Cut 8 9 truth ~三月の人形
フィルムは春の影。
サムスプリングを出て西へと歩く。アイランスの街道は融けた岩盤の上に、汚泥を撒いたような道で、一刻一里が歩速の限度だった。馬車も滅多に通らない街道に轍も無い。西へ一刻程歩いた辺りで杖が停止を掛けた。
”エストボム。今でもフィルムの生産をしている”
右手に確かに集落は見えるが、人の気配はしない。時々うめき声がする。
「寄るのか」
”いや。お前次第だ”
「無いのか」
”此処は冬の街だ”
それっきり杖は黙り再び黙々と街道を歩いた。
エストボムを後にセントを過ぎると地面が下方へ傾斜しだした。
一刻も歩くと前方に城壁跡が見え始めた。城壁と言っても道を塞ぐ関門と門脇の物見台があるだけで、道脇の住宅残骸が城壁の代わりをしていた。住宅残骸には何の生き物が棲んでいるか判らないので誰も通らなかった。
何となく空を見上げる。
朝から出発して六刻。途中戦の遺物が鎮座していたりしていたが、宙は暗い雲の絨毯が覆っているだけで、筋状の雲は見当たらなかった。時折空を横切っていることもあったが、それももうめったに見なくなった凶兆だった。
関門には鬼の首が備えてあり、目を合わすと重い木目調の扉が開いた。
案内所に行くと幾つかの店と宿の記された金属片を渡された。
「お帰りの時に」
「この町の主は」
「北の領主なら常代の館に」
「南にもいるのか」
「出掛けたっきり」
「行方知れずか」
案内所の男は頷いた。
更に北へ半刻。
町の目抜き通りから少し外れたところに館は在った。
今はもう作れない鋼哲石三階の建物が二棟あったが城主は離れに住んでいると言う。同じく鋼哲石二階建ての百平米程の建物だった。主は買い付けの商談で留守との事だった。
「飲まれないのですか」
”無い”
「?」
茶器を回して三口。
「杖」
”主が買い付けてるのは”
「奴隷でございます」
”鋼哲石の二棟は”
「ブロイラーボックス?」
”貴女も”
「お察しの通りです」
「竜の首を探している」
北の棟からの渡り廊下を通って階段を四つさがった。
”此処が”
「主の宝物庫です」
”首は、あるか”
「首、ですか。ええありますよ」
階段脇の照明のスイッチを入れた。
橙色の光が地下の広間を照らした。
左手奥に陳列棚が有り、十首を超える首が陳列されていた。
皆、若い女性の首ばかりだった。
”残忍な趣味だ”
「主は引き裂く事を好むので」
”生きている”
「ええ」
「杖」
”他に首は”
「此れだけです」
「そうですか」
夕食を目抜き通り沿いの店で済ませ、鉄道跡の高い塔の宿に戻った。
「無いな」
”無いだろうな”
「フィルムは春の影」
”情報は今検索中だ”
杖をドアに張り、床に就いた。
床について一刻丑三つ時。階下の酒場の喧騒も聞こえなくなったころ。
音を立てて杖が転がった。
上半身をはね起こすと、さっき迄首のあった所を斬撃された。
杖を手に取って右手で二激目を受ける。
剣が飴のように歪む。
受けた手で杖をついて一挙動で立ち上がる。
三度目の斬撃より先に杖の先が暗殺者の腹に刺さった。
”明け方に失礼。主は居るかな”
「!?」
”首をもらいに来た”
女に暗殺者の首を差し出した。
「代わりに私の首を」
”逃げればよいのでは”
女は皮肉な笑顔を見せ、どうぞ、と言って自分の首を切り落とした。
切り切れず崩れ落ちる身体。首からの出血は不思議と多くなかった。
”アンドロイド”
「グロテスクな趣味だな」
関門は鬼と目を合わせるとあっさり開いた。
明け方の日に向かって歩き出す。
「冬の街のフィルム工場」
”首でも影よりはいいだろう”
「未だ生きている」
”蘇生は”
「死なないのだ暫く待たせる」
”段に飾って置くさ”
「先に西洋の祭り。供え物でもさせて置こう」
”さけのはなしはよせ”
「此れも明かすべき真実の一つか」
”さぁ”
Short Cakes 一憧けい @pgm_T
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