第41話 秘技伝授


「メブキさん、コクヨウさん。お待ちしておりました」


 村長宅へ行くと、フィレールさんが出迎え応接間に案内してくれた。部屋には私に黒曜、ソワ村長とフィレールさんの四人がいる。


「実は、ソワ家に代々伝わる技をメブキさんにお伝えしたいと思います」


 ソワ村長がそう言いながら、机の上に三本の骨を置いた。


「代々伝わる……? それを私に教えてしまってもよろしいのですか。三日後にはフィル村を出て行こうと考えているのですよ」


 ソワ村長が寂しそうな顔をみせた。


「なら尚のこと覚えていって下さい」

「分かりました」

「口伝で伝わる二つの技です。まずは、ヒュージスライムの時に使った技ですが〜」


 ソワ村長が技を見せようと手を構えた瞬間、突然の激しい頭痛に襲われ椅子から転げ落ちる。


「芽吹!?」

「「メブキさん!?」」


 私の体から何かが持っていかれる感覚がして《影法師》が出てくる。黒曜にちょっかいを出された時以外で、勝手に出てくるのは初めてだ。そして、青白い精霊も飛んできた。


「だ、大丈夫です」

「顔色悪いですよ、また後日にしましょう」


 それはありがたいが……今でなければダメな気がする。


「いえ、《影法師》の召喚に失敗しただけですので、続きをお願いします」


 頭痛は治まり椅子に腰をかけた。


《影法師》は青白い精霊を頭に乗せながら私の横に立ち、ソワ村長の方を向いている。


「では。まず初めにお見せするのは、糸に魔力を通し自在に操る技。《魔操絲まそうし》です」


 ソワ村長の指先から細い糸が出てきて、自在に動き始めた。


「コツは繊維の隙間に魔力を通し維持する事です。メブキさんは糸を出せませんが、一般的に使用する糸でも魔力を送れば自在に操ることは出来ます」


 ソワ村長が出した糸は己の意志を持つが如く自由に動いている。そして、机の上にあった骨を一本掴み天井まで持ち上げーー糸が切れた。


「解体小屋の天井から吊り下げられている刃物も、今の技を使っています」


 ソワ村長が再び指先から糸を出し、天井に吊り下げていた骨を机の上に戻した。


「蜘蛛族や裁縫に精通をしていれば似た技を使える者も多くいるでしょう。フィレール《魔操絲》を使いハンカチを作成しなさい」

「はい」


 フィレールさんの指先から、細い糸が十本出てくる。指に手を動かしあっというまにハンカチを完成させた。その腕前は、私や《影法師》の遥か先をいっている。


「どうぞ」


 ソワ村長はフィレールさんから受け取ったハンカチを一瞥いちべつし、


「腕を上げましたね」

「ありがとございます」


 この二人、糸の技を使う時は親子という間柄を感じさせない。良き師弟関係でもあるんだろうな。


「二つ目の技は、どの種族も知らない完全なるオリジナル技です。フィレール、貴方に今まで解体をやらさせていたのは、街へ行っても困らないためだけでなく、今から教える秘技のコツを自然と学ばせる為でもありました」


