第15回「酔う」:花酔い

 言われた通り待っていると、程なく目の前に飛び降りてくるものがあった。物というか、者というか。


「お、いたな」


 男のなりで壁を越えてきた友人は、俺の腰にある酒壺を目敏く見つけると。


「よしよし、忘れずに偉いぞ」


 上機嫌でさっさと歩き出した。

 相変わらずだ。




 月明かりのお陰で歩きやすい夜だった。先を行く友人の足取りにも迷いはない。

 やがて一本桜が見えてきた。


「お前と花見酒がしたくてな」


 桜の下に腰を下ろし、各々持参した盃を酒で満たす。

 月に照らされた桜も酒を呑み干す友人の横顔も美しかった。


 男のふりをしても隠しきれない色香がそこにはあった。


「はは、もう酔ったのか。顔が赤いぞ」



『彼女』に言われ、俺は慌てて顔を逸らした。




【了】

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