* 1-1-4 *

 きっかけを作る為のきっかけを生み出す。

 それを成し得る報告をすると言ったルーカスに全員の視線が集まる。


 自身に向けられた視線に対し、ルーカスは堂々とした佇まいのまま、自信を漲らせた様子で静かに話を始めた。

「先に姫埜中尉が申し上げた通り、リナリア島だけで調査、観測する情報だけでは到底変革した世界を元に戻すことも、それ以前に二人を奪回する手立てすら見出すことは不可能です。そこで重要になってくるのが“外部との交信”であるわけですが、今日に至るまでどんな手段を用いてもこれを叶えることが出来ませんでした」


 そのように語り始めると、玲那斗のスマートデバイスとホログラフィックモニターの接続を切断し、代わりに自分の持つスマートデバイスとホログラフィックモニターとを無線接続して、今日までに自身が調べ得た調査記録をモニターへ表示した。


「アンヘリック・イーリオンでのアンジェリカとの決戦の折、イベリスの意識と直接ネットワーク接続されていたプロヴィデンスは、クリスティー局長の手によって彼女ごと強奪されました。

 開発側の立場から推察すると、強奪の為におそらくは“制御権移譲コード”のような類のものが使われたのだと思います。

 この辺りについての考察は既に報告として挙げているので割愛しますが、システム強奪と掌握によってプロヴィデンスと接続されていた機構の全てのシステムは通信途絶状態に陥り、我々の所持するヘルメスはもちろん、ソニック・ホークに搭載されているトリニティも例外なく使用不可能という状況に陥りました」

「何とか、ルルドだけでも使えたことが不幸中の幸いだったな」

「2年半前に一度、この島の調査に訪れていたことが幸いしました。一度でも水質検査と浄水処理を実施した地点のデータは、プロヴィデンスを通じてルルドの全個体に共有されますから。水質に特段の変化が無ければ、本体に蓄積された過去データの参照により浄水機能は働きます。今、飲み水が不自由なく確保できているのは、あの時のデータが本体メモリにあればこそです」

 しみじみと語るジョシュアを見やりながらルーカスは答え、皆の方へ視線を向けて言う。

「そして、ここ数日の間に目を付けていたものこそ、まさに“蓄積された過去データ”の存在についてです」


 ルーカスはそう言うと、自身の持つヘルメスとスマートデバイスの双方をテーブルの上に差し出した。

「この島で、とびきりのグッドニュースは食料と生活施設、電気や燃料が確保できていることでしたが、外部との連絡手段についてはバッドニュース以外にありません。

 まずはこうした悪い状況を個別にして整理しましょう。

 其の壱。プロヴィデンスから隔絶された状況下では、ヘルメスの通信機能の使用はおろか、個人認証すら不可能につき、あらゆる機能の使用が不可能である。この点は航行管制システムの一部にプロヴィデンスを用いているソニック・ホークも同じです。

 其の弐。特定施設や端末に対する通信を除き、一般的な通信設備がまだ整備されていないリナリア島において、スマートデバイスからの汎用的なインターネット接続は不可能である。閉鎖された、いわゆるクローズドネットワークしか存在しないという点で言えば、通信環境など無いに等しいと言えるでしょう」

「外部との通信は絶望的。いや、不可能。この島に到着した日から、今日に至るまでの共通認識だったな」

「その通りです。ですが、その不可能を可能にする術をようやく見出しました。イベリス風に言えば、これも“人の持つ可能性”が生み出した奇跡ってやつかもしれません」


 外部との通信が可能となることで得られる利益は計り知れない。

 僅か2週間、されど2週間。世界から隔絶された自分達が知り得ない情報や、その間に起きた出来事を知ることは現状において何よりも肝要だ。

 ともすれば、そのことによってイベリスとフロリアンを取り戻す手段についてまでも、希望を見出すことが叶うやもしれないのだから。


 玲那斗は逸る気持ちを抑え、ルーカスに問う。

「具体的に、何をどうすれば良い?」

 すると、ルーカスは内心の焦燥を見て取ったようにニヤリと笑い、“落ち着け”という手振りを交えながら言った。

「まぁまぁ、焦りなさんな。そう難しい話でも無いし、うまくいけばこの後すぐにでも実現可能な話だ。その為に、俺は数日を掛けてこの黒い小さな画面に表示される極小の白い文字と睨み合いを続けていたんだからな。総大司教様の〈何をやっているんだ〉っていう訝し気な視線を浴びながら」

