50y

このジェットコースターは老朽化が激しく、今日でラストランとなった。

この日は多くのお客さんが来るはずなのに、閑散としていて誰も来ない。

今日もそのおじいさんは来ていた。

誰もいないホームで、客集めのために誰も乗せずに定期的に走るジェットコースターを見て涙を流していた。


「おじいさん、これに乗ってみますか?」

私はそう言った。

坂を上がるだけ上がって、あとは逆転スイッチでそのままホームに戻ってくればいい。

その先は体験しなくてもいいと言っていたからだ。

もちろん、ルールに違反した行為だが、私はそれよりもこのおじいさんのほうが心配だった。

「じゃぁ、乗ってみるかな。」

そういっておじいさんは乗った。

そしていつものように安全バーを下ろし、スタートボタンを押す。

坂の上まで上がり、停止したらモーターを逆転。

そのままホームでブレーキをかけ、止まった。

「ありがとう。」そうおじいさんは言った。


数分後、その様子を見ていた人が次々に訪れてきた。

口々に「上まで行って戻ってきたい」といった。

おじいさんも嬉しそうだった。

そして、最終日はただ上に上がってまた戻ってくるだけのアトラクションになった。

それでも、楽しいという声がたくさん聞こえてきた。

だが、すぐにほかの係員の人に見つかり、通常運転に戻された。

処分されなかっただけましだろう。

その後は、通常運転なのにお客さんが来るようになった。





4:55 PM

「本日は当園にお越しいただき、ありがとうございます。まもなく閉園の時刻となります。」

そのアナウンスとともに、蛍の光が流れ出す。

複数の社員と相談して、最後はおじいさんにジェットコースターのすべてを任せることにした。


「それでは、ダンパラ出発です」

その掛け声とともに、まるで自分の手足のように滑らかに機械を操作する。

アナウンスまで完璧だ。

そして頂上で。

「本日は当園にお越しいただき、ありがとうございました。このジェットコースターはまもなく、ラストランを行います。この頂上から見れる景色もこれで最後です。おっと、自己紹介を忘れていました。私はこのジェットコースターの電装部分を作って、そのままこれの操作のために数十年勤めました。今では私の子供のような存在です。この話は長くなりますので...あ、時間が迫ってきたので落下です。それでは、時速60キロの旅へご案内します。3、2、1、降下!ありがとう、みんな!」

力強く降下ボタンを押す。

園内に響き渡る悲鳴。夕焼けに照らされ、黒い影で染まる台車。これらを見るのも、これで最後だ。


そしてホームで、「ありがとう」と言ってみんな降りていく。

「こちらこそ、ありがとう。そして、さようなら。」

そうおじいさんは言って回った。

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