第55話

 それは今でも、例え刃物で刺されたとしても、子供の頃からの友情が揺らぐはずがないと信じたメグによる決死の諦念。

 そして彼女はきっと、フィクションとはいえ犯人探しをするような真似を望んではいなかったはずだ。だからこそ、あのエンディングに向かうことになる。


『……このストーリーにおけるメグの心境は、もしかするとサイの行為が物語っているのかもしれません』

「サイ……」

『はい。彼は犯人を吊し上げようとはせず、あくまで他のみんなの友情に望みを見出していたキャラクターです。そしてそれは、刺されたメグも同じ……なのでエンディングで、メグは診療所のベッドで、ナイフが自分の不手際で腹部に刺さったことにしたんだと、思います……——』


 メグは当然、ウネが殺意を持ってして刺したことを知っている。それは堂々と正面から、きっとどんな形相で襲い掛かって来たのかも判別付いていたことだろう。


 腹部の刺し傷が一生消えないかもしれない。

 もう仲直りなんで出来ないかもしれない。

 そもそも内臓の破裂や出血多量で死んでいたかもしれない。

 されど彼女は、ウネを庇う。

 こんなことで、友達を辞めてやらないと。


『——一応断っておきますが、この物語はナイフで人を刺すことを推奨していません。ウネのやったことは、誰かを、その誰かの親類を、更に傷付ける愚かな行為です。とても許されるようなことではありません……それでもメグだけは、腹部を刃物で刺された苦しみが、小島で積み上げて来たウネとの温かな過去を上回ることはないと……被害者と加害者になることなく、またお互いにやり直せると、ウネの犯行を隠すことにします——』


 例えばこの行為が第三者の手によって牛耳られていれば、問答無用でウネは司法によって裁かれ、ウネとメグは生涯、関わり合うことは無くなっただろう。

 全ての過去も、積み上げた友好も、何もかもが忘却されたに違いない。


『——正直このメグの決断が、のちのちどうなるのかは分かりません。いくら嘘でウネを庇ったとはいえ、刺した刺されたの事実は彼女たちの胸に残ります。残り続けます。そんな精神状態で仲直り出来るかどうか、また元の友人関係になれるのか……個人的には、難しいと思います。きっとメグもそれは理解しているでしょう……だとしてもメグはウネを、この5人の絆を信じたんだと思います』


 メグにどんな感情が働いていたのかなんて、別視点では分からない。それでも腹部の刺し傷の原因を決めるのは他でもないメグだ。だからその彼女が事故だと主張するなら、きっとそうなってしまうんだろう。つまりこの刺傷事件には、加害者はともかく被害者なんて、最初からいなかった……と。


『彼ら彼女ら5人が、今後どのような未来を歩むのか……これをきっかけに仲直りしているかもしれませんし、またバラバラな人生に戻っているかもしれません。他にも無数の選択肢があると思います。けれど5人は生きていて、ここまでされても友達を信じると秘密にした子がいます……命の危機に瀕しても簡単に切れてやらない幼少期からの友情。やり方は間違えていて、これからもきっとたくさんこ過ちを犯すことでしょう……それでもこの結束が永遠の物語であると、メグは願い続けます』


 そのまま茅ヶ谷はお辞儀をする。

 清聴に感謝を示すように。


「……優しすぎるよ」

「ああ……そうだな」

「このあとって、私たちどうなるのかな?」

「僕たち次第って、ことなんじゃないか?」


 5人のうち、メグの気持ちは提示された。

 それをどのようにして受け止めるのかは、プレイヤーキャラクターである4人に委ねられる……本当のエンディングを決めるのは、才原、畝村、横浜、富良野、次第という意味合いだ。


「ちなみに言うと、俺はもう決まってるよ」

「おー! 実は私も!」

「……私はキャラクター的に言い難いけど、意向は汲みたいなと思ってる」

「……なんだ、みんなもう決まってんのか。じゃあ話は早い、順番に言っていくか」


 才原、畝村、横浜、富良野の4人は、本当の意味でのエンディングを見つける。

 今し方顔を上げた茅ヶ谷も、4人の決定に盤上と見比べ、にこりと微笑んで首肯する。


 そのエンディングを知るのは、この準備室で一緒に遊んでいる5人だけ。それは彼ら彼女らの胸に刻まれることだろう。盤上に刻まれた、絆の巡り合わせのような、ミステリアスの温かな閉幕を。

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まだ刻まれていないミステリーボードの巡り合わせ SHOW。 @show_connect

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