デスゲームは理不尽

 夢を、見ていた。


 たまに見る、悪夢。

 中学生のときの夏休み。車に乗って祖父母の家に向かう途中。

 延々とガードレールと電灯が続く高速道路の風景。

 退屈な俺は携帯ゲームを手にうとうとしていて――

 対向車線から、こちらに急に方向を変え迫ってくるトラック。

 その姿は一瞬で視界を埋め尽くし、父は急ハンドルを切るが間に合わず――



 ―――



(――ああ、いつもの――)


 意識が覚醒してくる。目に入るのは白い天井で、


(――あの子は!? あ、あとあの男は――)


 うまく動かない身体を右に傾けると、点滴と機械類、無数のケーブル。

 ここは……病院……だよな?

 とりあえず殺されはしなかったようだ。

 あの女の子は……大丈夫だったのだろうか。


 右肩と左足が痛む。治療されているようだ。

 状況を知りたい。

 ナースコールと思われる、コードに繋がった白いハンドルのボタンを押す。

 先程から、廊下で誰かがバタバタと走る音がしている。

 看護師さんもすぐは来られないかもしれない。こんな世の中になって、病院も忙しいよなあ……


 あの夜のことを思い返す。

 まるでナイフとあの男が止まったかのような現象。あれは、アビリティなのか?

 ナースコールのハンドルを手に持ち、念じる。


(――止まれ!)


 ――――――――何も起こらない。正確には、手は光った。ナースコールは普通に動かせる。

 あれええええ?ナンデ?

 覚醒したとか隠された才能が開花したとかそんな感じじゃなかったんだ……

 急に暗くなったときに役立つライトマンとして生きていこう。

 芸人になるのも良いかもしれない。一部だけ光るアビリティの相方と組むんだ。

 コンビ名はライト兄弟だ。



 くだらないことを考えていると、テレビからザザッと雑音がする。

 電源は、入っていなかったような――

 黒い画面に白い文字で、文章が1行ずつ表示されてくる。


「アナタハ『ワールド・ゲーム』ニ選バレマシタ」

「100人カラ10人ニナルマデ勝チ残ッテクダサイ」

「脱落サセタ人数ニ応ジテ、ドンナ望ミモ叶エマス」


(……『ワールド・ゲーム』?

 アニメか何かか?その割にはBGMもないし、)


「次ノ条件デ脱落シマス

 1.生命活動ガ停止スル

 2.ゲームノ事ヲ参加者以外ニ伝エル

 3.頭ニ手ヲ乗セラレ勝利ヲ宣言サレル」


(脱落する……生命活動が、停止すると――デスゲーム?)


「参加ノ礼トシテ今ノアナタノ問題ヲ一ツ解消シマス」

「マタ、目ヲ授ケマス」


(……?)


 それきり、テレビの画面には何も映らなくなった。

 ふと気づくと、

 右肩も、左足も、痛みもなく、問題なく動く。

 身体のだるさまで消えていた。完全に健康体だ。


(は?

 『問題を一つ解消する』……今の俺の問題……怪我、が、治った……

 つまり、メッセージは、本物?)


 ゾクッ――と、背筋が、凍った。

 あの夜の男が言っていたこと。『俺が一位になる』。

 ――もしかして、このゲームの参加者で、殺して脱落させようとした……?


 考える間もなく、ズキッと、強い頭痛が襲う。

 同時に、意識が遠くなる感覚。

 この場を、上空から見下ろしているかのようなイメージが脳裏に浮かぶ。

 イメージには、いくつかの、『星のように輝く光』が感じられる。

 さらに、町、都市、日本全体、と、意識できる範囲が広がっていく。

 まるで、世界を、探索――スキャンしているかのような。


 光の大きさと色は様々だ。輝きが小さい光は白っぽく、大きい光は赤っぽい。

 動いている光と、止まっている光がある。

 今、自分から一つ、光が感じられる。

 同じ建物にもう一つ。動きは感じられない。

 一駅ほど離れた場所に二つ動いている。

 日本以外には光はないようだ。日本全体として……85個、ぐらいか。

 いつのまに、頭痛はおさまっている。


 このタイミングで、このイメージ。

 もしかして、ゲームの参加者の場所が感じられる……?

 これが、『目』。

 『目』というか、参加者の位置が分かる、『レーダー』だな。


 あの夜の男も、やけに直線的にこちらの場所に向かってきていた気がする。

 参加者はみんな『レーダー』が使えるのだろうか。


 というか、本当に、デスゲーム……もどきに巻き込まれてしまったようだ。

 あの夜から急展開で思考が追いつかない。

 ゲームを抜けることも、できなくもない……かもしれないが、ゲームが本当だとして。

 人を殺して勝ち残った誰かが願うことは、まともなことなのだろうか。

 そんな誰かを勝ち残らせて、いいのか?


 ガララ、という音が聞こえ、部屋の入り口の扉が開く。

 病室に、看護師さん、ではなく、スーツの男が二人入って来た。

 警戒心を隠し切れない俺に、前を歩く男は、

「警視庁の鬼塚です。一昨日の事件の捜査に協力をお願いします」

 警察手帳を見せながら、こういった。



 ―――



 刑事の鬼塚さんと田宮さんは、あの夜のことを捜査しているらしい。

 経緯を説明した。俺たぶんが、華麗にナイフと男を止めたところも説明した。


 あの女の子は無事だったようだ。本当に……良かった。

 健康に問題はないが、念のため入院はしているらしい。

 ようだ。どういうことだ。

 あと、ナイフはようだ。

 やっぱり止まっていたか。俺だよね?だよね?


 一位を目指しているという男の発言も説明したが、同じゲームに参加しているらしきことはぼかした。

 テレビにメッセージとして現れた脱落の条件3つ。


 1つ目は、死ぬこと。

 2つ目は、頭に手を乗せられて勝利を宣言されること。

 そして最後に、ゲームの参加者以外にゲームのことを話すこと。


 メッセージが本物で、そういうゲームが行われていて、ゲームに勝ち残ると望みが叶えられるとすると。足りない情報がある。


 


 特に、ゲームの参加者以外にゲームのことを話すこと。

 こんな脱落条件付けているからには、単純にゲームから脱落する以外にも何らかのペナルティがある可能性を考えなければならない。



 刑事さんから名刺をもらい、またの捜査協力を約束する。

 “レーダー”をイメージする。同じ町のもう一人の参加者は、病院の近くまで近づいてきたようだ。

 不穏すぎる……

 あの夜の男は、俺とあの子、二人とも殺そうとしていた。

 


 『レーダー』で見つかった、病院内にいて動いていない参加者は――おそらく入院している、あの女の子。

 会わなくては。早急に。

 点滴を勝手に外し、立ち上がる。看護師さん、お医者さん、ごめん。



 ふと、部屋が薄暗くなった。さっき時間を確認したときはまだ昼、14時ぐらいだったような――

 病室の窓を見ると、

 黒い鳥――いや、カラスだ。窓を埋め尽くす、無数のカラス。

 鳴きもせずに、全てのカラスがこちらを見ていた。

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ワールド・ゲーム ~ある日、全人類が能力を得た。俺の能力は最弱、かと思ったら最強でした!?~ @hiiragi_toshi

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