それ全部もうひとりのしわざです

ちびまるフォイ

双子の有効活用

「その傷、いつできたんだよ」


「え? 傷!?」


トイレの鏡で見てみると、たしかにほっぺに傷ができていた。


「最近は家にずっとこもってたし、

 ケガするタイミングなんてなかったんだけどなぁ」


昔から自分は不思議な経験をすることが多かった。


知らないはずの土地を案内できたり、

見に覚えのない場所に傷ができたり。


昔は神童だとか神の子だとかもてはやされたが、

それも成人すると見向きもされなくなった。


けれど、いまだに同じ現象はたびたび起きている。


「とりあえず病院行ってみるか」


跡が残るといやなので、病院で診てもらうことに。

軽い気持ちで病院にいったが見つかったのは、別のやばい方を指摘された。


「あなた、肺が真っ黒ですよ。禁煙したほうがいい」


「禁煙!? いやいやいや! タバコ吸ってませんよ!?」


「ごまかしても無駄です。ほらこの写真がなによりの証拠です」


「ほんとなんですって!!」


傷よりも、身に覚えがない肺のほうを強く指摘された。

生まれてこのかた一度もタバコを吸ったことないのに。


納得いかないまま正月休みを迎え、実家へと帰省した。

実家では真剣な表情をした両親が待っていた。


「どうしたんだよ。いつになく真面目な顔して」


「そろそろあなたにも伝えなきゃいけないことがあるのよ」


「えっ……」


「実は、あなたには生き別れの双子がいるのよ」


「はい!?」


急に明かされた出生の秘密だったが、

別に怒るでもなく、ただただ「なぜ隠す必要が?」の疑問だけが残った。


「どうして今まで隠していたかというとね。

 あなた達、双子には昔から不思議な性質があったのよ」


「性質……?」


「片方がケガをすれば、もう片方も同じ場所に傷ができる。

 片方が風邪を轢けば、もう片方も同じになるの」


「あっ……」


「心当たりはあるみたいね。

 二人を離せばそれもなくなると思ったんだけど……。

 あなたの傷を見て、そうもいかないと思ったのよ」


「それで、もうひとりの双子はどこへ行ったんだよ」


「わからないわ。里子に出してそれきり探さないようにしたの」


「そんな……。こっちはいい迷惑だってのに!」


おそらく双子の片割れがタバコを吸い散らかした結果、

非喫煙者の自分の肺がまっくろになってしまったのだろう。


このまま好き勝手させる道理はない。


「ちょっとどこへ行くの!?」


「もう一人を探してくる!」


里子の住所やら昔の記録やらをたどっても、

現地に行くとすでにもぬけの殻。


「俺と同じ顔をした人はどこへ行ったんですか?」


「さあ……。逃げるように行ってしまったから、行き先も聞けなかったよ」


「くそぉ! なんてカンのいいヤツ!」


探せど探せどしっぽをつかむどころか見えやしない。

恐ろしく危険回避能力があるにちがいない。


「いや……。まさか、俺が追っていることを気づいたのか!?」


唐突に気分が落ち込んだり、嬉しくなったりすることがある。

感情も相互にリンクしているなら、今の気持ちもわかってるはず。


切羽詰まって探している気持ちが向こうにも伝わってるなら、

その気持ちが高まるほどに近づいてることがわかる。


まるで接近アラームのような役割になっているのだろう。

これではいつまで経っても捕まるわけがない。


「ちくしょう! これじゃ、いつまでも逃げられ続けちまう!」


探偵やらSNSやら他人を使って自分を探したとしても、

感情がリンクしている以上、見つけた瞬間に感づかれる。


「いったいどうすれば……」


がくりと、うなだれたとき目の前にすごい勢いで車が横切った。


「ばかやろう! 危ねぇじゃねぇかーー!」


運転者はすれちがいざまに怒鳴っていった。


「これだ……!」


走り去る車の後ろを眺めながら、ひとつのアイデアが浮かぶ。



次に車が来たとき、俺は自分の体を思い切り放りこんだ。




病院から退院するのは予定より早かった。

それでも病院の外では同じ顔をした人間が待っていた。


「やっぱりお前のしわざか」


「ああ」


「なんて無茶しやがる。大怪我して病院に運ばれれば

 逃げられないし、病院を探せばいいから手間がはぶける。

 そういうことだろ」


「さすが双子。なんでもわかるんだな」


俺はコートに隠していた銃に手をのばす。

銃口を突きつけても双子は動じていなかった。


「……驚かないんだな」


「ドッペルゲンガーに遭遇したら死ぬってのはお約束だろう」


「話が早いじゃないか。

 これ以上、俺の知らないところで

 勝手されるわけにはいかないからな」


この世界にふたりいた同じ顔の人間は、ひとりになった。




数日後。


仕事から帰って、家についた。


「ただいまーー……今日も疲れた」


「おかえり」


部屋にはもうひとりの自分がくつろいでいた。


「仕事おつかれ」


「疲れたよ……今日もめっちゃ怒鳴られた」


「知ってる。夕方あたりめっちゃ沈んでたもんな」


「じゃあ聞くなよ」


自分が帰ってくるタイミングをはかったように、

できあがったばかりの料理が並べられていた。


ふたりでご飯を食べながらお互いの顔を見つめ合った。


「金曜日はお前が仕事いく番だからなら」


「わかってるよ。そのかわり、俺のやってたゲームを進めといてくれよ」


「はいはい」


双子ではなくなってからは、ふたりで一人の生活を満喫している。

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