第40話 宴

 ネイツさんの案内で村の中を進む、夕暮れの時間帯だが村の中央広場がやけに明るく賑やかだ。


 火を囲い盛り上がる村人達、かたわらには山盛りの食料が用意されていた。


「メブキ遅いぞーー」


 ルレイさんの声が聞こえ、こちらに向かってくる。


「これは??」

「何だ、何も聞いてないのか? 今日はメブキとコクヨウちゃんの、村救済祝いの宴だ。主役が〜〜きたぞーーー!!」


 ルレイさんの掛け声で、木のジョッキが一斉に上がり一層の盛り上がりを見せる村人達。


 やめてくれーー恥ずかしい!


「メブキさん、あちらに食べ物と飲み物が置いてありますので自由に取ってください。宴で出ている食事は共に伐採にいった時と同じ、特別な味付けがされていて最高に美味しいですよ。あとアルコールも用意してあります」


 ルレイさんの行動に慣れているのか、ネイツさんは淡々と説明をしてくれた。


 食事はバイキング形式と……あれ?


「ルレイさん、村ではアルコールはもう飲めないと言ってませんでした?」

「しまった! 俺とした事が言葉足らずだったとは……特別な時以外。が抜けていたな」


 ニヤリと笑うルレイさん。なんてあくどい顔だ!


「メブキさん」


 ソワ村長が駆け寄ってきた。


「すいません、一部の村人達が待ちきれず先に始めてしまいました。止めますので、あちらの台の上で一言いただけますか」


 この盛り上がりの中で一言挨拶しろって、キツすぎだろ! 絶対やりたくない、どうやって回避しようか。


「新参者の私が何を言っても軽い言葉になってしまいます。自然と盛り上がっている今の状況を、共に楽しませてください」

「……そうですか。欲しいものがありましたら、何なりとおっしゃって下さい」

「はい」


 よし、乗り切った!!


「肉食べたいぞ」


 胸を撫で下ろす私をよそに、黒曜が私の袖を引っ張って肉を催促してくる。


「はいはい。今取ってくるね」

「コクヨウさん、沢山食べてくれ」


 私が取りに行く間も無く、アドニスさんの声がする肉の山が近づいて来た。


「今日の主役は二人だ」


 木皿に盛られている肉の山。黒曜は目を輝かせながら受け取ると、その場で座り食べ始めた。


「これは個別の礼だ」


 差し出された小袋を受け取ると、アドニスさんは去っていった。


「あの人、ここぞと言うタイミングで、その人が欲しいものをピンポイントで持ってくるんです。袋の中身、きっとメブキさんにとって有益な物ですよ」


 ソワ村長が説明をしてくれた。火のせいか頬が染まっている様にも見える。……もしかして、惚気話を聞かされた?


「よし、区切りついたな。メブキーーちょっと来い!」


 ルレイさんが私の体を強引に引っ張っていく。


「メブキ見てみろ、あいつらの顔を」


 ルレイさんが指差す先には笑顔で楽しそうに騒ぐ村人達。


「お前の活躍で今がある」

「でも、何も出来ませんでした。いえ、何をしたのか全く覚えてません……」

「中で何があって、お前がどんな事をしたかは俺には分からない。だがな、お前が依頼を受け行動を起こしたから村は救われた。それは紛れもない事実だ。コクヨウちゃんだけではこの結果は得られなかっただろうな」


