽しみとして取っておこう。


「村の発展、期待しておるぞ!」


 黒曜の一言で、村人達が一斉に別れの言葉を口に出した。


「皆様、短い間でしたが本当にお世話になりました!!」


 フィル村を背に歩き出す。


「アネサマ、おきをつけていってラッシャイませ」


 村の方から《影法師》ソインの声が聞こえる。


 黒曜の方を見ると微笑みを浮かべており、片手を上げていた。



 後に貴重な薬草も取れる世界最大の紡績としてフィル村は発展していくが……それはまた別の話である。

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転生して就きたい職業? 防具職人以外ある? 幼女竜もいるよ ぬるま湯御膳 @nurumayugozen

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