5. 結論:俺たちは演技が上手くない
本番の数日前のこと。
「俺をテレビに出すだあ?」
「安心しなさんな。このご時世マスクしても許される。それでいつもと違う眼鏡をかけるか、逆に外すなりすればバレないバレない。それに恭輔も自己防衛の手段は身に着けてるんだし」
自分のスタイルを惜しみなく晒すパンツスーツに赤い口紅でタバコをふかすこの女は、まさしくやり手の女社長である。
俺自身別に可愛げもなければ社交的でもない。
母親が俺を利用したい気持ちはまざまざと感じ取れたのに、桃園アイラのような金のなる木にさせたいのか、自分の仕事を継がせたいのか、その思惑の真相を聞けば『都合のいい小間使いにしたいからその下地を育てている』と言われた時はかなり気が抜けたものである。
だからと言って学校を休ませてまで俺を現場に連れまわすな。
そのせいで、幼い頃は現場のスタッフから子役かと疑われたし、成長してからはこの陰気な見た目のせいでADと勘違いされたりもした。その時は母親に思い切り笑われたが、俺にとってはたまったものではない。
「アンタらのせいでな」
「それでよろしい。で、相楽が告白したら恭輔がそれに対して自分の本心を打ち明けな」
「片想い役の次は彼氏役かよ!?」
桃園アイラの所属している事務所は俺の母親が経営しているところだった。
ぽっちゃり系アイドルを形成させるような風変わりな母親だが、マネジメントの腕はあるようで、金になる人間を見つけるのは上手かった。
だが相楽がアイドルになったのはいわゆるコネである。多分風変わりな母親のことだから、相楽を受け入れたのは気まぐれだったのだろうが、彼女の努力が実ったとも言える。
だがそんな相楽はともかく俺をこれ以上振り回すな。そんな俺を見て母は一瞬目を見開いたものの、鼻で笑った。
「まあお前がそう思うならそれでいいよ。あの子元々そういうのに免疫無いからなんやかんやおっかないし、体のいいボディーガードってところかな」
「……クソババア」
「あぁ?」
普通に肝が冷えた。陰キャなんだから勘弁してくれ。反抗しても返り討ちにある。
やめようこれは女社長じゃない。ヤクザだ。所属している芸能人が姐御なんて呼ぶのも頷ける。
「…………アンタ俺を何だと思ってんの」
「都合のいい男の子供。なんども言わせんな。まあもうちょっと顔が良ければ金が儲けられたんだろうけど」
「相変わらず俺の扱い酷いな」
「私からの愛情だよ」
だがそんな彼らがその過程で炎上するのはよくあることで、その事務所に所属している誰かが炎上するとその身内にまで引火する。その様子を俺は真横で見ていたから俺は引きこもりがちになったのだろうなと思う。
「ま、せめて裏で守ってやってよ。遠くからじゃなくて一歩後ろからさ」
―――
その意味が分かるまで俺はずっとフラれるつもりで挑んでいた。
俺は放送が終わった後、どうやら相楽も同じことを考えていたようで、ぎくしゃくしながら改めて話をして色々話の辻褄合わせをしてお互いが両想いであることを再認識した。
「でもバカなのは恭輔もじゃん。あんなのが演技じゃないって気づかないとか」
「悪かったな鈍感で。でもプロもマジでとことん欺くぞ」
「じゃあ私も一回オーディション受けてみようかな」
いける気がする。なんて彼女は言っているが、アイツがどこのシーンで演じていたのか俺には分からない。もしかして。
「まだドッキリは続いてるのか……?」
「んなわけないでしょ!!まだ信じてないの!?」
「じゃあどこでお前は演技してたんだよ?これ以上俺を弄ぶのか??やめろよ俺はもう生きていけない……」
「情緒不安定か。じゃない、悲観してる暇あるなら攻めろや!いつもどストレートにしれっとドン勝するのに!!しかもソロプレイで!!」
「現実でんなこと出来たら苦労しねえよ!!」
「私相手なのに?」
なんでここでゲームの話をするんだ。恋愛でゲームのような爽快感が出るかよ。
それに俺にとって恋愛とかそういうのはゲーム感覚で出来ることじゃない。人殺さないし。流石に俺は現実で人は殺せないけど。
「…………そーだよ。悪いか」
何より相手がいくら気の知れた幼馴染みであっても、俺は相手を攻略するためのダンジョンの場所や必殺技、アイテムなんて一切知らない。いやアイテムはさすがに分かるか……?
だが俺の反応を見て相楽もみるみるうちに赤くなった。
「お、おう……」
「そんなんでよく女優とかほざいたな」
「だって!……アンタが私を好きになるずっと前から私、『友達』を演じてたんだからさ」
「…………それ俺も同じこと言えないか?」
「あ」
ぽっちゃり系アイドルの幼馴染みが俺をダシにしてダイエットする話 伊藤 猫 @1216nyanko
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