第16回「憧れ」:かつて憧れて今は諦めていたもの

 結婚に憧れがなかったと言えば噓になる。


 想い想われる相手と出会い、望み望まれて結婚する。

 そんな夢を見たときも確かにあった。

 それはもう遥か昔に。

 世間を知らず、世界を知らず、ただ無邪気に何でも夢見ることができた短めに終わった子供時代に。


 家のため領地のために身を捧げるのが役目と知ったのはいつだったか。

 親の望むまま、相手の家に望まれるまま見合いをし、これまた両家の望み通りに結婚した。


 そこに自分の意思も相手の意思も反映されていない。


 事実、旦那様には「『白い結婚』でいましょう」と言われた。


 でも、それが役目だから。だから、その役目を全うした筈なのに。



 何故。



「僕の負けだ」



 旦那様の瞳にいつか夢見た色の気配がした。




【了】




※第13回「白」:白い結婚と同じ設定です

https://kakuyomu.jp/works/16817330651491157436/episodes/16817330669553311603

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