CUT 6 Ghost Writer
締め切りは一週間前に過ぎている。
先週まではラジオ、週刊誌、地方のテレビ局とインタビュー等出演の仕事が絶えなかった。全て他人の努力の結果だった。
昔、自分は其なりに大したものだった。自分のペンネームで世の中や文壇を賑わせたものだった。しかし今では自分のペンネームは色褪せて退行しすっかり昔のものに成ってしまった。新しいペンネームで再生を心みたが再起には失敗した。
恥の多いことだ、と思ったときにこれじゃ太宰だなと笑おうとして、太宰は終生現役の作家だったな、と我が身の不肖を呪った。
私は枯れた作家だった。
結局書けなくなった作家が、其でも虚栄が捨てられず採る方法は一つ、原稿の外注だった。
電話等と言うものは繋がっていない。
外注と言うのも発注すれば仕事だが、発注などしない。
デスクトップを起動してモニターのクライアント画面を見る。案の定外注作家は作業中で新しい小説を執筆している最中だった。次々と新しいテキストが打ち込まれていく。此を盗脱すれば今月の仕事も上がりである。外注作家は自分の作品がいつの間にか他人の名義で世に出ていくのを不思議そうに見送ることに成るだろう。
原稿を全文読み通し不備の無いのを確認してデスクトップのファイルにしまう。
楽な商売だった。
「そうでもないですよ」
外注作家の声がした。
部屋を見回したが誰もいない。
気のせいだろう。
「そう、まさしく気のせいです。あなたの気を冒しつつ在ります」
二度目はもっとはっきり聞こえた。
完全な密室で電話一つ繋いでいない。ラジオのスイッチも携帯の電源もおとしてある。
「やだなぁ、あなたにとって私は何です?」
外注作家は外注作家。
害虫の駆除方法が判らない。
害虫は続ける。
「もう何年に成りますか。私の作品をあなたが盗みとって。気づいてましたよ私の作品が誰かに盗まれてること。だから作品で復讐することにした。あんたにはもう無理かもしれないが、現役の作家はやってのける。何故なら我々はGhostWriterなのだから。読んだのでしょう?ならもう逃げられない」
デスクトップをシャットダウンする。クラックされてるらしい。
「Ghostだっていってるのに?」
見えない背後に立たれているような気がした。
病院の待合室で手に取った週刊誌。
週刊誌に外注作家の連載が開始されていた。
テレビもラジオも何もかも持って行かれた。
「やるじゃないか」
答えはない。Ghostは気まぐれだった。
「攻守交代だな」
表と裏が入れ替わっただけだと思いたい。
奴が来るまで原稿を書きためよう。
奴の泉が枯れるまで。
Short Cakes 一憧けい @pgm_T
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