第42話 ソインとシルキー

「《影法師》今より、ソインと名づける」


《影法師》ことソインが私に頭を深々と下げた。


 ソインの頭に乗っていた青白い精霊がふわふわと縦横無尽に飛び回り、喜んでいるように見える。


「ソイン、せっかくだから懐いている精霊に名を付けてあげな」

「シルキー」


 名づけるのはや! 即答かよ!!


「シルキー、これからもソインのこと宜しくね」


 シルキーと名付けられた青白い精霊は一回転して丸を作ってくれた。


「ソインよ、妾の事は何て呼んでくれるのじゃ」


 黒曜がソインに近づき体を叩こうとするが、素早く避け黒曜の腕が宙を舞った。


「あ〜……えーと。黒曜」


 宙を舞った腕をそのまま私に向け言葉を遮った。


「色々と良いものも見せてもらった、ひじょ〜〜〜に気分が良い。妾も一つ面白い魔法を見せようぞ!」


 セリフとは裏腹に声が震え、尻尾も垂れ下がっている。


「村の入口を作る為に今もなお樹海を切り開いている所じゃろ、妾が特別に道を作ってみせよう」

「宜しいのですか!?」


 勢いよく立ち上がり喜ぶソワ村長。


「構わん。その前に服は出来ておるか?」

「調整をして完成致します」

「すまぬが、ちと席を外すぞ」


 黒曜とソワ村長が応接間から出ていった。


「フィレールさん、黒曜はいつ服の仕立てを依頼していたんですか?」

「さあ? ただ、一昨日の夜には作業してました。メブキさんの服を仕立てる時と同じ位に集中していたので、声掛けられなかったです」


 ソワ村長、本当に職人だな〜。


 待ち時間の間に私とソインは《魔操絲》を、フィレールさんは《境解絲》を使おうと試みるも三人とも苦戦をしていた。


「お待たせ致しました」


 ソワ村長が応接間に戻ってきたが、肝心の黒曜が戻ってこない。


「ろ、露出しすぎではないか?」


 部屋の奥から黒曜の声が聞こえてくる。


「そのようなことはございません。それにとてもお似合いです」

「そ、そうかの? いや、しかし……」


 黒曜は恥ずかしがりながら、新しい服で応接間に戻ってきた。


 黒色を基調とした膝下まであるノースリーブのワンピースだ。首元には大きなリボンがあしらわれ、ゆったりと広がったフリルのスカート。


 流石ソワ村長センスがいい。何処かの防具職人とは大違いだ。そして、照れている黒曜を見るのは初めてかもしれない。


 センスは職人ランクが上がれば自然と上がるのだろうか? いやいや、防具は性能がなんぼ! 見た目より性能でしょ!! でも、同じ性能なら見た目がいい方が……。


「ど、どうじゃ」

「あ、え、うん。可愛いくて見惚れていたよ」

「か、可愛いじゃと!? 妾に向かって可愛いじゃと! 芽吹、覚えておけ!!」


 今までそれっぽいニュアンスの事、何度かいった気がするのにそんなに怒らなくても……照れ隠しか?

 

「ん? 気のせいかな? 黒曜から魔力が溢れているような感じがするけど」

「ほう、気が付いたか。これから使う技は、今の妾にとっては大技じゃからの。今まで服に使用していた魔力を戻したのじゃ」


 黒曜の大技見るの楽しみだな。待て待てそれならーー、


「黒曜さんや、魔力を戻せるなら魔力切れで落ちたあの時は何故〜」


 小声で質問をぶつける。


「人型になったばかりで、勝手が色々とうまくいかんかったんじゃ。言わすでない恥ずかしい」


 小声で返された。



 日は傾きかけているが、アドニスさんの指示の元、村人達は木の伐採に根を掘り起こすなど道を切り開く作業を黙々と行っている。


「新しい場所に村の入口を作っているのですね」

「ええ。村再開発と称しまして、まずは村の入口から衣療樹の石畳まで直線で繋げるようにしたいと思っております。そして宝も少しづつ手放し村を発展させ街に、そして幾世代後には……国へと……」


 そう言うソワ村長の顔はとても輝いていた。


「皆さん、コクヨウさんがお手伝いして下さるので、一度こちらに来て下さい」


 ソワ村長の一声で作業を中断し、汗を拭きながくる村人達。


「このまま真っ直ぐに道を作ればよいか?」

「ああ。だが、どの木も幹が太く根がしっかりと張られていて苦労するぞ」


 黒曜の質問に答えるアドニスさん、息も少し上がっている。


「妾を誰と思っておる、見てるが良い」


 黒曜が片膝を付き手を大地に触れた。


「……この辺りが良さそうじゃな」


 一体どんな魔法が飛び出すのか、村人達の好奇心の目が黒曜に向けられ同時に緊張感も走る。


「《地層転換ストレイタコンバージョン》」


 地鳴りが発生し、大地が揺れ村人達のどよめきの声が上がった。


「おい、あれを見てみろ!」


 誰かの声と共に、大地がゆっくりと大きく、そして高く盛り上がる。


 盛り上がった大地は五メートル程の高さまで上がると、うねりを起こしながら一直線に村の外に進んで行く。大地のうねりは何度も続き、立ちはだかる木々は地面に打ち付けられ、けたたましい音を上げながら大地へ飲み込まれていった。


 そして……村への新たな入口が出来上がった。


「あの〜。石畳みたいな道ができているんだけど……」

「中々オシャレじゃろ。転換時の衝撃で、適度に割れそうな地層が見つかってな、選んで入れ替えた。それと、雨水なども溜まりにくい工夫もしておるぞ」


 黒曜がドヤ顔で胸を反らしながら説明してくれたけど、あの魔法で割れない地層なんて無いだろ!


「しかも、広すぎない?」


 道幅は……二十メートルはあるんじゃないか?


「何を言っておる、国となればこの程度は必要じゃ。少し気が早いかもしれぬが良いでは無いか。まぁ、戻した魔力は使い切ってしまったがな」


 黒曜は腰に手を当て豪快に笑っている。


「おおお……」

「すごい」

「二、三十年分の作業を終えたんじゃ無いか!?」

「俺も魔法覚えようかな……」


 いやいや、魔法を覚えたとしても黒曜の様には使えないでしょ! 思わず村人の感想に突っ込みを入れてしまった。でも、それだけ魔法の魅力を感じさせる大技だった。


「メブキさん」


 ソワ村長の声が聞こえた。振り返り見ると驚きとも呆れとも困惑とも取れる複雑な顔をしている。


「……お急ぎでなければ、村を出るの一週間後にいたしませんか? 裁縫の手ほどきをさせていただきたいのですが……」


 教えを乞いたい! 黒曜の方を見ると頷いてくれている。


「ソワ村長、いえ、ソワ師匠! お願いします!」

「修行は厳しいですよ」


 微笑みながら返事を返してくれた。


「それと、フィレール。今まで細かくは教えていませんでしたが、薬草の調合についても並行して学んでもらいますから」

「え〜裁縫を集中したいんだけどーー」

「ダメですよ。しっかりと受け継いでもらいますからね」

「は〜〜い」

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