7

 どうして忘れていたんだろう。

 あの日のことを。

 僕の大好きな人のことを。


 僕は晴海を通して夕海を見ていた。

 夕海に今でも恋をしていた。

 全部、思い出す。

 冷たい雨の感触も、湿った土の匂いも、潰れた赤い野いちごも。

 全部、僕のせいだった。


 晴海に、夕海に謝った。

 僕のせいでごめん。と。

 忘れていてごめん。と。

 謝っても、謝りきれない。本当に酷いことをした。僕は夕海を殺し―――。


 「恨んでないよ。お姉ちゃんは」


 晴海の顔を見た。彼女の目も潤んでいた。


「わかるよ。双子だもん」


 僕は堪えきれず、声を上げて泣いた。そんな僕を晴海は静かに抱きしめた。




 屋上での出来事から一週間が経った。

 僕はまだ完全に心の整理がついていなかったけど、いつものように授業を受けて、タムラやエロセンと馬鹿話をした。

 晴海とも徐々に話すようになった。まだ少し、ぎこちなさは残るけれど。


「ねえ、そういえばらいくきるで消すもの、決めたの?」


 晴海が訊く。


「ううん」


 僕は首を振る。胸の穴は一回り大きく広がっていた。

 僕が自我を失うまで、後どのくらいだろう。穴が大きくなる度に、僕はいつもそう考える。


「やばいじゃん。なに、もしかして3万円払えないとか?」

「いや、そうじゃないけどさ。まだ考え中」


 何を消そうか。テニス、ハンバーグ、青色……。

 たぶん、全部好きだし、これらのうちのどれかが好きじゃなくなるなんて考えられない。


「ねえ、今度夕海の墓参り行ってもいいかな。今まで行ってなくて合わせる顔がないけど」


 晴海は微笑む。


「もちろん。お姉ちゃん、きっと喜ぶよ」


 少なくとも、夕海のことはいつまでも好きでいたい。

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らいくきる ちくわノート @doradora91

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