 ちらりとした視線をロザリアに向け、言葉尻をすぼめながら言った彼に対し、前触れなく話題に上げられた本人は神妙な面持ちで言葉を返す。

「失敬な。わたくしはただ、根詰めて作業をしている貴方のことを気に掛けていただけのこと」

「本当に? それにしては随分と厳しい視線だったように感じたが。日頃なら余裕をもって皮肉を返す癖に、語気を強めて否定する辺り図星なんじゃないのか?

 いつもならあれだ。“他人の心を読むセンスが欠けている”だのと言いそうなもんだからな」

 この言葉について、ロザリアは明後日の方向に目を向け黙秘するというように言う。

「元より、今わたくしに話を振る必要もないでしょうに」

「図星か。ともかく、確かに話を振る必要は無いが、今後の情報収集の在り方に幅を広げるという意味では大いに関係がある。このメンツの中では唯一にして絶対。あんたにしか出来ないことだ。理由はすぐに言う」


 ルーカスの言葉の意味が掴めず、ロザリアは逸らしたはずの目線を、改めて怪訝なものとして彼に向けるが、当の本人はまったく気にする素振りも見せない。

『このことで、わざわざ彼の記憶、心を読むなどと―― 何か、敗北を喫した気分になりますわね』

 結局、持ち前の異能を行使することを個人的な感情から拒否し、無言を貫いた。


 結論をもったいぶるルーカスにジョシュアが言う。

「それで、結局のところどうなんだ。その方法とやらは」

 この言葉を待ってましたと言わんばかりにルーカスは言った。

「ルルドと同じです。ヘルメスにも、これまで我々が通信を重ねてきた際の“データ”が蓄積保存されています。そして、この記録されたデータへのアクセスや解析については、特にプロヴィデンスの影響を受けるものではありません」

「要は“通信履歴”を使おうという話か」

「はい。この通信履歴に含まれている情報は、ただ単純に発信した日時や、発信先の番号だけではありません。ヘルメスにおける通信履歴は、その通信に用いた際の…… いえ、割愛しますがありとあらゆる情報の全てが保管されています。

 このデータを抽出し、抜き出した上で新たなプログラムを組み、それをスマートデバイスへ取り込もうというわけです」

「通信施設はどうする。一般のスマートデバイスで接続可能な基地局なんてものはこの島にはない」

「リゾート開発の過程で設置された通信用アンテナと機構の人工衛星を使用します。人工衛星はプロヴィデンスから独立した体系で運用されているものなので、IDと暗号化されたパスワードを用いれば接続は可能でしょう」

「サンダルフォンのミラーシステムなどで用いられている、あれか?」

 ジョシュアの言葉にルーカスは頷いて言う。

「あの人工衛星にはプロヴィデンスを介さずに使用できる通常通信用の回線も当然ながら備わっています。元々、機構におけるシオン計画とはプロヴィデンスが使用不可能になることを想定して開発されていましたから。単一システムに対する依存脱却という目的が含まれていたんです。

 システムとの連携によって最速の調査結果をもたらす最新鋭調査艦艇とは建前であり、サンダルフォンやメタトロン、ミカエルはプロヴィデンス依存脱却計画の道程で生まれた実験艦船という意味合いが強い。

 余談ですが、シオンの丘になぞらえて命名された計画名は、【AIシステムによる依存から、人の手による高精度調査環境への回帰】というような意味合いがあると聞き及んだことがあります」

