一方通行

兎狐

一方通行

 ゴウンゴウンゴウン


 僕の一生を共にする街についたみたいだ、時折見えた外の世界から、近くに小学校、民家、公園が見えた。所謂、住宅街に到着したようだ。


 ゴウンゴウンゴウン…____


 音が止まると同時に僕の体は振動を辞めた。狭い出口から這い出してきた僕は、ぴったりと型に嵌められ、時折掃除をされたり水をかけらたりしながら、一週間もした頃には動けなくなった。これからずっとここにいなくてはならない僕に対して少し乱暴すぎないか?と不満に思ったが、この人たちも悪気があるわけではないだろう。何百回と同じことをしていると慣れというものが生じるものだ。


 動けなくなった僕は落ち着いてあたりを見渡した。どうやら小学校の目の前のようだ。幸い見通しも良く、風が吹き抜け、太陽が燦々と僕を照らしている。耳をすまさなくても子供たちの元気な声が聞こえてくる。

なかなかいい場所に連れてきてくれたじゃないか。

 僕は、連れて来られた頃のことをすっかり忘れて穏やかな気持ちであたりを見渡したした。一人の女の子が母親と学校の前を通り過ぎようとしているところだった。

「私も早く小学校行きたい!」

「来年から通えるようになるわよ」

「ママ!見て!道が綺麗になってる!」

「前からしていた工事が終わったのね紗兎(しゃと)が通う時もきっとまだ綺麗よ」

「やったーー!楽しみ!あ!バイバーイ」

女の子は僕に気づいたみたいだ。手を振り返したい気持ちを抑えて心の中で静かに微笑んだ。どうやらあの女の子は学校に早く通いたいようだ。しっかり見守らなければならないな。


 僕が来てから一年が経とうとしている。することもなく暇な日常を送っている。たまに、あの時の女の子が花を届けたりしてくれている。こんな僕の何を気にいったのだろう。まぁそれが唯一の楽しみな訳だが。そういえばあの女の子は学校でうまくやっていけてるだろうか。そんなことを考えていると、その女の子が僕の前を通りすぎていった。あの頃とは少し様子が違うように見える、心配だ。


 様子がおかしいように見えたのは、僕の思い過ごしではなかったようだ。下校時間、僕の目の前でその女の子とクラスメートが話をしていた。

「紗兎って変な名前!アイスクリーム屋さんみたいでおかしいよね?人形学校に持ってきて話かけたりさぁ、きもいからやめてくれない?みんなもそう思うよねえ?」

「そ、そうだそうだ」「ちょっとおかしいよね・・・」

「私の名前はお父さんがつけてくれた大切名前なのになんでそんなこと言うの・・・」

そういうと女の子はしゃがんで泣き出してしまった。リーダー格の子に抵抗できずに周りの子は同調していたような印象を受けた。一通りしゃとちゃんに暴言を吐いて満足したのか、クラスメートは帰って行ってしまった。残された女の子は僕に話しかける。

「紗兎って変な名前かな、私は気に入ってるよ。漢字に兎入ってて可愛いし、でもみんな変って言うんだ。もう学校楽しくない。」

そう言い残して紗兎ちゃんは帰っていった。あの歳の子供は自分の世界で生きているのが普通なのだと思う。みんなと言っていたが小学校という小さな世界でクラスメートから暴言を吐かれるのは僕が思う以上に苦痛なのだろう。僕が守らないと。


 あれから紗兎ちゃんを見ていない。この道を使うのを辞めたのかな。学校いけてるといいな。そんなことに思いを馳せていると、あの時のクラスメートたちが前を通った。

「紗兎とうとう転校しちゃたねえ。ちょっといじっただけで転校とか弱すぎだよね笑 あいつの持ってる人形壊してやった時とか泣きすぎてびっくりしたわ笑笑 てか、私のカバンちゃんと持てよ」

「あ、ごめん・・・」「私のももってー」

どうやら紗兎ちゃんは転校したらしい。いじめの標的はもう変わっているようだ。どうして紗兎ちゃんが転校しなくてはならなかったのだろう。


 僕がここにきてから三年ほどが経とうとしている。あのリーダー格の女の子は僕の前に置いているお菓子を盗ることを日課にしているみたいだ。僕は決めた。

今日もその子がお菓子を盗りに来た。手をお菓子に伸ばした瞬間前に倒れてやった。

「きゃあああああ」

叫び声をあげながら手を抜こうとするがなかなか抜けない、すぐに数人人が寄ってきた。僕はその人たちに道路に落とされ、割れてしまった。





 それから、どれくらい時間が経ったのだろうか。割れてしまった僕はさらに細かくされて石細工のようなものになった。小さな置物だ。一応地蔵だからということで完全に壊してしまうより、新しいものに生まれ変えようということになったらしい。

いっそのこと壊してくれてもよかったのだけど。紗兎ちゃんがあれからどうなったかや、僕の下敷きになった子がどうなったかは分からない。僕を買う人も何十年も現れていない。こんなちっちゃい地蔵欲しがる人なんてきっと紗兎ちゃんくらいだろうなあ。


 「ママ!このちっちゃいお地蔵さん可愛い!買って!買って!」

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一方通行 兎狐 @tenokuni

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