 ルレイさんに背中を叩かれる。


「一度しか言わんぞ……。お前は英雄だ」

「……ルレイさん……」

「俺にここまで言わせたんだ。さあ、とことん飲むぞ! 付き合え」


 え、どうしたら話がそう繋がるの? 感動した私の心を返して。


「私まだ十八ですが」

「ああ、色々忘れているんだったな。戦前は同じ人族でも地域によって飲酒年齢が違っていたが、戦後は十八で統一された」

「人族ってことは、種族によって飲酒年齢違うんですか?」

「そうだ。メブキは問題ない! だ・か・ら安心しろ」


 ……これは逃げられそうにないな。


 不意に爆発音が鳴り響き大気が振動をする、村人達の間に緊張感が走った。


「攻撃!?」

「上空を見てみろ!」

「光の……魔法?」


 村人達が次々に口を開き、声を上げていく。音は連続して鳴るがフィル村に被害が見られず、夜空に単色の光が咲いている。


「村長が前に言ってたやつじゃないか?」

「あ〜、そんな事話していたな」

「もっと音が小さければいいが〜。まぁ、綺麗じゃないか」


 村人達の警戒心も徐々に薄まり、今は思い思いに感想を呟いている。


「花火とは中々豪華じゃな」

「黒曜は前に見たことがあるの?」

「そうじゃ。……何処じゃったかの? 何かの記念で打ち上げられていたのを見たことがある。その時はもっと色々な光を出しておったがな」


 花火が終わると、村人達がポツポツと私や黒曜にお礼を言いにきた。《影法師》を見たいとの声もあり、呼び出すと大いに盛り上がった。

 途中、ネイツさんとフィレールさんが一緒に来た。二人の雰囲気はとてもよく、見ていて微笑ましかった。



「……気持ち悪い」


 頭もガンガンする、完全に二日酔い。ルレイさんにいいように踊らされ飲み過ぎた。てか、二日酔いこそ《状態異常耐性(中)》の出番な気がするんだが、このスキル仕事していないな……。


 借家の扉を叩く音がするが、動きたくない。


「……どうぞ入ってください」


 返事だけすると、笑顔のフィレールさんが入ってきた。


「やっぱり二日酔いしてますね、もうお昼過ぎています! ルレイさん人を乗せるの上手いから適度に流さないとダメですよ!!」


 元気な声が今の私には辛い。


「はぃ」

「村長がお話したい事があるそうなので、後でコクヨウちゃんと一緒に家へ来ていただけますか。それと、これ二日酔いに効くので飲んでください!」


 机の上に薬を置き、フィレールさんは帰っていった。黒曜は寝床で気持ちよさそうに寝ている。フィレールさんの元気な声の中よく寝ていられるな。


 寝床から這いだして、机の上に置かれていた独特の匂いのする丸い粒を飲む。……顔洗ってくるか。そういえば、アドニスさんからのプレゼントなんだろう。


《空間収納》から、小袋を取り出し中身を見る。


「灰色の塊……」


 こ、これはまさか!? 匂いを嗅いでみると遠くの方から石鹸の様な香りがした。もし、これが石鹸なら体を綺麗に洗う事ができる、早速試してみねば! はやる気持ちを抑えきれず、釣瓶を勢い良く引き上げ豪快に水を被る。


「ギャーーー!!」

「芽吹ーー! どうした!!」


 物凄い勢いで黒曜が駆けつけてきたので、慌てて背中を向けた。


「み、水が。水が冷たい!!」

「……何を今更、雪解け水じゃから当たり前じゃろ。《温度保護》の効果がきれたのじゃな」

「再度かけてほしいな」

「それは構わぬが〜芽吹よ。いつまでここにいるつもりじゃ?」

「うっっ」 


 黒曜からの質問に言葉に詰まってしまった。ソワ村長から裁縫と染め物の技法を学びたい。でも、他の地域を見てみたい気持ちもある……。


「迷っているのならば、次の場所へ行こうではないか。村を出る日、妾が決めても良いか」

「いや、私に決めさせて貰えないかな。黒曜はいつ出立したいとかはある?」

「今すぐでもいいぞ」


 ……寂しい事言うなよ。


「妾としては、まず芽吹にこの世界を見て知ってもらいたい。そして、そこから何を優先して学ぶかを決めて欲しい」

「ごめんな……ありがと」

「すまぬ、よく聞こえなんだ」

「《温度保護》はいらないと言ったんだよ。挨拶に部屋の清掃もしたいから出立は三日後にしようか。……あ、ソワ村長が呼んでいるんだった、一緒に行こう」


《空間収納》からタオル出し体を拭き始める。


「……じゃな」

「え! 急に何を!? そんな事言われると恥ずかしいんだけど」

「ハッ」


 黒曜に鼻で笑われてしまった。

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