 ここで一度、言葉を区切ったルーカスは声の調子を落として言う。

「機械が間違えることはないかもしれません。単純な計算や未来予測であれば、人間より早く正確に回答を導き出します。ですが、その答えが絶対に正しいということもない。

 プロヴィデンスのもたらす観測結果などについて、比較対象、或いは対抗となる2つめの要素を得ることは機構にとって急務の課題でもありましたから」

 まるで、自分の心情を吐露するように語ったルーカスに、ジョシュアは言った。

「なるほど。機構、ひいては総監がどの程度までプロヴィデンスが使用できなくなる可能性を考慮していたかは分からないにせよ、逃げ道は用意していたというわけだな。まさか強奪されるなどという未来予測は出来なかったとしても、だ。しかも、そうした考え自体は間違ってはいなかったと」

 彼の心情を汲むと共に、通信手段の確立に関して問題となり得そうな事柄への回答を得たジョシュアは深い頷きを見せるのであった。


 機構が近年に打ち上げた“シオンの星”。

 それは赤道上空、高度36,000kmの静止軌道上に打ち上げられた機構の人工衛星の名である。

 プロヴィデンスに依存しない調査計画遂行の為に用意されたものだが、それがこうした形で日の目をみることになるとは。

 ヘルメスから抽出した通信履歴データを元に、人工衛星との接続を確立する為のプログラムを用意し、それをスマートデバイスへインストールする。

 その後、リナリア島にて行われていたリゾート開発の過程で設置されたアンテナと人工衛星の通信接続を確立することで、あとは通信履歴に残されたデータを元に、一度交信をした場所への連絡が可能となるという寸法だ。


 ルーカスは言う。

「アクセスポイントの割り出し。暗号化されたパスワードの復号。それらを活用したネットワーク接続の確立。ヘルメスの履歴を辿れば、各国の国際識別番号やエリアコードを調べるまでもなく、手間な作業を省略して外部との交信が可能となるはずです。そして、そのプラグラムが今日完成しました」

「暗号化されたパスワードを抜き取って復号し、さらに活用しようだなんて話。自分方の設備に対してとはいえ、不正アクセスもいいところだ。確かに“開発側の視点”でなければ無理難題だな」

 感心しきった表情でいうジョシュアにルーカスは笑みを返す。

 これまでの話をいまいち呑み込めていないロザリアやアシスタシアが首を傾げるが、それを見たルーカスは先ほどの話の答えを打ち明けるように言った。

「つまり簡単に言うとだな、お前らが持っているスマートデバイスで外部との通信が出来るようになるってことだ。その通信先にはもちろん、ヴァチカン教皇庁も含まれている。

 ヴァチカンの重鎮、特にローマ教皇と直接的に話をする権限なんてそう多くの人が持っているわけではない。世界で数限られた人にのみ与えられた特権だ。そうだろう? ロザリア…… いや、ベアトリス総大司教猊下殿」

 名を呼ばれたロザリアはようやく全ての意味を悟った。

「確かに。世界中で起きていることの情報を得る為に、サンピエトロ寺院とのやり取りを行うのは有意義なことでしょう。各地の信徒達から得られた情報の全てが集まっているでしょうから」

 ルーカスは頷きながら、真剣な表情をして言う。

「加えて、だ。これは希望的観測でしかないが、俺はあることに期待している。プロヴィデンスに集められたデータの一部は歴史的な資料として、ある場所に電子記録化されているはずだよな?」


 この言葉の意図を直感したロザリアもまた、真剣な面持ちとなって言った。

「機密文書館。その鍵を持つわたくしであれば、ヴァチカンの文書館のデータベースにアクセスをし、プロヴィデンスから得たこれまでの情報のほとんどを閲覧することも出来るのではないかと。そういうことですわね?」

 ルーカスは静かに頷き、皆の期待に満ちた視線もロザリアに集まる。


 しかし、その淡い期待を否定するようにロザリアはあっさりと言い放った。

「残念ながら、その望みが叶うことはないでしょう」

「どうしてだ。これが叶えば今抱えている問題のほとんどが解決するかもしれない。大袈裟にいうわけでもなく、全人類―― 60億の人々の将来が関わっている話だぞ」

「それでも、ですわ。なぜなら、わたくしは機密文書館における“正規の鍵”を預かる者。そのような立場の者が不正アクセスによって得られた環境によって、文書館の電子データを閲覧するなどということは有り得ません」

