特撮みたいに背景を爆発させて、満面の笑みでピース決めた写真を遺影にしたいな

十余一

病室にて

「特撮みたいに背景を爆発させて、満面の笑みでピース決めた写真を遺影にしたいな」


 見舞いに来てくれた友人に静かに告げた、俺の最期の願い。そんな遺影を掲げて葬式をしたら、どんな人生だったとしても「最高だった」って思えるだろ。棺桶の中で眠る俺にとっても、遺された人にとっても。


 窓の外では秋らしい冷たい風が吹きすさぶ。ひらひらと落ちる枯れ葉に自分を重ねてしまうのは、少し感傷的すぎるだろうか。

 不安に揺れる目で縋るように見つめるが、彼は諭すように言葉を投げるだけだった。


「なに弱気になってるんだよ。退院したらヒーローショー見に行くんだろ」


 弱気にだってなる。子どもの頃からずっと憧れていたヒーローは、テレビの中にある世界しか救わない。現実には俺を救うのは医者で、敵は地球征服を企む悪いやつらなんかじゃない。サンタクロースの存在を信じる幼子じゃあるまいし、そんなことはとっくの昔に知っている。だからこそ、都合の良いハッピーエンドが約束されていないこともわかっている。


「クリスマスには一緒に公式レストランへ行くって約束したじゃないか。鮭食おうぜ」


 約束……守れないかもしれない。キラメく街も祭りのような賑わいも、今の俺にとっては遥かに遠いものになってしまった。


「春になったら映画もあるぞ。楽しみだな」


 どうにも悲観的になってしまって、未来のことなんて考えられそうもない。俺の脳内にあるのは、この先に控えている手術の事と、人生の終わりをどう飾るかだけだ。せめてド派手に、全力全開に、そして天晴なかんじにしたい。

 友人は溜息をついて、心底呆れかえった様子で言う。


「ただ親知らず抜くだけだろ。入院も一泊二日だ」

「抜歯をなめるなよ。しかも四本同時とか怖いだろうが」

「それは、まあ」

「俺の死に場所はここだ……」

「違うわ」


 結論を言うと、抜歯は無事に終わり俺は退院した。

 しばらくは出血や痛みに苦しんだが、それもすぐに治まる。あとはもう、いつも通り日曜日の朝にテレビを見て、友人と感想を共有し、時には舞台や映画館にも赴いた。やっぱり長生きすべきだな。そうしてずっと、好きなものを楽しんで、友人と語りあいたい。



 時は流れ五十年余り後、写真を撮った。岩山での盛大な爆発を背景に、肩を組み破顔するしわくちゃのジジイたちの写真だ。ジジイたちは相も変わらず特撮を楽しみ、「俺たち、天国に行ってもテレビ見て盛り上がってそうだな」と少年のように笑い合った。

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