 ソワ村長が机の上にある骨を一本、無造作に持ち上げる。


「フィレールこの骨は?」

「グレートベアの尺骨しゃっこつです」

「では、これは?」

「ボアの上腕骨です」

「見ただけで分かるようになりましたね。メブキさん、フィレール。ゆっくりと行いますのでよく見ていてください。コクヨウさんはきっと楽しんでいただけると思います」


 ソワ村長の指から一本糸が出てボワの上腕骨に触れ全体を軽く撫で始める。


「始めに《魔操絲》を使い骨の綻んでいる場所を探します。複数本出し並行して探しますと、時間短縮にもつながりますが、慣れるまでは一本がいいでしょう」


 動きが止まり、糸の先端が骨を叩いている。


「ここに、綻びがあります」


 叩いている所を凝視するが……どう綻んでいるか分からない。《影法師》も顔を動かし骨を見ている。


「フィレールさん、分かりますか?」

「……なんとなくですが」


 ソワ村長が緑のネックレスを外し、蚕を彷彿させる姿になった。


「では、今から秘技をお見せします。そうですね……毛糸の服を解き糸へ戻している。と、思いながら見ていただければ理解しやすいかもしれません」


 ソワ村長の頭から垂れ下がっていた二本の触角が起き上がる。その直後、激しい気迫を受け私の全身に鳥肌が立った。


「全ての素材は糸になる……《境解絲きょうかいし》」


《魔操絲》で操られた糸が骨と融合したように見え糸が切れる。


「は??」


 思わず情けない声が出てしまう、融合した部分から綻びが始まった。


 束ねられた糸の塊がたまたま骨の形をしていたとでもいうのか? 骨はみるみる小さくなり、傍には糸が溜まり始めている。そして……数度瞬きをしている間に骨は消え机の上は糸だけになった。


「この、糸となった元骨も《魔操絲》で操れます。ただし、難易度は少し上がります」


 骨の糸を使いソワ村長が紡ぎ出す。そして、その骨の糸で先程目の前にあった骨を寸分違わず作り上げた。


「さ、触ってみてもいいですか?」


 ソワ村長が机の上にある骨を私に手渡してくれた。触った感じは骨だが、力を入れると凹み適度な柔軟性をもっている。なんとも言えない不思議な感じだ。


 あれ? 今、僅かな時間で作り上げたよな……。冷静に考えたら指の動き、いや、手の動きすらまともに見えていなかった。


 これが、これが稀少ランクAを作る実力の一端……。胸が高鳴るのが分かった。


「メブキさん?」

「あっ。ありがとございます。お返しします」


 今の私は、憧れていた人と初めて対面した時の顔をしてるかもしれない。


「ふふ、お話続けますね。今触られたから分かると思いますが、元の形に戻したとしても完全に同じ状態にはなりませんので注意してください。《境解絲》で糸にした場合は素材の性質を残しつつ、糸として使える事が強みですね。それと、同質の素材同士だと親和性が高くこの様な事も〜」


 ソワ村長が先程の骨を再度糸にする。そして、机の上にある二本の骨を一瞬で繋げてみせた。


「通常であれば、骨に穴を空け二つの骨を繋げますが、この技を使えばその必要は無くなります。布と糸の様な関係ですね。ただ、骨細工師のように骨自体に、新たな付加価値をつけることは出来ませんので注意してください」

「凄い……凄い凄い! なんて凄い技なの!! 身につけたい、使いこなしたい!!」


 フィレールさんが声を荒らげ興奮し、私は驚きすぎてもはや声を出せないでいる。


「素材を知ることで、質を落とす事無く糸にできます。皮や木材、金属などでもできますが、フィル村では皮や金属は潤沢ではありませんからね」

「ククハハハッッ! なんたる面白い技。しかと見届けたぞ!!」


 黒曜も唸らせる程の技なのか!


 私の横にいた《影法師》がこちらに振り向いた。


「ア二サマ、ココニのこりとうゴザイマス」


 頭を下げ私に懇願をしてきた。……《影法師》が喋った!? そして、ここに残りたい? いやいや、ダメでしょ! ってか兄様って何だよ!? 突っ込みが追いつかない。


「フィル村は《影法師》さんを歓迎致しまします」

「良いのではないか」


 ええ!? いいの? でも、ソワ村長と黒曜がそう言うのであれば……。


「《影法師》フィル村に残る事を許可する。ただし、ソワ村長の言う事を良く聞いて、迷惑をかけないように」

「アニサマ、ありがとうゴザイマス」

「芽吹よ、どうせなら名前をつけてやったらどうじゃ」


 名前か、

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