「立場の話をしている場合じゃない」

「いいえ。聞いてくださいまし、ルーカス。わたくしは何も、自らの立場が総大司教であるからなど、そのような事情をもって不可能だと申し上げているわけではありません。

 仮にわたくしが貴方の言うプログラムと方法論を以て機密文書館の情報を閲覧できたとしましょう。しかし、あの文書館はそういった知識に疎いわたくしでも分かるほどに厳重な監視体制に置かれたものです。

 故に断言しましょう。一度の失敗が永遠の喪失を意味します。“正規の鍵によって不正が行われた”ことが察知されれば、この世から鍵というもの自体が失われてしまいかねない―― 理論上、可能であろうとも軽々しくおこなうべき行為とは言い難い」


 ルーカスは口を一文字に噤んだ。

 ロザリアの言うことは正しい。仮に機密文書館へ、不正な通信回線から正規の鍵を用いての接続が成功したとしても、先方のセキュリティによってすぐに弾かれてしまっては元も子もない。

 そうなってしまえば同じやり方は二度と通用しなくなってしまう。

 つまるところ、正規の鍵の権限停止も含め、彼女の言う通り“永遠の情報閲覧機会喪失”を意味するのである。

 その上、ヴァチカン教皇庁そのものを敵に回すことにでもなれば目も当てられない。


 しかし、一同が彼女から視線を外し、ルーカスも肩を落とす中でロザリアは声を潜めながら言った。

「ただし、わたくしではない“誰か”。そう、言うなれば聖書で語られるところのサタンであるような、そういう所業、罪を犯しても致し方ない立場の者であれば話は異なりましょう。

 わたくしが事に加担した…… という状況が成立しなければ良いのです。

 ですが、今この場においてはそのような方はおられません。故に、機密文書館に保管された電子データの閲覧の件は諦めてくださいまし」


 サタンのような存在。

 罪を犯して当然と言うべき、そんな存在などあるはずがない。

 彼女の語る言葉の真意を汲み取ることは出来ないにしても、持ちかけた提案が実現不可能に近いということを理解したルーカスは機密文書館への不正接続にこれ以上言及しなかった。

 そんな中、ジョシュアがロザリアに問う。

「だが、貴女は今の話の中でヴァチカンと連絡を取ることについては否定しなかった。つまり、それは可能であると認識しても宜しいので?」

「えぇ、もちろん。ただ……」

「ただ?」

 困り顔を浮かべたロザリアを全員がじっと見つめる。


 すると、どう言うか戸惑ったように、少しばかり恥ずかし気な面持ちで彼女は言ったのだ。

「スマートデバイスというものが、そのようなことも出来るものだとは思わず。2週間に渡り触っていませんの。充電? もしておりませんし。今、電源が入るのかどうかも知らず……」

「は?」

 言葉尻を濁した彼女を見て、ルーカスは容赦ない嘆息を漏らした。

 ばつが悪そうなロザリアはアシスタシアに助けを求めるような視線を向ける。だが、視線を感じ取ったアシスタシアは平然とした口調で言った。

「私のスマートデバイスは日々充電をしておりますので、御所望であれば、すぐにでもお預けすることが可能です。便利な代物であるということは、以前ミュンスターでの事件の折にフロリアンから教授頂きましたので」

 この言葉を聞いたロザリアは彼女からすぐに視線を逸らし、今度はアルビジアへと目線を送る。

 ところが、無言の助けを求められたアルビジアも苦笑して言う。

「ごめんなさい、ロザリー。機械に疎い私も充電くらいはしているし、電源も常に入っているわ。これでも一応、機構の隊員だから」


 誰も彼もが現代の日常に染まっている。

 ついに一人だけ居場所が無くなったロザリアに、ルーカスが呆れながらも仕方がないという風に手を差し伸べ、助け舟を出した。

「ほら、持ってるなら貸してみろ。使い方が分からないなら教えるから。一緒に使っていれば覚えるさ」

 溜め息交じりではあるものの、優しく言う彼の言葉にロザリアは渋々といった有様で従い、自身の持つスマートデバイスを差し出した。

 彼女からデバイスを受け取ったルーカスは機種を確認し、すぐに規格に適合する充電端子へと接続して充電を始める。


 なんだかんだと言い合いつつも仲の良さそうな二人のやり取りを眺める玲那斗であったが、それでいて先ほどの会話の中で妙に引っかかりを覚えたことが気に掛かった。


『なんだ? このもやもやとした感覚。ルーカスが言った言葉の中に、何か…… 世界人口は確か――』


 そう思いかけた時、ふいにルーカスが背中を叩いて言った。

「玲那斗も手持ちのデバイスを貸せ。すぐに通信が出来るようにプログラムをインストールするからな。開発者メニューを起動して外部デバッグ機能をオンにしておいてくれ」

「え? あぁ、分かった」

 思考を途中で遮られた玲那斗は間の抜けた返事をしてしまったが、言われた通りにスマートデバイスの設定を操作してルーカスへと差し出した。

 デバイスを手放した後で先の思考の続きを考えようとするが、そもそも何に疑念を覚えたのかすら思い出すことは出来ない。


『何だったかな。聞いた時に、違和感を覚えたんだが。まぁ、気にすることは無いか』


 軽く首を振り、自らの頭の中にある考えを振り払った玲那斗はルーカスを見やってから言った。

「ところで、全員のデバイスを集めてプログラムをインストールするということは、それぞれに通信をしてほしい場所があるという認識で良いんだな?」

 この問いに対し、ルーカスは手元で全員分のデバイスを手際よく操作しながら答える。

「あぁ、その通りだ。だが、俺とアルビジア、アシスタシアについてはプログラムをインストールするだけでどこに通信を行うわけでもない。ただ準備をするだけになる。重要なのは隊長とロザリア、そして玲那斗だ」

「隊長はセントラルか?」

「それもご明察。通信機能が回復した場合、真っ先に連絡を取りたい場所で間違いない。セントラル1 -マルクト-。それも、総監宛に通信が出来れば良いのですが」

 ちらりと視線をジョシュアに向けてルーカスは言う。

 その期待を受けたジョシュアは快く返事を返した。

「問題ない。ヘルメスの通信履歴から特定の場所へ回線を開くことが出来るというのであれば、総監執務室へ直通で通信要請を送ることは出来るだろう。そして、総監であれば拒むことはないはずだ」

「ありがとうございます。次いで、ロザリア。お前さんはもちろんヴァチカンだ。教皇か、それに匹敵するくらい情報通の誰かに連絡を取って、ヴァチカン内の様子や各信仰国の内情を聞き出してほしい。出来れば、10月9日以後にどういう変化が生じたのかについてもな」

「承知しました」

「ただし、ヴァチカンにはこちらの居場所を伝えない方が良い。聞かれても答えないようにな」

 その理由が一体なぜなのか気にはなったものの、ロザリアは潔く彼の言葉に従うことに決めて返事をする。

「重ねて、承知いたしましたわ。近況報告ということで、情報を集めてみることといたします」

 ロザリアとルーカスの会話を聞いていた玲那斗は言う。

「それで? 俺はどこに通信を入れ、どんな情報を得たら良い?」

 すると、ルーカスは玲那斗の目をしっかりと見据えて言った。

「英国だ。セルフェイス財団。ラーニーとシャーロットに連絡を取ってほしい。彼らなら、英国政府から流れてくる情報のそのほとんどを入手できるはずだろう? 極一部の機密も含めてな。その話をするのなら、玲那斗が一番の適役だと思う」


 理に適っている。玲那斗は瞬時にそう考えた。

 確かに、彼らセルフェイス財団であれば政府しか知り得ない情報を得ることだって出来るだろう。

 特に、彼らはアンジェリカと直接的に繋がりのあった立場であり、リナリア公国に所縁を持つ者達が巻き起こしている事件を話すという点において、既に全ての事情を知っているのだから特別何を気兼ねする必要も無い。

 ルーカスの提案に深く納得した玲那斗は快く返事をする。

「分かった、任されよう」



 こうして“状況を打破する為のきっかけを得るきっかけ”を手に入れることに成功したマークת、ヴァチカンの一行は、新たなる局面に至るべく各々が行動を開始するのであった。



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